Sustainable Japan QUICK ESG研究所

【食糧】持続可能な漁業と水産資源管理 〜日本の食卓から魚はなくなるのか?〜 2015/08/04 体系的に学ぶ

fishery

「日本の食卓から魚がなくなる」説

 近頃、耳にすることが多くなった「水産資源の危機」。日常生活の中であまり実感することがないというのが正直なところかもしれませんが、実際今後どうなっていくのか。今年6月、日本財団が、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)やプリンストン大学(米)など世界の7大学・研究機関と共同で発表した2050年の世界の水産資源の状況を予測した「ネレウスプログラム・レポート」。このレポートの中でも浮かびかがってくるのは、やはり世界の水産資源が急速に危機を迎えていくという予想です。こちらのYouTube動画は、ネレウスプロジェクトで作成された動画。2050年の寿司屋では、マグロだけでなく大半の魚が「品切れ」の状態になってしまっているようです。

 水産資源に大きな影響を与えている要因には大きく2つあります。魚類の生態系そのものを変化させてしまう気候変動。そして、人が魚類の個数に影響を及ぼす水産資源管理の問題。特に水産資源管理の問題の中で、制限なく採捕してしまう問題を「乱獲」と呼びます。気候変動が水産資源に与える影響を正確に測定することは非常に難しく、研究者によるリサーチが今も行われています。一方、水産資源管理の問題は喫緊の課題として各国政府がすでに取り組み始めています。今回は、日本を舞台に、漁業と水産資源管理の問題と取り上げます。

魚消費大国日本

 日本は世界有数の水産物消費国です。日本食の代表・寿司、そして居酒屋でも刺身、ほっけなど、日本人は魚料理が大好きです。土用のウナギ、秋のサンマなどは季節の風物詩にもなっています。しかしながら、最近はこの魚消費国・日本のイメージにもクエスチョンがつき始めています。若い世代を始め、日本では年々「魚離れ」という現象が起きているからです。

fish-consumption-in-japan
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

 こちらは日本の食用魚介類の1人当たり年間純消費量を示したグラフです。2001年をピークに大きな減少トレンドを描いています。背景には、食の洋式化、具体的には肉中心の食生活への変化があると言われています。ちなみに、純消費量とは魚介類のうち皮や骨などを除いた身の部分だけの量を指します。

animal-protein-supply-from-fish
(出所:水産庁)

 ですが、それでも依然日本は世界有数の水産物消費国でもあります。こちらは世界各国で動物性たんぱく質のうちどれだけを魚類から摂取しているかを示したものです。日本は韓国と並んでぶっちぎりで世界トップクラス。フィッシュ・アンド・チップスで有名なイギリスでも10%、魚資源が豊富な北欧のノルウェーでも20数%のところ、日本は36.6%という非常に高い水準です。このように、日本は魚離れが進んでいるのは事実ですが、それでも魚の消費は「超一流」なのです。

fish-consumption-per-capita
(出所:水産庁 “2012年 水産白書”)

 ちなみに、世界で一人当たり水産消費量の世界トップはポルトガル、タラを非常にたくさん食しているようです。日本は韓国に次いで3位。日本の水産消費の特徴は魚種が豊富なこと。上位には寿司のネタとしてお馴染みの魚が並びますが、ポルトガルや韓国と比べ、非常に多くの魚の種類を食べていることがわかります。また、日本はグラフの中で唯一10年前と比べ消費量が減少している国です。このあたりからも日本の「魚離れ」が伺えます。

世界中で伸びる漁業生産量

 日本で「魚離れ」が進む中、世界中の魚消費量はうなぎ登りです。要因としては、いわゆる海外での「魚ブーム」だけでなく、世界の人口増加が挙げられます。地球の水系の規模が一定である状態で、魚の需要が急増してくると、水産資源調達の供給が課題となります。なんとかこれまで世界は漁業生産量を上昇させてきましたが、それは「養殖」という新たな技術によって支えられてきました。

world's-fishery-production
(出所:FAO “世界漁業・養殖業白書 2014年“)

 こちらの図を見ると、漁獲量は1990年代からほぼ一定で、需要急増分は養殖によって賄われていることがわかります。

world's-fishery-production-by-country
fish-catch-and-aquaculture
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

 各国別のデータを見てもトレンドは同じです。1990年代後半からは漁獲量はどこも横ばい、一方養殖量が激増しています。養殖量としては中国が世界全体の60%を占めており、フナ・コイなどや海藻類、食用貝などを養殖しています。また、日本ではノルウェーの養殖サーモンがおなじみです。養殖が世界の漁業生産量を支えていることだけ見ると、「世界の漁業は安定している。水系での漁獲量は一定水準に留まり、養殖によって生産量は伸ばせる。」と思いがちですが、ことはそう単純ではありません。この影には、世界全体で洋上・河川上での漁獲量を抑制するための努力も同時になされているのです。その方法をTAC制度といいますが、それは後ほどあらためてご紹介します。

日本の漁業生産量は急速低下

wolrd's-fishery-production-by-country-2
(出所:FAOデータをもとにニューラル作成)

 世界の漁業生産量が伸びる中、日本の状況はどうかというと、実は大きく減退しています。上図は、世界の漁業生産トップ10ヶ国のうち、他を圧倒している中国を除いたグラフです。増加が著しいのは海洋国家インドネシア、それをインド、ベトナム、そしてフィリピン、ミャンマーが追っています。米国はここ数十年安定しており、ロシアは一時減少しましたが、最近では持ち直しています。赤線の日本は1988年をピークに減少が止まりません。

japan-fishery
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

日本の漁業生産量の減少をより細かく見ていきましょう。大きく減っているのは遠洋漁業と沖合漁業。遠洋漁業とは太平洋、インド洋、南極海などで1ヶ月から1年半にも及ぶ大規模航海を行いマグロやカツオを釣る漁法です。この遠洋漁業の衰退の背景には、各国が排他的経済水域(EEZ)を設定したことによる自由公海漁場の縮小、石油価格高騰による採算の悪化などが挙げられています。沖合漁業とは2~3日で帰れる範囲の海を漁場とし、イワシ、サンマ、サバ、アジ、イカなどを獲ります。沖合漁業は落ち幅が大きいですが、原因は沖合漁業を盛り上げたマイワシの数が近年減少したことにあります。また、他国で盛んになっている養殖業も、日本ではコスト競争力等の理由により伸びていないことも、漁業生産量全体が落ち込んでいる要因です。

 また、日本の漁業全体については、別の観点の課題も指摘されてきました。漁師の高齢化と担い手の減少です。日本で漁業を行うには免許がいります。漁業法は漁業権制度と漁業許可制度を確立しており、沿岸漁業や養殖を行うための漁業権と、沖合・遠洋漁業をするための漁業許可は、農林水産大臣や都道府県知事により漁業協同組合(漁協)に与えられています。ですので、日本で合法的に漁業を行うには漁協に所属しなければなりません。川や浜辺などで「この付近で釣りを行うことは禁止されています」という立て看板を見かけるのは、漁協が自主的に違法行為を牽制しているのです。漁協への加入条件などは漁協が自由に設定できますが、漁師の家族以外が漁協に新規加入することはほぼ難しいのが実態と言われています。

水産資源管理というより深刻な課題

 高齢化や経営難による日本の漁業の衰退。ですが、それ以上に日本の漁業に暗雲が立ち込めている大きな課題は、水産資源の減少です。日本の近海には、3,300種という非常に多種の魚に恵まれた地理的環境にあります。しかし、当然ながら、自然環境の変化や乱獲により、魚の数は大きく増減しています。この科学的な水産資源量の把握は、各国政府の重要なミッションであり、日本では水産庁所属の水産総合研究センターがその役割を担っています。

 資源管理の根幹には、最大持続生産量(MSY; Most Sustainable Yield)という概念があります。

MSY
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

 水産資源管理においては、この最大持続生産量を生物学的に割り出していくことが極めて重要な出発点です。MSYを超える基準で漁獲を行えば、いつかその魚種は絶滅します。一方、MSYを下回る状況はもっと多くの水産資源を活用できることを意味します。当然、資源管理や生物多様性の観点から、全ての魚種がMSYを上回っていることが理想的ではあります。ただ実態として、日本の近海の状況は非常に深刻です。

resouce-level
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

 こちらは2014年の日本の水産資源の状況です。水産総合研究センターは、日本人の食生活にとって重要な52魚種・84系群の資源水準を毎年計測しています。資源量が豊富で懸念のないものを「高位」、資源量がまあまああるが懸念の可能性があるものを「中位」、すでに懸念状態にあるものを「低位」としています。2014年の時点で、対象52魚種・84系群のうち、資源水準が高位にあるものが14系群(17%)、中位にあるものが28系群(33%)、低位にあるものが42系群(50%)となっています。すなわち、懸念状態がすでに半数、懸念の恐れがあるものまで入れると88%が要注意状況です。

 それに対して、水産庁はどのような対策を講じているのでしょうか。日本政府は1996年に国連海洋法条約に批准し、EEZ内の水産資源管理を行う責任を負ったことから、TAC法(海洋生物資源の保存及び管理に関する法律)を同年に制定、漁獲可能量(TAC; Total Allowable Catch)制度が始まりました。これは従来は漁獲量のコントロールは、漁協の自主的管理に委ねられていたのに対し、法律で魚種ごとの漁獲可能量を定め、各漁協ごとに量を割り当てるという制度です。現在、TAC制度の対象となっている魚種は、マアジ、マサバ及びゴマサバ、マイワシ、サンマ、スケトウダラ、ズワイガニ、スルメイカの7種。日本人の食卓に並ぶ魚が数多く並んでいますが、それでも資源管理で「低位」と判断された42系群と比べると、7種類というのは非常に心許ない数です。2012年にはカタクチイワシ、ブリ、ホッケ、ウルメイワシ、マダラをTAC対象とする検討がなされましたが、まだ決定には至っていません。

fish-species-in-danger
(出所:水産庁 ”TAC制度、IQ・ITQ方式について“)

 上図は日本の漁獲量の多い魚種のうち、TACとの関連示した図です。サバ、イワシ、サンマ、タラ、イカ、ホッケ、ブリ等、漁獲量の多い魚種が要注意資源となっています。日本では国内漁獲・養殖量のうち90%が国内で消費されていますので、すなわちこれらの国産魚種は国内での流通に今後制限がかかる可能性があるということです。その他、漁獲努力可能量(TAE; Total Allowable Effort)制度というものもあります。TACが漁獲量そのものを漁協に割当るのに対し、TAEは漁船の隻数や操業日数等に制限をかけることで漁獲量を間接的にコントロールしようという制度です。現在、TAE制度は2003年から導入されており、アカガレイ、イカナゴ、サメガレイ、サワラ、トラフグ、マガレイ、マコガレイ、ヤナギムシガレイ、ヤリイカが対象魚種に指定されています。

マグロ・カツオ・ウナギの国際的な資源管理

 さきほどの図で、マグロとカツオはTACの対象にはなっていないこともわかりますが、一方でマグロ・カツオ、そしてウナギには国際的な管理の手が及んできています。

 まず、広大な公海を回遊するマグロ・カツオについては、国際的な資源管理が始まっています。水産白書によると、カツオ・マグロ資源については、1950年に設立された全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)を皮切りに、順次各海域及び魚種に関する地域漁業管理機関が設立され、2004年の中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の設立によって世界中をカバーする包括的な資源管理体制が確立しました。

Tunas Regional Fisheries Management Organization
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

 マグロ・カツオ類の資源管理に関しては、世界で5つの「かつお・まぐろ類の地域漁業管理機関」(RFMO; Tunas Regional Fisheries Management Organization)が地域ごとに管理をしています。大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)、インド洋まぐろ類委員会(IOTC)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)です。日本はこの5つのRFMO全てに加盟しています。日本で流通しているクロマグロのうち太平洋産が6割、大西洋産が4割と言われており、日本にとってはICCATとWCPFCが特に重要なものとなっています。

 中でも、ミナミマグロと大西洋クロマグロは深刻な状況です。各国政府も加盟する国際的自然保護団体の国際自然保護連合(IUCN)は、1994年にミナミマグロを絶滅危惧IA類(Critically Endangered)に、2011年に大西洋クロマグロを絶滅危惧IB類(Endangered)に指定しました。国際自然保護連合のレッドリスト指定そのものは法的拘束力を持つものではありませんが、このレッドリスト入りは希少な野生動植物の国際的な取引を規制するワシントン条約で規制が検討される大きなきっかけを作ります。関連する水域を管轄する大西洋のICCATと南極海のCCSBTは、条約体制のもと各国への漁獲量割当を実施。日本政府も、割当量を守るために、2006年からミナミマグロ漁で、2009年からは大西洋マグロ漁で、漁に投入する漁船数と引揚漁港数を制限し、漁獲量を抑制しています。また、日本がEEZを有するWCPFC管轄地域でも、マグロの資源量が減少しています。2014年に国際自然保護連合が太平洋クロマグロを絶滅危惧II類(Vulnerable)に指定したこともあり、WCPFCの加盟国は、太平洋クロマグロについて30kg未満小型魚の漁獲量を2002~2004年平均水準から半減させることで合意しています。海外での寿司ブームや健康食志向などでマグロ・カツオの消費量は国際的に増加する中、日本で消費できるマグロ・カツオは今後徐々に制限されていくことが予想されます。

eel-production
(出所:水産庁 “ウナギをめぐる状況と対策について“)

同様に深刻な状況にあるのがウナギです。国際自然保護連合は、2008年にヨーロッパウナギを絶滅危惧IA類(Critically Endangered)に、2014年にニホンウナギとアメリカウナギを絶滅危惧IB類(Endangered)に指定しました。日本は世界の7割のウナギを消費している言われています。そして、日本はこれまでニホンウナギの漁獲量減少に際し、輸入によってウナギを確保してきましたが、すでにヨーロッパウナギは2007年にワシントン条約附属書入りが決定し、2009年から貿易規制が始まっています。

eel
(出所:WWF)

 特に、ウナギの稚魚であるシラスウナギの減少数は危機的状況です。日本近海で取れるウナギは、太平洋を回遊し、フィリピン・台湾沖で稚魚のシラスウナギとなります。日本へのウナギ輸出業に目をつけた中国、台湾、韓国でもシラスウナギの採捕や養殖が行われており、ニホンウナギの保護のためには国際的な枠組みが不可欠です。2014年に日本、中国、韓国及び台湾は、①2015年漁期の池入れ量を前年と比べ2割減とする、②国際的な養鰻管理組織を設立する、③法的拘束力のある枠組みの設立の可能性について検討すること等で一致し、ニホンウナギの国際的な管理が動き出しています(水産白書 2014年)。

 ワシントン条約の次回締約国会議は2016年に予定されています。2014年にレッドリスト入りした、ニホンウナギ、アメリカウナギにも国際的な規制が始まるかどうかに大きな注目が集まっています。

持続可能な資源管理に向けて

 日本の食卓には依然豊富な魚が並んでいます。居酒屋にいっても寿司屋にいってもまだまだ好きなだけ魚が食べられます。それは日本が輸入に頼って来たからです。

fishery-supply
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

fishery-product-import
(出所:水産庁 “2014年 水産白書”)

輸入により日本人のお腹は満たされてきましたが、日本近海の漁場は持続可能でないものになりかけています。日本政府はTAC制度を導入し、資源回復に努めていますが、そもそもTAC制度にも課題は残っています。まずは、7種類という魚種。生物学者の間でもより多くの魚種についてTAC制度を導入する必要があるという声が上がっています。

 そして、もう一つの課題は、TAC制度の漁獲可能量(TAC)基準の設定方法です。TACは生物学的知見を参考にして設定されていますが、生物学的知見がそのまま反映されているわけでないのです。仕組みはこういうことです。まず、水産総合研究センターが純粋な生物学観点からの漁獲可能量である「生物学的許容漁獲量」(ABC; Allowable Biological Catch)を算出し、それを水産庁・農林水産省に提出します。そして、農林水産省では、その他の漁業従事者の経済状況や過去の水産供給量などを加味し、最終的にTACを設定しています。本来、資源保護の観点からは、TACはABCを下回っていなければいけませんが、そうではない状況が長らく続いてきました。

tac-abc
(出所:水産庁 “TAC制度、IQ・ITQ方式について“)

 こちらは、ABC、TAC、実際の漁獲採捕量を示したグラフです。最近ではTACはABCの水準まで減っていますが、2009年まではTACがABCを上回る状態が複数の魚種で続いていました。現在もスケトウダラはTACがABCを上回り、資源管理が徹底できていない状況です。水産庁は、「平成9年のTAC設定初年度以降、円滑なTAC導入を行うため、漁業経営への影響を考慮してABCを超えて漁獲実績に見合ったTACを設定した経緯」と説明しています。

 日本の水産資源管理については、欧米諸国と比べ「遅れている」とも言われています。日本には漁協による自発的コントロールという日本独自のシステムが機能してきた面も否定はできませんが、資源量を計測し、その目標値を達成していくということはとても重要です。日本政府も近年ようやく、資源回復のための様々な取組を検討し始めています。日本の食卓から魚はなくなるのか? その答えはこれからの政府・企業・消費者の努力にかかっています。

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

Facebookコメント (0)

ページ上部へ戻る