米経営学誌のハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)は10月16日、2016年度の「世界のCEOベスト100(The Best-Performing CEOs in the World)」を発表した。同ランキングは、在任期間中の株主総利回り(TSR)および時価総額の増加という視点から、世界で最も優れた財務パフォーマンスを上げているCEOを格付するものだが、昨年からは新たに企業のESG(環境・社会・ガバナンス)指標も要素として採用されている。構成比は、財務パフォーマンスが80%、ESG指標が20%。
【参考】ハーバード・ビジネス・レビュー、「世界のCEOベスト100」の選定基準にESGを追加
さらにESG指標の評価については、今年からESGデータ提供会社であるサステナリティクス(Sustainalytics)とCSRHabの2社のデータを採用し、それぞれの会社保有データについて10%ずつが配分されている。理由についてはHBRは、企業の業績を評価する上でのESGの重要性を認識しつつも、その測定方向については主観的な側面もあり、調査機関によっては同一企業のパフォーマンスの評価に相当な差異が生じていることに注目しているからだとしている。
今年度のCEOベスト15は、
- ノボノルディスク社 Lars Rebien Sørensen(医薬品)(デンマーク)
- WPP社 Martin Sorrell(広告代理業)(英国)
- インディテックス社 Pablo Isla(アパレル)(スペイン)
- アディダス社 Herbert Hainer(アパレル)(ドイツ)
- イタウ・ウニバンコ社 Roberto Egydio Setubal(金融)(ブラジル)
- NVIDIA社 Jen-hsun Huang(IT)(米国)
- LVMH社 Bernard Arnault(アパレル)(フランス)
- コンチネンタル社 Elmar Degenhar(自動車部品)(ドイツ)
- エア・リキード社 Benoît Potier(化学)(フランス)
- ヴァレオ社 Jacques Aschenbroich(自動車部品)(フランス)
- NIKE社 Mark Parker(アパレル)(米国)
- アンハイザー・ブッシュ・インベブ社 Carlos Alves de Brito(飲料)(ベルギー)
- ACS社 Florentino Pérez Rodríguez(建設)(スペイン)
- スターバックス社 Howard Schultz(飲食店)(米国)
- ブイグ社 Martin Bouygues(建設)(フランス)
ノボノルディスク社のSørensen氏は二年連続の1位。財務パフォーマンスは昨年同様6位だったが、ESGスコアが比較的高く総合1位を獲得した。一方、米IT大手アマゾンのJeffery Bezos CEOは財務パフォーマンス1位だがESGが足を引っ張り総合76位、同じく中国IT大手テンセントの馬化騰CEOも、財務パフォーマンスは2位だが、総合ランキングは42位だった。
日本企業のCEOは、ベスト15入りはしていないが、ベスト100には42位に日本電産の永守重信、46位にファースト・リテイリングの柳井正、73位にソフトバンクの孫正義、87位にエーザイの内藤晴夫の各氏がランクインしている。永守氏は財務パフォーマンス30位、柳井氏も財務パフォーマンス17位、孫氏も財務パフォーマンスは16位と、各人の総合ランキングより高かったが、ESGスコアが低かった。一方、内藤氏は、財務パフォーマンス106位だったが、ESGスコアが支えトップ100入りを果たした。
評価の手順としては、北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、オーストラリアのエリアを含む株式インデックス「S&P Global 1200」の採用銘柄を対象とし、各企業のCEOをリストアップ。その際、評価の対象となるに十分な実績を確認するため、在任期間が2年未満の人は除外された。また有罪判決を受けた人や逮捕された人も除外された。この段階を経てリストに残ったのは32カ国886企業のCEO895人(CO-CEOを含む)。さらに2016年6月30日以前に退任した人も除外され最終リストが完成した。
次にDatastreamとWorld Scopeを通して、CEOの着任日から2016年4月30日までの財務データを収集。1995年以前に着任した人については業種毎調整済み株主総利回りのデータが存在しないため、1995年1月1日を初日として計算した。そして、各CEOの在籍期間における国毎調整済み株主総利回り、業種毎調整済み株主総利回り、時価総額の変化の3種類の数値を基に算定した。株主総利回りについては、いずれも配当の再投資を含み、国毎調整済みの場合には地域全体の上昇分を、産業別の場合には産業全体の上昇分については相殺する(差し引く)という方法をとった。時価総額の変化に関しては、配当、株式発行、株式買い戻し分を調整し、インフレの割合を調整後に米ドルに換算した。
国毎調整済み株主総利回りと業種毎調整済み株主総利回りは、リターンの割合が事業規模に比べて高いため小規模の企業の方が有利になりがちであり、時価総額の変化は大企業の方が有利となる傾向がある。従って、各CEOの全体的な財務データとして前述3種類の数値の平均を割り出しているのは、バランスが取れ、堅実な方法だとHBRは見解を示している。
HBRは、今回のランキングの総括として「世界中の経済成長が緩慢で、政治的な不透明さが長期的計画の進展を妨げ、株主が企業経営陣にとって手強い批判者となっている今、CEOにとっては困難な時期だ」としつつ、「このような状況下で長期的な戦略を実践し、継続的な業績を積み重ねている経営陣がいることは心強く、『世界のCEOベスト100』はそのような個人を広く知らしめたい」と述べている。今回リストアップされたCEOの平均在任期間は17年にわたり、全体の財務リターンは平均で2.091%だった。
【ランキング】The Best-Performing CEOs in the World
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