【金融】2016年 世界グリーンボンド市場の概況 〜世界のトレンドと発行首位中国の状況〜 2017/02/24 体系的に学ぶ

グリーンボンドとは

 グリーンボンドとは、調達した資金の使途(使い道)を環境目的に限定した債券(ボンド)のことを意味する概念です。債券には、国が発行する国債、地方自治体が発行する地方債、企業が発行する社債、国際機関が発行する国際機関債など発行体によって名称が変わりますが、いずれも同じ債券というカテゴリーに属します。グリーンボンドという言葉は2000年代後半から金融関係者や環境系国際機関などの間で使われるようになりました。環境保護や気候変動対応には資金が必要となります。「グリーンボンド」は、環境分野への新たな資金調達手段となることが期待され、従来の債券とは区別するために、独自の呼び方がされるようになりました。

 しかし、環境目的に限定した債券という広い理解はあっても、グリーンボンドの定義は長い間、非常に曖昧でした。例えば「環境目的」の意味。環境という用語は非常に広い意味で使われるため、どのような分野であれば「環境目的」と呼べるのかは自明ではありません。また、お金は銀行口座に入ってしまえばどこから調達したお金なのかの区別が難しくなります。調達した資金が環境目的に投じられているか否かを何をもって確認するかも不明確でした。そのため、グリーンボンドという大きな概念はあれど、市場関係者や政策関係者の間でも共通の認識が定着せず、市場にも「自称グリーンボンド」というものしか流通していないのが実情でした。

 この状況を打破したのが、2014年に国際資本市場協会(ICMA)が制定した「グリーンボンド原則(GBP)」です。ICMAは、世界の主要な市場関係者が集う業界団体で、スイス・チューリヒに本部を置き2005年に設立されました。ICMAの現在の加盟企業数は526。欧米を中心に発展し、特に欧州では政府から自主規制機関として認められています。そのため、欧米の金融機関が多く、日本の証券会社の欧州法人等も加盟しています。日本からも三菱東京UFJ銀行やゆうちょ銀行が加盟しています。このICMAが、2014年、それまで不明瞭であった「グリーンボンド」にある程度の規定を設け、グリーンボンドを発行する発行体と購入する機関投資家の理解促進や認識の一致、さらにはグリーンボンド市場の活性化を目指し、2014年に「グリーンボンド原則(GBP)」を制定しました。このGBPが今に至る大きなインパクトを起こしました。

グリーンボンド原則(GBP)とは

 2014年に制定されたグリーンボンド原則は、全7ページと比較的コンパクトにまとめられたグリーンボンド発行のための自主的ガイドラインです。グリーンボンド原則は、2016年に改訂され、現在はこの改訂版が最新版として参照されています。グリーンボンド原則は、「収益の用途」「プロジェクトの評価・選定手続き」「手続管理」「報告」という基本原則4項目で構成されています。4原則は、これまで不明瞭であったグリーンボンドの体面を整備するために、ある程度の枠を定めています。また2016年改訂版グリーンボンド原則では、グリーンボンド発行時の第三者保証のあり方なども明確にしました。グリーンボンドの発行体は、このグリーンボンド原則を自主的に遵守することで「グリーンボンド原則に則したグリーンボンド」を対外的に主張できるようになり、市場関係者の間での一定の共通認識が持てるようになりました。

気候債券イニシアチブ(CBI)とは

 しかしグリーンボンド原則は、比較的コンパクトにまとめられておりわかりやすいものの、逆にコンパクトであるが故に細部に関しては規定されていないことも多く、市場関係者の中でより細かい基準を求める声があがりました。そこで大きな注目を集めたのが、2010年に設立された英国環境金融NGOの気候債券イニシアチブ(CBI)が2011年に制定した「Climate Bond Standard(CBS)」でした。CBSは、グリーンボンド原則よりも先に原型が誕生し、グリーンボンド原則よりも細部に渡る規定を整備し、「基準」と呼べる性格のものを目指していました。2014年にグリーンボンド原則が制定されると、CBSはグリーンボンド原則に準拠したものに改訂され、2015年には新たに体系化された第2版「CBS v2.0」がリリースされます。2017年1月には最新版の「CBS v2.1」が発行されています。このように、グリーンボンドの定義については、政府当局や国際機関ではなく、業界団体やNGOが自主的に整備してきたという側面があります。Climate Bond Standard(CBS)も法令ではありませんが、業界のデファクト・スタンダードの役割を担うまでになっています。

 CBIは、CBSを発行するだけでなく、CBSに準拠したグリーンボンドに対する認証制度「Climate Bond Certification」も実施しており、認定されると「気候債券認証マーク」を発行書類等に掲載することができるようになります。またCBIは、CBIの認定を受けていないもののCBS基準を満たすグリーンボントの発行情報をブルームバーグなどを通じて独自に収集してくれているため、グリーンボンド発行のの世界的な統計発表機関としての役割も果たしています。CBIに捕捉されていないグリーンボンド発行も、CBIに連絡することで統計に追加してもらうことができます。また、2015年12月には、中国人民銀行が「中国でのグリーンボンド発行に関する指令(关于发行绿色金融债券有关事宜的公告)」を発し、その中で中国金融学会グリーンファイナンス専門委員会が発行するグリーンボンド対象リストを遵守するよう定めました。CBSは2016年からこららの総称「中国版グリーンボンド・ガイドライン」の下で発行されたグリーンボンド情報の収集も行っています。

2016年のグリーンボンド市場の概況


(出所)World Bank “What are green bonds?”

 世界初のグリーンボンドを発行したのは、欧州投資銀行(EIB)です。EIBが2007年に発行したこのグリーンボンドは「Climate Awareness Bond(気候問題への認知度を高めるための債券)」という名称で、発行額は6億ユーロです。この債券は、通常の債券とは異なる「仕組債」で、リターンをFTSEが特別に開発した株式インデックス「FTSE4GOOD ENVIRONMENTAL LEADERS 40 INDEX」のパフォーマンスを基に支払うという特殊なスキームが用いられました。当時からEUは二酸化炭素排出量を大幅に削減する意欲的な政策を掲げており、気候変動対策の柱となる再生可能エネルギーと省エネ分野への融資資金を調達するためというのが発行の背景でした。

 そして、翌年2008年に世界銀行グループの国際復興開発銀行(IBRD)が発行した約4億4,000万米ドルのグリーンボンドで、初めて「グリーンボンド」という名称が用いられました。こちらは、毎年利払いをする通常の債券です。発行の背景には、スカンジナビア年金基金から気候分野での債券商品への投資をしたいという需要があったことが大きく、また世界銀行にとっても、気候変動対応に資金を投じたいという思惑や、投資家に対して気候変動問題に対する認知を高めたいという思惑がありました。

 このように開発銀行主導で始まったグリーンボンドは、2012年までは大きな伸長はなく横ばいに推移。景色が変ったのは2013年からで、この年から民間の金融機関や企業によるグリーンボンドの発行が開始されます。さらにマサチューセッツ州など地方政府によるグリーンボンド地方債の発行額も急増しました。2014年にはこの流れが顕著となり、民間金融機関や企業の発行額が開発銀行の発行額合計を上回るまでに成長しました。このように、プレーヤーが開発金融機関という特殊なプレーヤーから、世界資本市場のメインプレーヤーである民間セクターに移ってきたことで、爆発的にグリーンボンド市場は拡大していきます。


(出所)CBIデータを基に筆者作成

 さて2016年。世界全体のグリーンボンド発行額は、CBS遵守によるものだけで810億米ドルに達し、中国版グリーンボンド・ガイドラインによるものまで含めると915億米ドルとなりました。グリーンボンドの発行額首位は中国で、CBSと中国版グリーンボンド・ガイドラインの合計で362億米ドルとなり、中国だけで世界全体の約40%を占めています。また、中国は、中国版グリーンボンド・ガイドラインによるものよりもCBSを満たすもののほうが発行額が大きく、その差は約2.5倍です。今や中国は世界のグリーンボンド市場を牽引するまでになっています。

CBSと中国版グリーンボンド・ガイドラインの違い

 CBIのClimate Bond Standard(CBS)と中国版グリーンボンド・ガイドラインには、いくつが違いがありますが、総じて中国版グリーンボンド・ガイドラインのほうが基準が緩いと言えます。

 まず「環境目的」の定義が異なります。CBSでは認められず、中国版グリーンボンド・ガイドラインで認められるものに、高効率火力発電(クリーン・コール)建設、化石燃料火力発電所の改良、送電設備、再生可能エネルギーとともに化石燃料を運ぶインフラ、50MWを超える大規模水力発電所などがあります。ちなみに、原子力発電はCBSでも中国版グリーンボンド・ガイドラインでも認められていません。

 そして、環境目的に投じなければならない資金使途の割合が異なります。CBSではグリーンボンド発行で得た資金の95%以上をCBSで定義する「環境目的」に使わなければなりません。一方、中国版グリーンボンド・ガイドラインではその割合が50%以上と低く、環境目的以外に使えるフリーハンドが大きくなっています。

中国でグリーンボンド発行が伸びている理由

 中国でグリーンボンド発行が急増している背景には、上記の「基準が甘い」ということに加え、グリーンボンド発行のほとんどに政府保証がついていることが挙げられます。中国企業が発行するグリーンボンドのうち、約70%には政府保証がついており、残り30%のうち18%は公営企業による発行です。世界的な形態での純粋な民間企業のグリーンボンド社債発行は約10%しかありません。そのためグリーンボンドの社債としての格付も、AAAが74%、AAが11%、Aが12%と非常に高く、投資家からの人気が高くなっています。

 中国のグリーンボンド格付が高い理由は他にもあります。中国のグリーンボンドは、72%が国内市場で販売され、国内投資家と一部免許を持つ海外投資家が大きな購入者となっています。国内市場で発行されるグリーンボンドの格付は、ムーディーズやS&Pなど国際格付会社ではなく、中国国内の格付会社から格付を取得することことがほとんどで、そのため格付が高くなる傾向にあると言えます。

 また、中国のグリーンボンド発行体のうち82%が商業銀行で、企業発行は16%に留まっていることも特徴として挙げることができます。中国は政府主導での再生可能エネルギー開発、省エネの推進、環境保護などを大規模に推進しており、膨大な資金需要があります。商業銀行はグリーンボンド発行を通じて市場から資金を調達し、これらの分野に融資を進める戦略を立てています。

グリーンボンドの使途


(出所)CBI

 2016年のグリーンボンドの使途は、エネルギー分野が最大の68%を占め、再生可能エネルギー分野へ多く投じられていることがわかります。続いてグリーンビルディングなど不動産分野や産業界の省エネ分野が18%、交通・運輸分野が16%、水14%、廃棄物6%、農林業4%、気候変動適応6%の順です。

今後に向けて

 2016年12月にポーランドが世界史上初のグリーンボンド国債を発行したのに続き、2017年1月にはフランスが先進国として初めてグリーンボンド国債を発行しました。機関投資家の間でもグリーンボンドの認知度はここ数年で大きく浸透し、グリーンボンドの発行情報は広く行き渡る状況となりました。世界経済が大きな気候変動リスクを抱えていることについては、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)がリスク開示のフレームワーク原案を発表したように、これから金融機関内でも事業会社でも気候変動対策に向けた大きな資金需要が生まれていくことが容易に想像できます。環境分野に資金を供給する役割を果たしてきたグリーンボンドの存在感はますます大きくなっていきます。

 グリーンボンド市場の活性化に向けて重要なことは、グリーンボンドは国債や社債であるという原点をしっかり認識することです。すなわち、グリーンボンド市場の活性化は、国債や社債を扱う金融市場そのものの発展や国際化なしには成し得ないということです。社債や国債が国境を超えて発行、取引されている今日、付加価値商品としてのグリーンボンドを国際基準を満たすものに仕上げてマーケットに提供していくことは非常に重要なことです。金融市場は年々国際化し、国境を超えた競争が激しくなっています。グリーンボンドの世界でも日本の商品競争力を高めていくことがとても肝要なことだと考えています。

【参考】ICMA “Green Bond Principles 2016”
【参考】CBI “Climate Bond Initiative v2.1”
【参考】World Bank “What are green bonds?”
【参考】Green Bonds Highlights 2016
【参考】CBI “The state of the market in 2016”
【参考】CBI “China Green Bond Market 2016”
【参考】中国人民银行关于发行绿色金融债券有关事宜的公告
【参考】绿色债券支持项目目录

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長兼サステナビリティ研究所所長

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