インデックス開発世界大手米MSCIは7月28日、2006年から2021年までの期間を対象に、ESGスコアと株価パフォーマンスの関係について分析した報告書を発表した。高いESGスコアは長期的なパフォーマンスに貢献すると結論づけた。
今回の発表では、過去15年間でのESG課題が企業の株価パフォーマンスにどのような影響を与えるかを調査したもの。ESG全体のスコアだけではなく各分野の重要課題まで細分化し、長期と短期の時間軸を加えて、ESGスコアと株価パフォーマンスとリスクの関係を分析した。
同報告書では、まず、15年間のESGスコアと株価パフォーマンスの長期的な関係を調査した。MSCI Worldインデックスの構成銘柄を対象に、MSCIのESGスコアで高い企業と低い企業に分類。上位20%と下位20%の企業の累積リターンを比較した。その結果、ESG全体スコアと各個別スコアで比較したすべての場合で上位企業のほうがリターンが大きかった。例えばESG総合スコアの比較では39%、Eスコアだけでは13%アウトパフォームした。
次に、事故やストライキ、不正、汚職といったイベントリスクが短期的に大きく株価を下落させる関係について分析した。イベントリスク指標としてドローダウンの回数を利用し、ドローダウンの頻度とESGスコアの関係を調査したところ、ESGスコアの高い上位20%の企業はドローダウンの頻度が少ないことがわかった。ESGの各分野のスコアで比較した場合でも同様の結果であり、市場価値の損失は50%から90%となっている。また、ガバナンススコアが下位20%の企業の場合、その後3年間に市場価値の90%を失う可能性は、上位20%の企業と比較して平均2.4倍も高い。
また、MSCIのESGのスコアとして活用される11の重要課題について、長期的パフォーマンスとドローダウンリスクについても分析した。
Eに関する重要課題のうち、二酸化炭素排出と有害物質排出は長期的な株価パフォーマンスと相関関係にある。一方で、水ストレス指標は数字としての結果はでなかったものの、水ストレスが半導体サプライチェーンに影響を与えている事例などに触れ、今後影響が発生すると見立てた。
Sでは、労働慣行のスコアが上位の企業は、下位の企業と比較して長期的なパフォーマンスに優れており、また、株価が大きく下落するリスクは3分の1だった。人的資本、データとセキュリティについては、水ストレス同様、今後影響が出るものと見立てた。
Gでは、長期的なパフォーマンス、ドローダウンリスクどちらも強い影響を与えていることがわかった。企業倫理と反競争的慣行は、イベントリスクの特性が非常に高く、逆に長期的なパフォーマンスに影響を与える可能性は少ない。企業倫理で下位の企業は、その後3年間に株価が急落する確率が上位企業の約4倍であり、汚職で下位の企業は、上位企業の2倍以上だった。一方、企業統治、汚職問題は、長期的なパフォーマンスに貢献していた。
今回の分析結果から、回転率の高い株式集中型のポートフォリオを構築する投資家は、短期的なイベントリスクに焦点を当てて管理することが望ましく、インデックスやバイ・アンド・ホールド投資家の場合には、長期的なパフォーマンスをより重視したESGの指標を重視するなど、目的に応じた各指標の活用を示唆した。
ESG投資のパフォーマンスに関しては、エネルギー価格が高騰したウクライナ戦争後は、アンダーパフォームしているとの話も出ている。MSCIは、ESG投資パフォーマンスが長期的に高いことを示すことで、ESGでの長期投資の魅力をあらためて伝えていると考えられる。
【参照ページ】Illuminating the Relationship Between ESG and Performance
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