【金融】アジア開発銀行 (ADB)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の論点 〜サステナビリティの観点から〜 2015/06/09 体系的に学ぶ

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サステナビリティから見るADBとAIIBの論点

 4月15日に中国財政部が創設メンバー国の顔ぶれを発表したアジアインフラ投資銀行(AIIB)。5月22日に創設メンバー国の代表が集って開催された会合では、年内にAIIBを正式に発足させるという目標が設定されました。日本はこの状況に対し、6月3日、安倍首相の指示を受けて発足した自民党の外交部会・財務金融部会・外交経済連携本部は合同会議を開き、AIIBに対する政府方針について、参加に関する明確な判断を避けつつも、参加に対して慎重な対応を求めることを決定、6月4日にその報告書を安倍首相に提出することとしました。

 一方、AIIBと対比されるアジア開発銀行(ADB)は、1966年に設立された地域開発金融機関。フィリピンのマニラに本部を置き、日本が最大の出資者。歴代の総裁も全て日本の財務官僚か日本銀行幹部から選ばれてきました。ADBの現総裁、中尾武彦氏は、3月25日、「ADBがAIIBに敵対するというオプションはあり得ない。条件を満たす形でAIIBが始動するならば、協調融資などで協力していく。それは日本の利益にもつながる」と発話し、アジア地域の膨大なインフラニーズのためAIIBと協力する姿勢を示しました。また同時に、「ただ、AIIBと協力する場合も、ADBの融資基準を堅持し、環境対策などに配慮しない支援は避けていきたい。ADBが歴史のなかで築いてきた信頼と条件には、重要視すべき点があると思う。環境や人権に配慮した融資基準を下げることは考えていない」と延べ、サステナビリティに配慮した現行の投融資方針を変更するつもりはないことを明確にしました。

 ADBとAIIBについては、「ブレトンウッズ体制の見直し」「日中の主導権争い」など国際政治の観点からの報道が多くありますが、双方の本来のミッションから鑑みるに、そもそも現在アジア市場と持続可能な発展において何が課題であるかというサステナビリティの観点からの報道はあまりないように感じています。そこで、今回は、ADB、AIIB、世界銀行が寄与するサステナビリティの視点から、時事の論点を整理していきたいと思います。

ADBとは何か?そもそもなぜ誕生したのか?

 ADBの参加国数は現在67。その内、日本、中国、韓国、インド、オーストラリアなど、アジア太平洋地域の域内国が48ヶ国、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツなど欧米の域外国が19ヶ国です。議決権は出資比率に応じて決まっており、日本が最大の15.67%、次いでアメリカ15.56%、3位中国6.47%、4位インド6.357%、5位オーストラリア5.81%、ちなみにEU諸国の合計は14.427%となっています。請求払い資本(出資金)は現在1,530億米ドル(約18.3兆円)です。ADBが実施している事業の主なものは、中央政府への融資(ソブリン貸付)、地方政府・企業への融資、政府や企業への協調融資、企業へのエクイティ投資で、2014年の投融資総額は約230億米ドル(約2.8兆円)、そのうち融資がで約130億米ドル(約1.6兆円)、投融資残高は2014年6月末時点で785億米ドル(約9.8兆円)です。

 ADBの最高政策決定機関は、各加盟国が一人ずつ総務として参加する総務会(Board of Governors)で、総裁は総務会で選出されます。全ての投融資の承認など日常業務の意志決定は理事会(Board of Directors)でなされ、12人の理事のうち域内国から8名、域外国から4名が隔年選出されます。総裁は理事会の議長を努めますが、理事会での議決権はありません。理事会での日常業務の意思決定は多数決でなされますが、議決権は理事一人ひとりが一票を持つ形式ではなく、各理事には担当参加国が決められており、各国が持つ議決権の合算がその理事の議決権行使力となります。各国に与えられている議決権は出資比率と同一ではなく多少補正されており、現在日本の議決権は、全加盟国総投票権数の12.84%となっています。

 では、ADBはなぜ発足したのでしょうか。発足した1966年の様子を、当時の日本銀行の調査「ADB設立の意義と問題点」から窺い知ることができます。ADB設立検討の舞台となったのは、国際連合の経済社会理事会でアジア太平洋地域を担当する当時の「国連アジア極東経済委員会」。その中で必要性が叫ばれていたのは、アジアの発展途上国が他国と開発計画を相互調整していくため中核的な役割を演ずる地域開発銀行の重要性と、先進国の経済成長のためにも南北問題を解決し世界的な貿易拡大が欠かせないという議論でした。そこで、欧米先進国などの域外資金を投入して、総合調整的にアジア発展途上国の経済成長を促そうという構想が生まれていきました。

 しかしながら、発展途上国の経済成長を支援する国際開発金融機関として、すでに世界銀行グループがありました。ADB設立にあたり、なぜ世界銀行グループがあるにもかかわらず、ADBが必要なのかという点も議論されていました。その理由として位置づけられたのは、旺盛な開発資金需要を満たすための追加的な資金供給、アジア地域の特殊性を考慮した上での独自の融資条件や手続きの整備、そしてアジア地域の連帯意識を高めるための域内の中核的機関の創設です。また課題点として、域内途上国が財政不安定な状況下で融資先選定などを健全に実施できるか、域内の政治的対立から独立した存在になれるかなども挙げられていました。こうして、ADBは、すでに先進国の仲間入りをしていた日本を中心に、欧米の資金をアジアのインフラ需要に効率的に投入する仕組みとして今日まで49年間その役割を果たしてきました。

開発金融機関とサステナビリティ

 1990年前後には、世界銀行やADBなど開発金融機関が投融資を通じて途上国の開発を支援する中で、開発が環境・社会面に与える悪影響が課題視され始めました。すなわち資金供給先である開発金融機関にも環境社会被害への責任があるという考え方の普及です。そこで、開発金融機関は、環境社会被害の未然防止を図るとともに、融資実施後のモニタリングを通じた適正管理を行うため、投融資における環境社会配慮ポリシーやガイドラインの策定を始めます。世界銀行が採用したのは「セーフガード政策」と呼ばれる予防策です。投融資候補先の事前審査において、(1)環境評価、(2)自然生息地、(3)林業、(4)害虫管理、(5)文化財の保護、(6)非自発的住民移転、(7)先住民族、(8)ダムの安全管理、(9)紛争地域における事業、(10)国際水路における事業の10分野を十分に考慮しようという内容です。このセーフガードはその後幾度か改訂され、今日では、世界銀行グループの中で途上国の民間セクター支援を行う国際金融公社(IFC)は、「社会・環境の持続可能性に関するIFC政策(International Finance Corporation’s Policy on Social and Environmental Sustainability)」と「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準(IFC Performance Standards on Environmental and Social Sustainability)」という2つの文書を、サステナビリティのための柱と位置づけています。

 ADBも同様の道を歩みます。1991年に「業務手続きに関するガイドライン~ADB 業務における環境配慮」を導入、資金を供与するすべての貸付に対して環境評価手続きの実施を求め、その結果を踏まえて、環境レビューを行う運用を開始しました。今日では、(1)環境、(2)非自発的住民移転、(3)先住民族の3つの分野に整理されたセーフガード政策が機能しています。ADB以外の地域開発金融機関も同様のガイドラインを整備しており、今や世界銀行の社会環境配慮ポリシーは、業界のデファクト・スタンダードとなっています。

アジアインフラ資金需要の状況

 それでは、開発金融機関が対象マーケットとするインフラ資金市場の状況はどうでしょうか。新興国の経済発展が急速に進む中、インフラ資金需要は大きく膨れ上がっています。ADBがまとめた報告書では、アジアで2010〜2020年にかけて必要なインフラ投資額は約8兆米ドル(約996兆円)に上ると算出されています。世界銀行グループのジム・ヨン・キム総裁もまた、「(途上国がインフラに費やす資金は年間約1兆ドルに上るが、現在の成長率を維持し、将来の需要を満たすためには)我々の試算では、道路、橋、鉄道、空港、発電所といったインフラへの投資には世界全体で年間1~1.5兆ドル(約124〜187兆円)が追加で必要である。」という見通しも示しています。この額はとてつもない規模です。上述したADBの昨年の投融資額が約230億米ドル(約2.8兆円)であることと対比するとその膨大さが見とれるでしょう。もちろん、全てのインフラ投資を開発金融機関だけで担う必要はなく、民間の金融機関や事業会社も巨額な投資をしていますし、むしろ民間投資のほうがインフラ投資のメインプレーヤーと言えます。だとしても、民間投資の呼び水効果を果たす開発金融機関の信用マネーが果たす役割は非常大きく、まだまだ開発金融機関の資金供給が需要に追いつかないというのが現状です。

AIIBとは何か?

 冒頭でも紹介しましたが、アジアインフラ銀行は、4月15日に創設メンバー57ヶ国が決まり、年内の正式発足へ向けて動き出しています。この57ヶ国のうち41ヶ国はADBの参加メンバーでもあります。ADBに参加していて、AIIBに参加していないのは、日本、アメリカ、そしてAIIBでは投資対象地域から外れた太平洋諸国のクック諸島、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ、東ティモールの14ヶ国、及びアフガニスタン、アルメニア、ブータン、トルクメニスタン、トルコ、アイルランドという国々です。台湾、香港、ベルギー、カナダもAIIBには未参加ですが、台湾は一般参加国として参加申請済、香港も参加申請しつつも銀行事務局側から参加保留、ベルギーとカナダは参加を検討中です。他方、ADBには参加せずAIIBのみに参加している国は15ヶ国あり、まずはAIIBでは投資対象地域に含まれた中東地域のオマーン、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、ヨルダン、イラン、イスラエルの8ヶ国、残りはロシア、ブラジル、南アフリカ、エジプト、ポーランド、アイスランド、マルタです。

 では、AIIBが生まれた背景は何でしょうか。AIIBのホームページには、その設立趣旨についてこのような記載があります。

“現在、アジア地域のインフラ資金需要と利用可能な国際開発金融機関や二国間の資金財源の間には大きな開きがある。ADBは2020年までに毎年7,300億米ドル(約91兆円)のインフラ投資需要があると予測しているが、その数値は現在の国や既存の国際開発金融の能力を大きく超えている。”

 すなわち同行の設立背景には国際政治的な思惑以外にも、前述したようにインフラ資金需要に対して供給量を増やしていかなければならないという危機感があります。また、現在のアジア市場環境を捉え手続きを簡素化する必要性も指摘されており、この「追加資金」「地域特性」というキーワードは、ADBの設立背景とほぼ同一だと言えます。それらがAIIB設立への正当性を与えている根拠にもなっています。また、世界銀行グループのキム総裁も当初よりAIIBの設立に対して歓迎の意を示しており、ADBの中尾武彦総裁も、AIIBとは補完的関係にあり敵対はありえないとし、アジアには「インフラ関連だけでも膨大な資金需要がある」として、複数の国際機関が並立することに何ら問題ない点を強調しています。

AIIBとガバナンス

 AIIBに対して懸念されているのが、ガバナンスと環境・社会条件への対応、いわゆるESGに関わる問題です。このESGについては、現在、設立国が参加するミーティングでまさに検討が進んでいるところです。

 まずはガバナンスから見ていきましょう。詳細は現在も検討中ですが、日常業務の意思決定機関となる理事会は、12人の理事で構成され、その内アジア地域から9人、域外から3人を迎え、1カ国から2人以上の参加は認めない方針となっています。この点においては、ADBは域内8人、域外4人の構成であり、AIIBは域内重視の構成と言えますが、それ以外はADBとさほど変わりません。但し、中国が提出した初期案では、理事会の位置づけが異なり、ADBでは常設で合議制の意思決定機関でありますが、AIIBでは非常設で個別の投融資案件は各担当理事への電子メール承認等で済むよう手続きが簡素化されようとしているのが特徴で、この点を日米の専門家は問題視しています。

 理事会での議決権の基礎となる出資比率においては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、設立当初の資本金が1,000億米ドル(約12.4兆円)なのに対し各国の拠出額比率は、中国が297.8億米ドル(29.8%)、インドが83.6億米ドル(8.4%)、ロシアが65.3億米ドル(6.5%)、ドイツ44.8億米ドル(4.9%)、韓国37.4億米ドル(3.7%)、オーストラリア37億米ドル(3.7%)、インドネシア34億米ドル(3.4%)、フランス33.7億米ドル(3.4%)、ブラジル31.8億米ドル(3.2%)、イギリス31億米ドル(3.1%)が暫定合意案となっており[注1]、BRICs+韓国で50%を超えます、そして、その他の要素を加味した議決権においては中国が25-30%、次いでインドが10-15%を獲得する見通しです。また、アジア諸国全体の出資比率は75%、残りは欧州各国などの域外国が出資する方向性で、アジアの小国の発言権が強く設定される予定です。この場合、日常業務については中国が理事会で拒否権を行使できる状態ではありませんが、報道によると組織構造、加盟国、出資金の増資等の重要法案には中国が拒否権を発動できるよう賛成に必要な議決権割合を75%以上に設定することで創設メンバー国は合意に達した模様です。

 その他、本部は北京に置かれ、共通言語は英語とすることも確定し、初代総裁には同行臨時事務局の金立群事務局長(元・世界銀行副執行理事、元ADB副総裁)が事実上内定しています。このようにガバナンスとしては理事一人ひとりに大きな権限が与えられる構想が練られており、うまく機能すれば行政手続きの簡素化・スピード経営が実現できますが、悪く作用すると汚職の温床、投融資基準の不統一などがもたらされることが考えられ、運営ルールや業務監査制度などの整備がカギを握りそうです。

AIIBと環境・社会条件

 一方で投融資における社会環境配慮については、同行のホームページで、「事務局はすでに開発がもたらす環境社会懸念への対応を活動に織り込むための環境社会ポリシーフレームワーク作りをスタートさせた」とあり、内容は未だ未知数ですが、今後の創設メンバー国の間での議論結果に注目が集まります。必ずしも世界銀行グループやADBの現行ガイドラインと全くの同等である必要はないと考えますが、ガイドラインで何の優先順位を上げ下げしようとしているかはサステナビリティの観点からはとても重要です。

 例えば、ADBはエネルギーセクター政策として、原子力発電への不関与、炭鉱・油井開発への不関与という原則を決定しており、エネルギー需要が拡大するアジア地域の経済・エネルギー政策との不整合が生じています。化石燃料や原子力発電依存を下げることは長期的には重要ですが、いかにして再生可能エネルギーという理想に向かったロードマップを描けるか、この視点はAIIBだけでなく、ADBにも向けられていると言えるでしょう。その他、ADBとの違いでは、ADBでは投融資対象国の事案については当事国の企業は参加できませんが、AIIBではそのような制限は設けない開かれた入札制度が検討されており、このような経済合理性重視の考え方は新興国企業から支持を集めそうです。
 

結語 〜AIIBの行方〜

 AIIBの発足するしないにかかわらず、アジア地域の社会発展のためのインフラ投資資金需要が膨大にある事実は変わりません。インフラの整備の遅れから、交通渋滞や大気汚染、水資源不足など大きな都市化問題はすでにいくつかの都市で発生しているのも同様に事実です。そして、そのインフラ需要は企業にとっての大きなビジネス機会でもあります。日本がAIIBに参加するかどうかという問題もさることながら、このインフラ投資資金需要をいかに満たし、さらにその投資に社会環境視点を取り込んでいけるかのほうがより重要ではないかと考えています。足元では、アジア地域のインフラ投資の担い手は、かつて中心であったは欧米資本から、現在は現地の金融機関へと移ってきています。ADBはこれまで投融資や協調融資において高い社会環境基準をかけてきましたが、ADBが関与しないローカル金融機関においては現地の法律以外には強いプレッシャーは存在してこなかったとも言えます。今後、AIIBが新たな資金供給者となることで、ローカルの投融資においても社会環境基準を高めていくことができるか、私としてはその点に一番注目しています。

[注1]6月16日、日経新聞の報道によると、設立協定最終案が確定。出資金額は以下のとおり。
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著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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