
欧州委員会とEU外務・安全保障政策上級代表(EU外相)は10月20日、同志国・地域に向けた新たな政治協力枠組「北極圏戦略」を発表した。安全保障とレジリエンスの強化、北極圏における気候変動への対応、繁栄、北極圏の人々と地域社会のための機会創出の4つを柱に据えた。
【参考】【EU】欧州委とEU外相、新たな北極圏戦略発表。石油、ガス、石炭の海底採掘を禁止(2021年10月16日)
今回の戦略では、デンマーク、フィンランド、スウェーデンのEU加盟3カ国が北極圏に位置し、50万人以上のEU市民が暮らしていると言及。また、ノルウェー、アイスランド、英国、カナダ、米国とも緊密な関係を築いていることから、北極圏における動向は、欧州の安全保障、気候変動、繁栄に直接的な影響を及ぼすと認識した。
北極圏の動向では、地球全体の平均よりも約4倍速いペースで温暖化が進み、生態系に影響を与え、人々の生計や地域社会を変容させていると表明。新航路の開通や資源発見により、北極圏の安全保障と経済の様相を一新しており、その結果、地政学的緊張、戦略的競争、軍事活動が増大しているとした。
柱の一つ目となる安全保障では、EU加盟国や北極圏のパートナーと協力し、NATOとの相補性を図りながら、備えの強化、重要インフラの保護、および欧州の砕氷船能力の拡充などを通じ、北極圏の環境下で活動する欧州の能力を強化する。特に、北極圏対応型かつ軍民両用(デュアルユース)・多目的能力の強化を図る。また、サプライチェーンのレジリエンスを確保し、北部の海上国境を保護し、重要な海底インフラを保全することで、長期的な状況対応能力と迅速な対応力に重点を置く。
「海上安全保障ハブ」も新設し、EU加盟国とパートナー国に対し、情報共有や北極圏における海上活動の監視強化を支援する。第一段階として、EUは北大西洋と北極圏の海底ケーブルを監視・保護し、修復を支援するための「北極ケーブル・ハブ」の設立を支援する。また、潜在的な脅威を検知するためのスマート技術にも投資を行う。同ハブは、影の艦隊(シャドーフリート)の追跡、違法漁業や汚染の検知、捜索救助活動の調整改善等も活動内容に含めていく考え。
気候変動対応では、研究、観測、モニタリングを強化。その一環で、EU加盟国やパートナー国と協力し、EUの新たな海洋モニタリング・観測イニシアチブ「OceanEye」を通じたデータ共有を進める。
繁栄では、北極圏は、再生可能エネルギー、重要原材料、軍民両用輸送、デジタル・コネクティビティ、持続可能な海洋産業の分野で経済協力の機会が生まれつつあると表明。雇用の創出、インフラの改善、コネクティビティの向上につながる持続可能な経済発展を支援する。特に、港湾、鉄道網、エネルギー・ターミナル、人工衛星・デジタルインフラ等の欧州のインフラを、新興の北極圏貿易・輸送ネットワークに統合するよう支援。欧州輸送回廊を軍民両用基準にアップグレードし、「レール・ノルディカ」プロジェクトの実施を加速することも盛り込んだ。
さらに、グリーンランドと欧州を直接結ぶ「パン・アークティック・ケーブル」を通じて、安全で強靭な海底ケーブル接続を支援する。同時に、「IRISアークティック・コネクティビティ」を通じ、政府通信のための安全な人工衛星アクセスを提供する。研究支援のための「EU極地研究ハブ」も新設する。
一方、2021年の「北極圏に関する共同コミュニケーション」に則り、EUは、北極圏を含む地域において、石油、石炭、天然ガスを地中に留めておくことを確保するという方針を定めており、今回はそれを堅持。その他の鉱物資源については、潜在力を開発できるよう、引き続き支援する。
地域社会への機会創出では、地域社会、若者、先住民族をEUのアプローチの中心に据え、教育、雇用、技能、社会的包摂に重点を置く。定期開催している「北極圏若者政策対話」を継続し、グリーンランドに「若者諮問委員会」を設立する。
【参照ページ】EU sets out a new Strategy for the Arctic
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