欧州委員会は2月2日、継続議論となっていた天然ガス及び原子力エネルギーでの「タクソノミー補完的委託法令」を決定した。今後、EU理事会と欧州議会での異議申立て期間に入り、異議がなければ自動発効する。しかし、すでに各方面から内容については異論が出ており、紛糾が予想されている。
今回の委託法令の原案は、1月に発表されており、その後、諮問機関であるサステナブルファイナンス・プラットフォームは、原案撤回を答申したが、欧州委員会は強行突破を選んだ。欧州委員会は、今回、慎重に諮問機関や欧州議会と協議を重ねたことを強調し、事前での丁寧な調整を試みたが、最終的に調整が付かなかったことが伺える。機関投資家や産業界からも批判が出ており、すでに不協和音が流れている。
【参考】【EU】欧州委、天然ガスと原子力のEUタクソノミー最終協議開始。1月中に最終採択へ(2022年1月4日)
【参考】【EU】欧州委専門家会合、EUタクソノミー補完的委託法令から原発・天然ガスの排除を答申(2022年1月25日)
今回の委託法令は、EUタクソノミー規則に基づく確定済みの気候変動緩和・適応のEUタクソノミー委託法令に、原子力エネルギーと天然ガスを追加するための条件を定めたもの。EUタクソノミー規則では、対象となる事業分野として、「低炭素」「トランジション(移行)」「イネーブリング(実現」の3つを掲げており、原子力エネルギーと天然ガスは、理想的な再生可能エネルギー普及へのつなぎ策を意味する「トランジション」として、EUタクソノミー規則に入れることを決めた。特に脱石炭を実現することに重きをおいた。
金融機関や上場企業大手に課す情報開示ルールにおいては、既存のEUタクソノミーと、原子力エネルギー及び天然ガスを区別して開示する要件を導入することで、機関投資家側の需要に応える。
今回の委託法令では、原子力エネルギーについては、「著しい害を及ぼさない(DNSH)」原則の尊重を保証した形であれば、欧州グリーンディールの政策目標であるカーボンニュートラルに貢献できると判断。その上で、原子力エネルギーがDNSHに適合するかは、専門家の間でも見解が一致しなかったと吐露した。結果、2020年のテクニカル専門家グループの報告書、及び2021年の合同研究センター(JRC)の報告書を盾に、「EU加盟国の規制枠組みの下で安全基準と廃棄物管理の要件を遵守することで、環境と人体で高水準の保護が確保されると結論付けられている」と言及。しかし、現行の規制枠組み以上のルールが必要と判断した。
具体的に掲げたルールとしては、先進技術への移行スケジュールと、放射性廃棄物処理施設での条件を付けた。まず、安全基準と廃棄物の最小化の観点から、将来の技術の研究と革新を奨励するための、核燃料サイクルが閉じた「第4世代」の先進技術は期限なしで容認。一方、現行の第3世代の中でも最良のものを「第3世代+」とし、2045年前の期限付きで容認。既存の原子力施設の耐用年数延長を目的とした修繕や拡張は2040年までの期限付きで容認した。
また原子力発電の放射性廃棄物については、低レベル放射性廃棄物の処分施設はすでに稼働していることと、設置立地加盟国は2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設を稼働させるための詳細な計画を策定していることを要件とした。
天然ガスについては、2030年までに天然ガスを使用する発電・熱プラントの新設やコンバイインドサイクル発電(熱電併給)や熱冷房の改修では、ライフサイクル排出量基準として、1kWh当たり100g未満等を要件に設定。特に、熱電併給と冷暖房活動では、天然ガス火力発電所を新設する毎に、同設備容量の石炭火力発電所を撤去することも要件に入れた。加えて、2035年までに燃料を天然ガスから再生可能ガスや低炭素ガスに完全に切り替えることも課す。
欧州委員会は、関係者の間で見解が一致しない中、厳しい条件を課すことで妥協策を見出そうとしている。各方面からの反応に注目が集まる。
【参照ページ】EU Taxonomy: Commission presents Complementary Climate Delegated Act to accelerate decarbonisation
【参照ページ】Questions and Answers on the EU Taxonomy Complementary Climate Delegated Act covering certain nuclear and gas activities
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