【環境】排出権市場におけるカーボン・オフセットの在り方とは 2015/05/26 体系的に学ぶ

shutterstock_164106221
 世界の機関投資家らが集まり、企業に対して気候変動に関する情報開示を求めている国際団体のCDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)が影響力を強めており、それに呼応し企業側も対応を迫られています。そういった中、自社の温室効果ガス排出量の削減方法として注目を集めているのがカーボン・オフセットです。

カーボン・オフセットの仕組みについて

 自社における温室効果ガス排出量を特定し、その削減に努めても、閾値を超える削減は企業にとってコスト面で大きな負担となってしまいます。そこで「自社内で削減しきれない温室効果ガス」の埋め合わせとして、自社外プロジェクトに取り組み、同量の温室効果ガス削減を達成するのがカーボン・オフセットです。概念イメージを図示すると以下のようになります。
carbon-offset
(ニューラル作成)

 まず、自社により排出されている温室効果ガス量を算定します。次に自社内で削減できる温室効果ガスについては削減に努めます。その上で、依然自社内での努力だけでは削減が難しい量に関して社外プロジェクトによる埋め合わせを行います。

 その際に重要なのが、認証機関から認められたプロジェクトを適切に履行することです。たとえ社外で温室効果ガスを削減しても、その効果が実証されなければ本質的な意味はありません。そのため、プロジェクトの有用性を検証・認証する機関が存在し、それらの機関が定める方法論に則ってプロジェクトを行うことで初めて、「温室効果ガスを削減した」という事実が認められます。

カーボン・オフセットと排出権取引の違い

 京都メカニズムで有名になったため排出権取引をご存知の方は少なくありませんが、カーボン・オフセットとは似て非なるものだと理解しなければなりません。なぜならこれらは、そもそも目的が違っているからです。

 排出権取引とは、排出権を「金融資産として売買すること」を目的とした市場取引を指します。排出権は世界各国の経済状況や気候変動枠組み条約締約国会議(COP)の決定等により価格が変動します。

 一方、カーボン・オフセットは前述の通り自社内で削減できない排出量を「埋め合わせる」ために行うものです。つまり、自社外のプロジェクト実施により削減・吸収された温室効果ガスは自社の排出量削減のためにのみ使われ、他社に売買することはできません。つまり、カーボン・オフセットとはoffset=相殺の意の通り、自社内の超過排出量と自社外プロジェクトの削減量を相殺する行為であり、相殺した時点で排出権としての権利は失効します。

 失効というとネガティブな印象があるかもしれませんが、ここにおける失効とはカーボン・オフセットによりあるプロジェクトの排出権を無効化させ、その分の温室効果ガスを削減完了したものだとみなすことを指します。

様々なクレジット

 プロジェクトを通し、削減された温室効果の排出削減・吸収量を「クレジット」と呼びます。そして、そのクレジットは大きく分けて
・京都クレジット
・VER
の2種類存在し、検証・認証機関および方法論も違います。

credit
(ニューラル作成)

京都クレジット

 京都クレジットは、京都メカニズムで認められた国際排出権取引に利用可能なクレジットです。
・AAU (各国への排出権の初期割当量)
・RMU (先進国の森林拡大等による吸収量)
・ERU (先進国同士の共同プロジェクトによる削減量)
・CER (途上国におけるCDMプロジェクトによる削減量)
の4つがありますが、企業がカーボン・オフセットという手法を取る理由に、「コスト面からの自社内温室効果ガス削減の厳しさ」があることもあり、途上国でのプロジェクト実施により取得できるCERが主に用いられています。

 京都メカニズム第二約束期間に参加していない日本は、CERを国際取引市場で売買することはできませんが、上述の通りカーボン・オフセットのために取得したクレジットは自社の排出権の埋め合わせに使われ無効化されるため、CERを取得することはできます。

VER

 VERは、国連等の枠組み以外(各国政府や民間)で認められたクレジットの総称です。VERの中にはVCSやVER+等といった海外認証機関により発行されるクレジットと、JPAやJ-VER等日本の認証機関により発行されるクレジットがあります。これらは京都メカニズムで認められたものではないため、京都議定書目標に使うことはできませんが、国内で定められた温対法や低炭素社会実行計画などに利用することができます。

クレジットの購入方法

 排出量を削減したい企業が、同量の削減を行うプロジェクトにより発行されたクレジットを購入する方法には相対取引とオフセット・プロバイダーを介した取引の2種類あります。

emission trading credit2
(ニューラル作成)

 取引の大まかな流れは上の図のようになります。相対取引の場合、クレジットの購入を希望する企業(自社の温室効果ガスを削減したい企業)が温室効果ガス削減のプロジェクトを行う現地事業に直接連絡をとり、売買を行います。他方、オフセット・プロバイダーに代行依頼する場合、排出削減プロジェクトの提携先を探すところから代行してもらうことも可能です。

 温室効果ガス削減プロジェクトにより認証されたクレジットは、プロジェクト提携先の途上国事業の口座から移転という形での受け取りとなります。そのため、移転させるためにはクレジット管理用の口座を開設する必要があります。開設した口座にクレジットを移転し、それをさらに排出権無効化用の口座へ移転させることで排出権は無効化され、カーボン・オフセットが完了します。この口座開設やクレジットの移転に関してもオフセット・プロバイダーに代行依頼することが可能です。

emission trading credit
(ニューラル作成)

仕組みが複雑さを増す排出権市場

 京都メカニズム第二次約束期間に入り、カンクン合意が並走するなど足並みの揃わない排出権市場。各国・各地域で基準が異なるクレジットなど、その制度は複雑さを増しています。しかし一方でCDPは影響力をより強めているため、企業側も目を背けることはできません。

 現状、カーボン・オフセット自体の認知度が高くないことが課題であるものの、カーボン・オフセットを通じた商品PRにより収益が上がる等、マーケティング的な観点での機能が実証されつつあり、将来的な市場性に期待が寄せられています。国際的な制度変更による排出権の取引価格への影響など様々な投機的リスクを避けるためにも、金融資産としての取引目的ではなく排出権無効化を目的とするカーボン・オフセットは改めて見つめ直されるべき手法なのかもしれません。

著者プロフィール

菊池尚人

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所研究員

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る