地熱とは何か?
地熱発電とは、地球が地面の奥底に持っている熱エネルギー「地熱」を利用して、発電を行う手法です。
(出所)Wikipedia
地球の内側は非常に高温です。地球の中心に最も近い内核と呼ばれる部分(地下5,100km~6,400km)は、約6000度もの温度があります。その次に中心に近い外核と呼ばれる部分「外核」(地下2,900km~5,100km)でも、およそ4,300度と言われています。
その外核の外側には「マントル」と呼ばれる部分があります。このマントルは、地中約60kmから2900kmまでを占めています。下部の2900km付近は、約3000度ほどありますが、外側にいくにつれ温度は下がり、上部の60km付近では1000度以下にまで下がります。地熱としては1000度もあれば十分なエネルギーが得られますが、さすがに、このマントル上部まで掘削する技術や資金はありません。
しかし、マントルは、固体の岩ですが、緩やかに対流をしています。マントルが下部から上部にかけて上昇する箇所は「ホットプルーム」と呼ばれています。このホットプルームは、マントル下部の高温の岩盤を上に運ぶため、ホットプルームの上にある地殻は、他よりも高温となっています。このホットプルーム現象が、地熱発電のための大きな熱エネルギー供給源となっています。このホットプルームリッチに恵まれている例はアイスランドです。
(出所)岡山大学理学部浦川研究室
しかしながら、ホットプルームは地球上でも限られた箇所にしかありません。地熱発電のためのもう一つの重要な熱エネルギー供給源は、「マグマ溜り」です。マグマとは、マントルの一部がなんらかの影響で高温および高圧となり、固体であった岩盤が溶けて流体になった個所のことを指します。そして、流体となった岩盤は、浮力の影響で上へ上へと上昇し、地下5kmから10kmの付近で滞留して、「マグマ溜り」となります。マグマ溜りの温度は1,000度以上あると言われています。これが地熱発電のための熱エネルギー源となります。
(出所)「大地の変化」の達人
地熱発電とは何か?
地熱発電は、ホットプルームやマグマ溜りが周囲の地下水層を高温化させることを利用した発電方法です。
平たく言えば、水が高温化して発生した水蒸気のエネルギーを利用して、タービンを回し、発電をするのが、地熱発電です。沸騰したやかんが、やかんの蓋を持ち上げる力があることと原理は同じです。
熱水化している地下水層を、専門用語で「地熱貯留層」と呼びます。
地熱発電の種類
フラッシュサイクル
まず、ベーシックな地熱発電の方法(フラッシュサイクル地熱発電)をご紹介します。
(出所)日本地熱教会
まず、地下700メートルから3,000メートルくらいの深い井戸(蒸気井)を掘ります。この蒸気井から高温化して熱水と蒸気が混ざった流体物質を取り出します。
続いて、気水分離機により、熱水と蒸気が分離されます。抽出された蒸気は、タービンに運ばれ、タービンを回転させ、発電を行います。残った温水は、一部、金属物などの有害物質が含まれている可能性があるため、別の井戸(還元井)を通り、再び地中深くに戻されます。
また、タービンを回転させた後の熱い蒸気は、復水器にて冷やされて温水となり、さらに冷却塔にて外気に来よって冷却され、同様に還元井に運ばれ、地中に戻されます。
これが地熱発電の基本的なサイクルです。この方式は、熱水と蒸気を気水分離機によって一度だけ分離させるので「シングルフラッシュサイクル」とも呼ばれています。日本で最も多くの大規模地熱発電所で採用されています。
ダブルフラッシュサイクル
(出所)九州電力
シングルフラッシュサイクルに対し、こちらのダブルフラッシュサイクル方式では、熱水と蒸気を二度にわたって分離させ、より多くの蒸気を抽出することができます。
そのため、設備は複雑となり、建設コストも膨らみますが、発電量(出力量)を向上させる効果があります。
仕組みとしては、気水分離機によって1回目の熱水・蒸気分離が行われたあとに、残った熱水はフラッシャーと呼ばれるに送られ、さらにそこから蒸気が抽出される(2回目)というものです。国内で最大の地熱発電所、八丁原発電所で採用されています。
ドライスチーム
フラッシュサイクルが熱水と蒸気を分離させる方式であるのに対し、このドライスチーム方式は、熱水と蒸気を分離させるステップを踏みません。地下から取り出された蒸気がほとんど熱水を含まず、気水分離機を使って分離をさせる必要がない場合に用いることができます。1966年に運転を開始した日本で最初の地熱発電所、松川地熱発電所で採用されています。
バイナリーサイクル(バイナリー発電)
地下から取り出された蒸気や熱水が温度が低い場合に用いられる方式です。温度が低い場合には、蒸気のエネルギーが小さいため、効率的にタービンを回すことができません。そこで、蒸気エネルギーを別のエネルギーに変えるアイデアが生まれました。それがバイナリーサイクルです。
(出所)九州電力
バイナリーサイクルのポイントは、蒸気や熱水の力をそのままでは使わない点にあります。
地下から取り出された蒸気や熱水は、それ自体が高温であり熱をもっています。気水分離器で蒸気と熱水に分離されたあと、熱水は予熱器に、蒸気は蒸発器に送られます。そして、この予熱器と蒸発器により、沸点が水よりも低いアンモニアやペンタン・フロンが温められ、蒸発させられます。アンモニアやペンタン・フロンは沸点が低いため、水蒸気分よりも多くの気体を得られるのです。そのため、水蒸気をそのままタービンに運ぶより、より多くのタービンを回す力が得られます。
このバイナリーサイクルは、比較的新しい技術です。日本では八丁原発電所で試験的に運用が行われています。試験運用にはイスラエルのオーマット社製の設備が用いられています。
さらに、バイナリーサイクルは、比較的低温の熱水でも発電可能な技術であるため、現在、高温の温泉を施設にバイナリーサイクルの発電設備を併設させ、発電を行うという構想(温泉発電)も練られています。
高温岩体発電
(出所)電力中央研究所
これまで説明してきたフラッシュサイクルやドライスチーム、バイナリーサイクルは、地下から熱水や蒸気を取り出して行う発電方式です。
しかしこの方式は、地下に十分な水分が貯留されている場合には適用できますが、地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあり、水分がない場合には活用できません。
それに代わって、水分がなくても地下の熱を利用してしまおうというアイデアが、高温岩体発電です。仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を破砕し、人工的に地熱貯留層を創り出します。さらに、気水分離後や発電後に発生する温水を、還元井を通じて再び地熱貯留水に戻し、循環的に地下に水を溜めるシステムを作り上げるモデルです。高温岩体発電は深度2~3km 程度、岩盤温度200~300度程度のポイントを掘削対象としています。
この高温岩体発電の建設に際し、還元井のポイントを見極めることも大切です。還元井された温水は、再び蒸気井へとつながるポイントに戻っていかなければなりませんし、蒸気井に近すぎると、マグマ溜りで十分に加熱することができません。そのため、破砕の際の振動を分析し、この人工地熱貯留層へとつながる別のひびを掘削して、還元井を創りだすという技術が開発されています。
この高温岩体発電は国内ではまだ実用化されていません。しかしながら、国内で実用化されると、38GW以上(福島原子力発電所1号機~6号機までの合計が4.7GW)におよぶ資源量が国内で利用可能と見られています。(電力中央研究会)
海外では、グーグルの社会貢活動門「Google.org」が、高温岩体発電の研究開発に取り組む研究機関に対し、合計1,025万ドルを投資する計画を2008年に明らかにしました(情報はコチラ)。また、オーストラリアのジオダイナミクス社は、南オーストラリア州北東部のCooper Basinで大規模な高温岩体地熱発電プラントの建設を進めていましたが、建設完成が大きく遅延し、2016年8月に最終的に建設・運用コストが高くつきすぎると判断、地熱発電プラントの閉鎖と原状復帰を決定しました。
高温岩体地熱発電は英語で、Enhanced Geothermal systems(EGS)と呼ばれています。こちらの動画は英語ですが、とてもわかりやすくEGSを説明してくれています。
マグマ発電
さらに、掘削が比較的容易な高温岩体ではなく、より高温で多くの熱エネルギーが得られるマグマ溜り付近に地熱貯留層を創りだすという、「マグマ発電」構想も研究機関では練られています。
地熱発電のメリット
二酸化炭素発出量が少ない
(出所)Union of Concerned Scientists
発電コストが比較的低い
(出所)IEA
地熱発電の懸念点
資源の枯渇化
まず、「いつか地熱貯留層の蒸気や熱水が枯渇してしまうのではないか?」という点です。枯渇までいかなくても、何らかの状況により地下物質の温度や圧力が変わっても、従来通りの発電力は期待できなくなってしまいます。そのため、枯渇が見込まれた場合には、新たな発電所を建設する必要が出てきます。
さらに、地熱貯留層の水源を巡る温泉産業の反発という問題もあります。地熱発電により地下の熱水や蒸気が早期に枯渇してしまうのではないかという懸念や、地熱発電所が景観を損ね、観光地の魅力を下げてしまうのではないかという懸念が、温泉地から実際に上がっています。
費用対効果
次に、「必ず地熱貯留層を掘り当てられるか?」という問題もあります。地熱貯留層や高温岩体は地上からは100%の確率で掘り当てることはできないため、失敗すると膨大な費用が無駄になってしまう点です。この不確実性も、地熱発電促進の大きな足かせとなっています。
自然破壊の可能性
さらに、「自然破壊につながらないか?」という問題もあります。国内の地熱貯留層は山岳地帯に位置しており、エリアの大半は国立公園として保護されているエリアに該当します。1972年に当時の通商産業省と環境庁の間で交わされた覚書により、既設の発電所を除き、国立公園内に新たな地熱発電所を建設しないという取り決めがなされていました。しかし、東日本大震災後のエネルギー規制改革の中で、環境省は、2012年3月に『国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて』を発表し、国立・国定公園内の「普通地域」での地熱発電建設を許可、「第2種及び第3種特別地域」での傾斜掘削型の地熱発電建設を許可しました。そしてさらに2015年10月、「『国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて』の改正について」を発表し、「第1種特別地域」での傾斜掘削も許可しました。
日本や世界の地熱発電の現状については、別の記事で解説しています。
【エネルギー】世界と日本の地熱発電の現況〜日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に〜
夫馬 賢治
株式会社ニューラル 代表取締役社長兼サステナビリティ研究所所長
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