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【日本】改訂ISO14001は生物多様性に取り組む絶好の機会。JBIBがシンポジウム開催

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 生物多様性の推進に取り組む国内企業によるイニシアティブ、JBIB(一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ)は12月10日、ISO14001と生物多様性に関するシンポジウム「改訂ISO14001:生物多様性の対応はこうする~生物多様性の先進企業からの提案~」を開催した。当日は国内大手企業の環境・CSR担当者らをはじめ、行政関係者、NGO、ISO関係者ら120名以上の参加者が集まった。

 JBIBは2008年に設立された企業イニシアティブで、三井住友海上火災保険、味の素、花王ら国内企業約50社が参画する日本を代表する生物多様性推進団体の一つだ。企業活動に生物多様性を取り込むための研究および啓発活動を展開している。

 シンポジウム当日は、はじめにJBIB事務局長を務めるレスポンスアビリティ足立氏より生物多様性と企業活動との関係性についての解説があり、その後、月刊アイソス編集長の恩田氏およびインターリスク総研のシニアマネジャーを務める猪刈氏が改訂ISO14001のポイントについて講演した。後半にはJBIB会員企業の担当者らも登壇し、パネルディスカッション形式で企業が生物多様性に取り組む上での課題やそのヒントについて話し合われた。

 今、世界のサステナビリティ専門家らの間では「生物多様性」が気候変動や森林破壊などと同様に企業が取り組むべき重要な課題の一つとして認識されている。一方で、現場の環境対策担当者や工場担当者らの間では、今年の9月に改訂された2015年度版のISO14001とその対応が大きな関心事となっている。

 あまり同じテーブルの上で議論されることはないこの2つのテーマだが、その根底にあるのは、今世界が直面している危機的な環境課題だ。その課題を正しく把握するためには生物多様性に対する理解が不可欠であり、課題解決のためにはISO14001が非常に有効となる。そこで、ここでは両者がどのように関連し、実務者はどんな点に意識して取り組んでいけばよいのか、シンポジウムの中で共有、議論された内容を当日の流れに沿って簡単にご紹介したい。

生物多様性とは? なぜ企業にとって重要なのか。

 「生物多様性」とは、その名の通り生物に関する多様性や、地球の生態系・生物群全体を表す包括的な概念を指す。生物多様性について考える際に重要な点は、それらの多様な生物は相互に影響を及ぼし合いながら絶妙なバランスを保つことで「生態系」として成り立っているという点だ。そのため、生物多様性が失われるとそのバランスが崩れ、食糧をはじめとする天然資源や大気の浄化など、いわゆる生態系サービスの恩恵を我々が受けられなくなる可能性がある。人間の経済活動がこの生態系サービスを基にして成り立っているということを考えると、生物多様性の保全は環境だけではなく経済、社会の観点から考えても非常に重要なテーマとなる。

 しかし、その生物多様性がいま、世界中で危機に瀕している。例えば、過去300年で世界の森林の40%が喪失しており、毎年1,300万ヘクタール(日本の面積の3分の1に相当)が消失中だという報告や、人類はこの50年間で海洋性大型捕食魚類の少なくとも90%を既に取り尽したとの研究結果もある。

 これらの生物多様性の破壊の99.9%は人間の活動によってもたらされたものであり、この破壊を食い止めるべく国際社会が具体的な目標を設定したのが、2010年の生物多様性条約締約国会議(COP10)で採択された、いわゆる「愛知ターゲット」だ。

 レスポンスアビリティ足立氏によると、生物多様性に関する2020年までの国際目標を定めたこの「愛知ターゲット」は日本ではほとんど話題に上ることはないものの、海外の会議などでは企業がプレゼンテーションの中で愛知ターゲットに触れることも多く、国際的には非常に重要視されているという。また、愛知ターゲットのポイントは、自然資源を使用してはいけないということではなく、持続可能な範囲に使用を抑えることにあるとのことだ。

 なお、シンポジウムの中で生物多様性への取り組みの失敗が企業にもたらすリスクとして特に強調されていたのが、操業や評判、規制といったリスクではなく、財務上のリスク、具体的には機関投資家からの評価リスクだ。既に欧米の機関投資家は企業の生物多様性への取り組み状況をリスク評価に組み入れており、足立氏によれば、最近では企業IR担当者が投資家から環境に関する質問を受けるケースが実際に増えてきているという。

 生物多様性と自社との関わりを把握するためには原材料調達から廃棄にいたるまでのバリューチェーン全体で考える必要があるが、それらの中に潜む生物多様性課題への対処を怠ると、金融市場における格付低下などをはじめとして、上述のような様々な具体的なリスクとなって企業の収益に跳ね返ってくる時代がやって来ている。それこそが、今企業が生物多様性に取り組むべき大きな理由の一つなのだ。

改訂ISO14001のポイント

 それでは、今年9月に改訂されたISO14001と生物多様性との間には具体的にどのような関連性があるのだろうか。それを考えるためには、まずは今回の2015年度版ISO14001の改訂ポイントについて理解しておく必要がある。改訂ISO14001の7大ポイントとしてシンポジウムの中で挙げられていたのは「戦略的な環境管理」「リーダーシップ」「環境保護」「環境パフォーマンス」「ライフサイクル思考」「コミュニケーション」「文書類」だ。

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 月刊アイソス編集長の恩田氏は、この7大ポイントの中でも最も重要なのが、一つ目の「戦略的な環境管理」だと強調し、それを実現するためのキーワードとして「事業と環境の戦略の一体化」を挙げた。

 現在ISO14001の取得状況を見てみると、世界全体における取得件数は右肩上がりで伸び続けているにも関わらず、日本の件数は2009年がピークとなっており、かつては世界1位の取得件数を誇っていたにも関わらず2014年には第3位まで後退したという。

 恩田氏は、日本におけるこの件数低下の背景には「取得したものの効果が出ない」という担当者らの認識があるが、その理由は「事業」と「環境」が戦略として結びついておらず、別個に管理されているからだと指摘した。

 ほか、改訂ポイントの一つである「環境保護」については、社会的責任に関するISO規格のISO26000で掲げられている4つの環境課題との整合性が図られた点、「リーダーシップ」については、トップが一人で引っ張っていくというよりは、各階層のマネジャーがリーダーシップを発揮できるような組織作りを進めることが重要だとアドバイスした。

改訂ISO14001と生物多様性の関係

 上記を踏まえ、インターリスク総研のシニアマネジャーを務める猪刈氏は改訂ISO14001と生物多様性との関連性について説明した。猪刈氏が最初に強調していたのは、「ISO14001が改訂されたから生物多様性に取り組む」のではなく、そもそも社会の大きな流れとして企業にも生物多様性の保全に主体的に取り組んでほしいというステークホルダーからの期待があってISO14001も改訂されたのであり、ISO14001は生物多様性をはじめとする環境課題に効率的に取り組むためのツールに過ぎないという点だ。

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 2015年版のISO14001では初めて規格本文の中に「生物多様性」という言葉が登場し、序文の「0.1背景」の中で「…(前略)…資源の非効率な利用、不適切な廃棄物管理、気候変動、生態系の劣化および生物多様性の喪失に伴い、持続可能な開発、透明性及び説明責任に対する社会の期待は進展している。」と明確に記された。

 猪刈氏は今年の9月にニューヨークで採択されたSDGs(国連持続可能な開発目標)にも触れ、SDGsの17目標の中にも「生物多様性」を含む環境関連の目標が4つ掲げられており、社会からの要請が高まっていることを強調した。また、同氏はこれらの社会からの期待に対応するためのツールとして「ISO26000」「GRI-G4」「ISO14001-2015年度版」の3つを環境CSR「三本の矢」として紹介した。

 なお、ISO14001:2015年度版の本文(要求事項)と生物多様性との具体的な関わりについては、「6.1.2環境側面」および「8.1 運用の計画及び管理」の中に「ライフサイクル」の視点が明記されており、原材料調達も含むバリューチェーン全体における取り組みを強化していく必要があると指摘した。

企業が抱える現場の課題と解決のヒント

 上述のように、今、世界では生物多様性の保全が重大なサステナビリティ課題の一つと認識されており、今回の2015年度版ISO14001もそうした背景を踏まえて改訂されたのだが、実際の日本企業の多くは、「生物多様性」への取り組みについては海外企業と比較して遅れをとっているのが現状だ。

 インターリスク総研の猪刈氏はシンポジウムの中で、日本企業の間で生物多様性への取り組みがなかなか進まない理由として、生物多様性には廃棄物やエネルギー、温室効果ガスなどとは異なり、それに対応した法規制が存在しない点を挙げていた。しかし、多くの企業がグローバルにサプライチェーンを抱えて原材料調達などを行っており、既にサプライチェーン上におけるリスクは顕在化している点を考えれば、国内における法規制の有無は生物多様性を軽視してよい理由にならないのは明白だ。

 それでは、一体日本企業はどこからどのように生物多様性に取り組み始めればよいのだろうか。シンポジウムの後半ではその点について、実際に現場で生物多様性に取り組むJBIB会員企業の担当者(リコー:益子氏、竹中工務店:三輪氏、サラヤ:横山氏)の3者も交えて、現状の課題とその打開策を模索するためのパネルディスカッションが行われた。

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事業と生物多様性との結びつきが重要

 パネルディスカッションの中では、まずレスポンスアビリティの足立氏が、生物多様性に取り組む重要性について、海外では既にSCP(Sustainable Consumption and Production:持続可能な消費と生産」、Natural Infrastructure(自然インフラ)といった概念があり、事業をいかに生物多様性に結びつけて考えられるかが問われていると説明した。

NGOの関心などを考慮して問題の大小を特定する

 しかし、事業と生物多様性の関係性を把握しようにも、それをいきなり実行するのは簡単ではない。そこで、JBIBで自然資本研究ワーキンググループに所属するリコーの益子氏は、同WGで開発した事業と生物多様性との関わりを可視化するフレームワーク「関係性マップ」を紹介し、自社のバリューチェーンが調達などの「インプット」、汚染などの「アウトプット」の双方の視点で生物多様性とどのように関わっているかを分析する手法を説明した。

 また、同氏は、自社のバリューチェーンと生物多様性との関係性を特定する際に、その問題点の大小関係が分からないという企業担当者の悩みに対し、その場合はNGOが興味を持っているテーマを中心に問題点を挙げていくのがよいとアドバイスした。

大事なのはストーリーづくりと目標の共有

 また、JBIBで持続的土地利用ワーキンググループに所属している竹中工務店の三輪氏は、土地利用における取り組みを多くの具体的な事例とともに紹介した。同氏は、事業エリア内における生物多様性保全の取り組みにおいては、最初はその地域を調べるところから始まるとしたうえで、取り組みを継続し、成果を出す上で大事なことはCSV(共有価値の創造)などと言われるように人々が共感するストーリーを作り、目標を共有することだとアドバイスした。

調達部門との協力については、外部の力を借りるのも一つ

 JBIBで原材料調達ワーキンググループに所属しているサラヤの横山氏は、サプライチェーン(原材料調達)における生物多様性の取り組みについて解説した。同氏は、調達における取り組みの一般的な課題として、「品質」「コスト」「納期」を何より重視している調達部門に対してどのように「環境」の話をしていくかが難しいとしたうえで、外部の有識者を招いて話をしてもらう、ISOの改訂に際して話をするなど、社外の力を借りることも有効だと説明した。

 また、月刊アイソス編集長の恩田氏は、最近では内部監査がマンネリ化している企業も多いので、内部監査のテーマの一つとして生物多様性を取り入れていくのも一つの手だと付け加えた。

 会場からはグリーン調達について、「サプライチェーンが複雑化する中で本当の意味でグリーン調達を実現するのは非常に難しいのではないか?」という質問も出たが、レスポンスアビリティの足立氏は、確かにグリーン調達の難しさはあるとしつつも、制度がある場合には「認証」の活用、それ以外では「デューデリジェンス」の2つを軸に取り組むのがよいとアドバイスした。

 「認証」については、現状国際認証制度の多くが食料品などに関するものだが、最近ではアルミニウムなどの鉱物をはじめ、様々な原材料にサステナビリティ基準・認証制度が広がりつつあるため、グリーン調達の指針として活用できるという。

生物多様性は「リスク」でもあるが「機会」でもある

 ディスカッションの最後に話題に出たのが、「リスク」と「機会」に関する話だ。リコーの益子氏は、生物多様性は「リスク」はあるが「機会」がないという意見が多いが、取り組みを「機会」に変えていくためには、身近なところでは我々一人一人が環境に配慮された製品を購入するように心がけるといったことも重要だと語った。

 また、サラヤの横山氏は、自社も原材料調達についてかつてメディアで大きく批判を浴びたところから取り組みが始まったが、今ではJBIBへの参加やこうした会議での発信を通じて自社の取り組みをより多くの人に知ってもらえるなど、多くの機会につながっているとして、生物多様性に取り組むメリットを強調した。

まとめ

 今回のシンポジウムは「改訂ISO14001」と「生物多様性」という2つのホットトピックを掛け合わせたテーマだったが、その中でも特に印象的だったのは、「バリューチェーン」というキーワードが何度も繰り返し登場したことだ。

 2015年度版のISO14001では改訂ポイントの1つに「ライフサイクル思考」があり、企業はバリューチェーン全体における影響の特定と評価、改善が求められている。

 最近では、アパレル大手のH&Mが推進している「Close the Loop(ループを閉じる)」に代表されるように、自社のバリューチェーン全体のモデルをLinear(リニア:直線型)ではなく、Circular(サーキュラー:循環型)に移行しようという動きが業界を超えて進んでおり、循環型経済(サーキュラー・エコノミー)という言葉も浸透してきている。

 全ての企業が何らかの形で生物多様性が生み出す生態系サービスの恩恵を受けている以上、それらの自然資本を持続可能な形で利用することは企業としての責任でもあり、何より事業活動のサステナビリティを担保するための前提条件でもある。全ての企業が自社のバリューチェーンを細かく辿っていけば、必ず生物多様性の課題に直面するということを理解するだけでも、この問題はより身近に考えることができるようになるはずだ。

 その意味でも、今回のISO14001の改訂において「ライフサイクル思考」が重視され、バリューチェーン全体を把握する必要性が強調されたことは、生物多様性に本気で取り組む上での絶好の機会とも言える。これから事業と環境を戦略的に統合し、競争優位性を築いていきたいという企業は、ぜひJBIBのワーキンググループなども活用して取り組みをスタートしてみてはいかがだろうか。

参考・関連サイト

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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