機関投資家の畜産業関連イニシアチブFarm Animal Investment Risk and Return(FAIRR)は7月22日、動物用医薬品(アニマルヘルス)大手10社の抗生物質の透明性を分析し、食肉サプライチェーン全体で透明性が著しく欠如していることを批判するレポートを発表した。薬剤耐性(AMR)問題を助長していると厳しく指摘した。
FAIRRは、畜産・漁業企業のサステナビリティを分析、評価する活動を続けてきたが、特に薬剤耐性の問題に焦点を当てている。薬剤耐性は、抗生物質に耐性を持つ病原体が出現することで、人間の生命が脅かされる現象で、股関節置換術や帝王切開術等の一般的な手術であっても、有効な抗生物質がなければ生存リスクがある。2018年には、最も有効な抗生物質の一つリファンピシンに体制を持つ結核に世界で推定50万人以上が感染している。
薬剤耐性の原因は、抗生物質の乱用。特に、世界の抗生物質の70%が畜産業で動物用に使用されている。動物由来の耐性菌でも、環境接触や食品摂食等を通じて、人間に感染するリスクがある。
今回の調査では、動物用医薬品を供給する側の大手企業を対象に分析を実施。米エランコ、米フィブロ、米ゾエティス、インドのZydus Cadila、中国Jinhe Biotechnology等10社が対象となった。10社の売上合計は470億米ドル(約5.2兆円)。結果、サプライチェーン、製造基準、マーケティング、畜産での製品利用を通して、AMRに関する包括的なポリシーを採用している企業は1社もなかった。
特に動物と人間の双方に使用される抗生物質「シェアードクラス抗生物質」に対しては大きな警鐘を鳴らした。米国では、ペニシリンやテトラサイクリン等の抗生物質65%が家畜用にも販売されており、非治療目的の予防用途で日常的に使用されている。その結果、耐性菌が発生する可能性が高い。すでに、欧米では、シェアードクラス抗生物質の使用は制限されているものの、新興国では規制や執行力が緩く、インドのZydus Cadilaや、中国Jinhe Biotechnologyが、タイロシン、アモキシシリン、レボフロキサシン等のシェアードクラス抗生物質を大量販売している証拠もみつかったという。
また、FAIRRは、製品ラベリングの問題も指摘した。現在の製品ラベルで「成長促進」や「日常的な予防」のために抗生物質使用をうたう製品もあり、これにより畜産家の誤用が助長。さらに、獣医師にアクセスできない畜産家にとって製品ラベルは唯一の使用ガイドであり、ラベルの適正表示の必要性を伝えた。FAIRRによると、ベトナムのメコンデルタ地域等では、予防目的の使用が畜産の抗生物質総使用量の84%を、中国では成長促進が2018年の食用動物における抗生物質総使用量の53%を占めていたという。
加えてFAIRRは、抗生物質の流出による環境汚染問題についても触れた。最近の研究では、世界の水系の3分の2以上に危険なレベルの抗生物質が含まれていることがわかっており、例えばオーストリアのドナウ川では、安全レベルの4倍の抗生物質が検出され、バングラデシュでは安全レベルの300倍の濃度が検出されている。
ロビー活動への支出も著しく増加しており、EUと米国だけでも2015年から2019年にかけて支出が約2倍にまで増加。新興市場のロビー活動費は未判明だが、一部の企業が規制強化に反対するロビー活動を展開していることも掴んだ。
さらに、米国では抗生物質扱いだが、EUでは抗生物質に分類されていないイオノフォアの状況も分析。英国の養鶏業では、医療上重要な抗生物質の使用量は、2012年から2017年にかけて80%減少したが、イオノフォアの使用量は30%も増加。実際に、エンラコは、動物専用抗生物質の2020年売上の85%がイオノフォアと答えている。このようにEUでは、「抗生物質を使わずに育てた」(RWA)とされている食肉の中にもイオノフォアが含まれている可能性があるという。
薬剤耐性問題に関しては、G7は今年の会合で、「抗菌剤耐性という静かなパンデミックに歯止めをかける」ために協力することで一致。抗生物質に関する企業責任を向上させる市場インセンティブも検討していくとしている。FAIRRは今回、動物用医薬品大手に対し、検査薬、ワクチン、治療法等の多様化を追求し、抗生物質へのエクスポージャーを減らすよう求めた。さらに同様のエンゲージメントを機関投資家に求めた。
【参照ページ】$47-Billion Animal Health Sector Fuelling Irresponsible Antimicrobial Use in Meat Supply Chains
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