米経営学誌のハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)は10月30日、2019年度の「世界のCEOベスト100(The Best-Performing CEOs in the World)」を発表した。同ランキングは、在任期間中の株主総利回り(TSR)および時価総額の増加という視点から、世界で最も優れた財務パフォーマンスを上げているCEOを格付するものだが、昨年からは新たに企業のESG(環境・社会・ガバナンス)指標も要素として採用されている。構成比は、財務パフォーマンスが70%、ESG指標が30%。昨年まではESG指標が20%だったが、ウエイトを上げた。
【参考】ハーバード・ビジネス・レビュー、「世界のCEOベスト100」の選定基準にESGを追加
2019度のCEOベスト15は、
- NVIDIA Jensen Huang(IT)(米国)
- セールスフォース・ドットコム Marc Benioff(IT)(米国)
- ケリング François-Henri Pinault(アパレル)(フランス)
- テキサス・インスツルメンツ Richard Templeton(半導体)(米国)
- イベルドローラ Ignacio Galán(電力)(スペイン)
- ADOBE Shantanu Narayen(IT)(米国)
- マスターカード Ajay Banga(金融)(米国)
- KBC Johan Thijs(金融)(ベルギー)
- マイクロソフト Satya Nadella(IT)(米国)
- LVMH Bernard Arnault(アパレル)(フランス)
- レレックス Erik Engstrom(IT)(英国)
- エドワーズライフサイエンス Michael Mussallem(医療機器)(米国)
- コンチネンタル Elmar Degenhar(自動車部品)(ドイツ)
- ヴェスタス Anders Runevad(製造業)(デンマーク)
- ダッソー・システムズ Bernard Charles(IT)(フランス)
昨年の上位15位までのCEOのうち、9人が2年連続で今年も15位以内に入った。今年の首位は、NVIDIAのJensen Huang CEOで昨年は2位。財務パフォーマンスが4位と高く、ESGスコアもまずまずだった。2年連続15位入りしたのは、NVIDIA、セールスフォース・ドットコム、ケリング、ADOBE、KBC、マイクロソフト、LVMH、エドワーズライフサイエンス、コンチネンタル、ダッソー・システムズ。昨年1位だったインディテックスのPablo Islaは、CEOから会長に退いたため、評価対象から外れた。
日本のCEOは、昨年9位だったシスメックスの家次恒会長兼社長が33位に後退したがランクイン。ESGスコアが高いものの、財務パフォーマンスが191と大幅に下がったことが響いた。続いて、花王の澤田道隆CEOが36位で今年初ランクイン。同社はESGスコアが高く、ESGウエイト増が功を奏した。資生堂の魚谷雅彦CEOも52位で初ランクイン。ユニ・チャームの高原豪久CEOも72位と同じく初ランクインした。一方、昨年35位のファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ESGスコアが低く、54位に後退。昨年55位だったソフトバンクの孫正義会長兼社長も同様の理由で96位に後退した。昨年30位だった日本電産の永守重信CEOもESGスコアが低く、43位に下がった(*)。
他にも、財務パフォーマンス1位の米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、ESGスコア・ウエイト増加の影響を大きく受け、昨年の68位から今年はランク外へ。財務パフォーマンス2位の中国テンセントの馬化騰CEOは63位に食い込んだ。その他、財務パフォーマンス上位組は、3位ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOが総合ランキング83位、4位NVIDIAのジェン・スン・ファンCEOが総合ランキング2位、5位ブラックロックのローレンス・フィンクCEOは総合24位、6位セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEOは総合2位、柳井氏と同率7位LVMHのベルナール・アルノーCEOは総合10位だった。
評価の手順としては、北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、オーストラリアのエリアを含む株式インデックス「S&P Global 1200」の採用銘柄を対象とし、各企業のCEOをリストアップ。その際、評価の対象となるに十分な実績を確認するため、在任期間が2年未満の人は除外された。また有罪判決を受けた人や逮捕された人も除外された。この段階を経てリストに残ったのは29カ国870社のCEO881人(CO-CEOを含む)。
次にDatastreamとWorld Scopeを通して、CEOの着任日から2018年4月30日までの財務データを収集。1995年以前に着任した人については業種毎調整済み株主総利回りのデータが存在しないため、1995年1月1日を初日として計算した。そして、各CEOの在籍期間における国毎調整後株主総利回り、業種毎調整後株主総利回り、時価総額の変化の3種類の数値を基に算定した。株主総利回りについては、いずれも配当の再投資を含み、国毎調整後の場合には地域全体の上昇分を、産業別の場合には産業全体の上昇分については相殺する(差し引く)という方法をとった。時価総額の変化に関しては、配当、株式発行、株式買い戻し分を調整し、インフレの割合を調整後に米ドルに換算した。
国毎調整済み株主総利回りと業種毎調整済み株主総利回りは、リターンの割合が事業規模に比べて高いため小規模の企業の方が有利になりがちであり、時価総額の変化は大企業の方が有利となる傾向がある。従って、各CEOの全体的な財務データとして前述3種類の数値の平均を割り出しているのは、バランスが取れ、堅実な方法だとHBRは見解を示している。
ESG指標の評価については、昨年からESGデータ提供会社であるサステナリティクス(Sustainalytics)とCSRHubの2社のデータを採用し、それぞれの会社保有データについて15%ずつが配分されている。理由についてはHBRは、企業の業績を評価する上でのESGの重要性を認識しつつも、その測定方向については主観的な側面もあり、調査機関によっては同一企業のパフォーマンスの評価に相当な差異が生じていることに注目しているからだとしている。
今回リストアップされたCEOの平均在任期間は15年。S&P500平均の7.2年より大幅に長い。またランクインしたCEOのうち女性は4人だけだった。
[2019年11月2日訂正]
*: ランクを訂正した。それに伴いタイトルも訂正した。
【ランキング】The Best-Performing CEOs in the World 2019
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