オバマ米大統領とトルドー・カナダ首相は3月10日米国ワシントンで会談し、北米全体の持続可能な経済の構築に向けた共同見解を発表した。昨年末の気候変動枠組み条約パリ会議(COP21)でまとめられたパリ協定が、気候変動対応に向けての世界的なターニングポイントとなると認識。両国がエネルギー開発や環境保護、北極地域課題の分野で協力してきた歴史を踏まえ、今後も世界規模の低炭素社会構築に向けて国際社会をリードしていく姿勢を示した。また、気候変動に係る議論に先住民の声も反映させることでも一致。メキシコへの支援を含む北米全体の気候変動対策に関する内容も盛り込んだ。
今回の共同宣言には、気候変動対策における広範囲の内容が盛り込まれた。パリ協定の履行に当っては、各国が自発的に温室効果ガス排出量削減目標を定めた約束草案(INDCs)の達成に向け、両国は詳細計画を2016年までに制定することで合意、さらに気候変動分野における途上国支援を協調させるために設立された「NAP Global Network」を通じた共同歩調を強化していく。炭素市場を活性化させることでも一致、炭素会計や削減量算出の「二重会計」を防止するための仕組みを構築する。環境規制でも連携する。石油・天然ガス産業からのメタンガス排出量を2025年までに対2012年比で40から45%削減させるため、米国環境保護庁(EPA)は来月までに同産業のメタンガス排出量削減に向けた設備導入を義務付け、カナダ環境・気候変動省は2017年早期に新たなメタンガス環境規制を開始させる。さらに、両国は、1991年の米加大気環境協定に基づく連邦政府レベルの政策連携強化、メタンガスデータ測定方法の向上でも協力すると同時に、世界銀行が進める油田・ガス田でのルーティーン・ガスフレアリングを撲滅させるイニシアチブ「Zero Routine Flaring by 2030」にも参加することも発表した。
パリ協定での内容を超える分野については、今年開催される「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」締約国会合で、HFC(ハイドロフルオロカーボン)規制強化の採択を目指すことや、採択に向け財政支援の仕組みを強化することで合意した。また、今年秋の国際民間航空機関(ICAO)会議では航空機の炭素規制やカーボンオフセットの導入を目指す。G20の場を通じて各国国内の燃費効率化や温室効果ガス排出に関する規制強化を求めることでも合意した。再生可能エネルギーの分野では、米加を越境する再生可能エネルギー送電網の促進、共通の省エネラベル「Energy Star」プログラムの拡大で合意に至った。
環境懸念が強まる北極圏地域での保護についても前進した。まず、科学的根拠に基づく生物多様性保護に向けて、2020年までに陸地の17%、海洋の10%を保全する共通目標を掲げる。環境保護への取組内容を決める上では、現地政府や先住民の伝統的な知見も採り入れていく。また、北極圏での持続可能な発展に向け、低炭素型航路の北極圏整備、漁獲高規制に向けた国際協定の制定、効果的な油田管理と非常時対応を含む分野で科学的根拠に基づく基準への遵守を実現していくことでも共同していく。
2015年12月のCOP21におけるパリ協定後、各国では具体的な政策や規制強化に向けた動きが進んでいるが、米国では対策強化に向けた意見が割れている。任期満了まで1年を切ったオバマ政権は環境規制に躍起になっており、カナダ政府を巻き込む形で政策を確たるものにしたい思いがある。米国との間で
共通の経済圏を形成するカナダの対応が今後、どのように米国に影響を与えていくか。注目が集まる。
【参照プレスリリース】U.S.-Canada Joint Statement on Climate, Energy, and Arctic Leadership
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