【アメリカ】オピオイド系薬剤の過剰処方や乱用で33,000人以上が死亡。諮問委員会報告 2017/12/02 最新ニュース

 米国ではオピオイド系薬剤の過剰処方や乱用により中毒者が激増して大きな社会経済問題になっている。オピオイドとは麻薬性鎮痛剤を指し、「中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似した作用を示す物質」の総称。植物(ケシ)由来の天然のオピオイド、化学的に合成・半合成されたオピオイド、体内で産生される内因性オピオイドに3分類できる。

 近年、このオピオイドをベースにして様々な鎮痛剤が開発されており、「薬物使用と健康に関する全米調査」(National Survey on Drug Use and Health: NSDUH)の試算によると、2016年には同国の成人9,180万人がオピオイド系薬剤を処方され、1,150万人が乱用したという。オピオイドには呼吸抑制作用があり、過剰摂取により呼吸困難が起きる場合もある。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が発表したデータによると、2015年にオピオイド系薬剤の飲みすぎで死亡した人は33,091人にのぼった。2016年のデータは開示されていないが、CDCは2015年を超えると予測している。この事態を放置できなくなったトランプ大統領の委託を受けた諮問委員会は11月1日、提言書を公表した。 
 
 同国で最初の「オピオイド・クライシス(危機)」が起きたのは19世紀半ばから後半。南北戦争(1861年から1865年)の軍人および兵役経験者の痛み止めとして、医師が無制限にモルヒネ、ローダナム、パレゴリック、コデイン、ヘロイン等、オピオイド系の処方をした。その影響は公衆衛生の側面だけに留まらず、深刻な社会経済問題に発展。その後、オピオイド系薬剤の処方に対して注意を促す連邦法制定や薬剤師や医師の意識改革もあり、問題は鎮静化していった。

 しかし1980年に医学誌「New England Journal of Medicine」に「麻薬類の治療による中毒者は稀にしか発生しない」と主張する論文が掲載され、オピオイド系薬剤の投与量、人数、投与期間等、重要な情報が欠けていたにも拘わらず、600以上の記事や論説に引用された。その後も同様の論文が発表され、オピオイド系薬剤の危険性より安全性や効用が主張されるようになった。医薬品が大量生産の時代に入ると、医療機関の増加や薬剤販売網の拡充等の背景もあり、純度が高く、強い効き目をもち、口から服用できるオピオイド系薬剤も大量に生産・流通されるようになった。20世紀の終わりには今日の蔓延の土壌というべき体制が形成されたという。

 今回、諮問委員会が発表した提言書にはは56項目の推奨事項が盛り込まれている。とりわけ注目されるのは、93カ所ある連邦及び各州の司法管轄地区全てに、ドラッグ・コート「薬物専門裁判所」を設置することを勧告していること。ドラッグ・コートとは、違法薬物の所持や使用、薬物依存による違法取引等の薬物事犯者(被告人)に対し、処罰よりも回復を目的とした制度や施設を指す。被告人の有罪が確定し、刑罰や処分を決定する前の段階で、検査官、弁護人、裁判官が協議し、薬物依存からの回復プログラムへの参加が妥当かどうか決める。決定され、被告人が同意した場合には6カ月間のプログラムが開始され、無事に修了すると仮釈放になる。その後、保護観察による定期的な薬物検査や薬物依存者用のプログラムへの参加が義務づけられ、回復をサポートするという内容だ。

 この薬物専門裁判所に対しては、申請により連邦政府からの助成金が拠出されることが、米合衆国憲法第34編10611節に掲げられている。通常、薬物関連の犯罪者は再犯率が高いといわれるが、米国のドラック・コートによるプログラム修了者の再犯率は低く、有効性が認められている。

 諮問委員会は、この他にも、薬物の乱用による死亡者や中毒者等のデータ収集とその共有化、麻薬中毒とオピオイド系薬剤の危険性を警告するメディアキャンペーン、医師・薬剤師等に対する薬物過剰投与・服用の副作用や弊害に関する教育・研修、乱用の危険性を中心とする患者へのインフォームドコンセントの徹底、オピオイド系鎮痛剤の削減と代替薬剤の使用の促進等も勧告している。

 さらに、処方箋の偽造や薬剤の流用を防ぐための電子処方箋の活用、救急医療従事者等により呼吸困難者に対する必要に応じた(オピオイド系薬剤の拮抗剤)ナロキソンの投与、患者満足度調査での痛みの項目の削除等も挙げた。近年、「痛みの見える化」すなわち痛みを数値化する傾向が強まっているが、痛みの抑制に向けた過度な治療もまたオピオイド系鎮痛剤の過剰処方につながっていると警告を発している。

 諮問委員会は、クリス・クリスティ・ニュージャージー州知事が議長。委員にはチャーリー・ベイカー・マサチューセッツ州知事、ロイ・クーパー・ノースカロライナ州知事、パトリック・J・ケネディ元下院議員、バーサ・マドラス・ハーバード大学医学部教授、フロリダ州司法長官の5名が務めた。

【参照ページ】Trump opioid panel will recommend nationwide drug courts, tightened requirements for prescribers
【参照ページ】Drug Courts
【参照ページ】Legal Information Institute :34 U.S. Code Subchapter XXX- DRUG COURTS
【参照ページ】オピオイド:日本ペインクリニック学会
【諮問委員会最終報告書】THE PRESIDENT’S COMMISSION ON COMBATING DRUG ADDUCYION AND THE OPIOID CRISIS

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