国際環境NGOの世界資源研究所(WRI)は1月6日、直接空気回収(DAC)技術の動向と市場ポテンシャルを分析した結果を発表した。DACは、年々注目度が大きくなっている技術。気候変動緩和のためには二酸化炭素排出量の削減が必要だが、気温上昇を1.5℃や2℃に抑えるためには、もはや排出削減や森林破壊削減だけでは対策が不十分であることもわかってきている。WRIは今回、二酸化炭素除去(CDR)技術の一つとして、DACの重要性が高まっていると見立てた。
DACは、植林等の自然ソリューション型のCDRとは異なり、化学反応を通じて大気中の二酸化炭素を固定する技術。一般的な手法は、ファン等で大気を吸収し、その中で二酸化炭素のみを液体溶媒や固体溶媒等を通じて吸着するというもの。炭素回収・貯留(CCS)との区別では、CCSはまず工場等で排出される二酸化炭素を吸着することを念頭に置き、工場での「排出減」を狙うのに対し、CCSの中でもDACと言うと、スタンドアローンで大気中の二酸化炭素を隔離することを想定している。
DACでは、熱エネルギーを必要とするが、液体溶媒と固体溶媒では大きく必要熱エネルギー量が異なる。現在用いられている液体溶媒の場合は約900℃、固体溶媒の場合は80℃から120℃を要する。そのため熱エネルギーの脱炭素化も必要なため、地熱発電や原子力発電とセットで構想することが最初のステップになるという。近年では他の再生可能エネルギーとのセットも模索されている模様。
その他にも、工場や発電所の廃熱でDACの熱エネルギーを確保することや、コージェネレーション(熱電併給)型のガス火力発電にCCS技術を活用してカーボンニュートラルにし、その熱エネルギーでDAC設備を動かすことも検討されている。特に、ガス火力発電を長期間使い続けたい自治体では、この手法の可能性が検討される傾向が強いとした。電源ミックスとの関係では、再生可能エネルギー発電が不調の時間帯はコージェネレーションで発電を行い、好調の時間帯はコージェネレーションでDACを稼働させる等の選択肢があるという。但し、2050年以降では、ガス火力発電そのものを廃止しなければならなくなるため、DACの稼働エネルギーも脱化石燃料化が必要とした。
液体溶媒と固体溶媒では、熱エネルギーの観点からは固体溶媒の方が優れている。また、液体溶媒はコスト削減のために大規模化が必要となるため、サイズの柔軟性でも固体溶媒に軍配が上がる。土地面積との関係では、面積当たりの炭素固定量が限られる植林に比べ、DACには面積効率の利点がある。また面積当たりの熱エネルギー生産では、太陽光発電より、地熱発電や原子力発電の方が効率が良くなる。例えば二酸化炭素排出量を100万t吸収するために必要な面積は、植林では862km2、太陽光発電と固体溶媒では1.6km2から2km2、地熱発電と液体溶媒では0.2km2から0.6km2、地熱発電と固定溶媒では0.2km2。但し植林と異なり、DACは吸収後の二酸化炭素排出量の処理の安定性に課題がある。
液体溶媒タイプのDAC稼働に必要な水消費量は、DACを設置する土地の気温と湿度に左右される。基本的に低温で湿度の高い地域ほど、水消費量が少なくなる。それでも米国で二酸化炭素を1t吸収するために必要な水消費量は2tから7tも必要となる。固定溶媒タイプは、溶媒により大きく異なるものの、現在検討されているベーシックなものでは1t吸収のための1.6tの水が必要となるという。
DACのコストは、今日では1t吸収するのに、250米ドルから600米ドルと極めて高額。それに比べて植林は1トン当たり50米ドルで収まる。WRIは、DACのコストは政策の後押し等で今後5年から10年度で150米ドルから200米ドルほどには低減すると予測した。一方、吸収した二酸化炭素の付加価値をどのように付けられるかも、経済性において重要なポイントとなる。
【参照ページ】Direct Air Capture: Resource Considerations and Costs for Carbon Removal
【画像】Climeworks
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