国連海洋法条約の「国家管轄圏外区域の海洋生物多様性(BBNJ)」に関する政府間会議は3月4日、公海での生物多様性保全と持続可能な資源利用に関する条約案に合意した。2004年から開始した協議が約20年を経て、ようやく合意にたどり着いた。シンガポールが議長を務めた。次回会合での採択を目指す。国連海洋法条約には168カ国が加盟している。
海洋については、1994年に発効した国連海洋法条約が国際条約として機能しており、生物多様性の分野では1993年に国連生物多様性条約が発効しているが、国家管轄権が及ばないBBNJの分野については双方の条約でもカバーできず、新たな条約が必要となっていた。
同条約案では、公海の海洋遺伝資源に主権または主権的権利を主張・行使することを禁止。同資源を利用する場合は、人類共通の利益、特に発展途上国の利益を考慮することを義務化。また平和的目的に限ることも義務化する。利用する場合には、締約国がクリアリングハウス機構に事前通知しなければならない。
先住民族及び地域コミュニティが保有する国家管轄圏外区域の海洋遺伝資源に関連する伝統的知識を活用する際には、自由、事前及び情報に基づく同意(FPIC)の原則を明記。非金銭的利益配分の手法については、選択肢を列挙。サンプルへのアクセスやサンプル収集、デジタル配列情報へのアクセス、科学データへのアクセス、海洋技術の移転、研究関連のキャパシティビルディング等を挙げた。同資源から得られた金銭的利益は、専門家15人で構成するアクセス及び利益配分委員会の勧告に基づき、同条約が規定する資金メカニズムを通じて分配される。また、先進国は毎年、特別基金に資金を拠出する。拠出金負担額は今後決定する。
地域諸国で管理する公海上の海洋保護区の設置についても、同条約の事務局で統括する仕組みも導入する。関係国政府が事務局に提案書を提出し、幹事国が提案書を一般公開し、科学技術委員会が審査。審査結果も公表される。当該海洋保護区が、国家の排他的経済水域(EEZ)に完全に囲まれた地域に影響を及ぼす場合、当該国に事前通知し、積極的に協議することを義務化。締約国会議は科学技術委員会の勧告に基づき、最終承認を行う。締約国会議の意思決定は、コンセンサスを原則としつつも、3分の2の出席国があらゆる努力を尽くしたと決議した後に、4分の3以上の出席国の賛成で決議できるようにした。決定は決議の120日後に発効し、全締約国を拘束する。決議後120日の期間内に、いずれの締約国も異議を申し立てることができる。
締約国会議は、自然現象または人為的災害により、国家管轄圏外区域の海洋生物多様性に深刻なまたは回復不能な危害が生じ、もしくは生じるおそれがある場合、緊急措置を決定することができる。その際には、入手可能な最善の科学及び科学的情報や、入手可能な先住民及び地域コミュニティの伝統的知識を重視し、予防的アプローチも考慮する。緊急措置は締約国が終了を決議するか、措置発動から2年を経ると自動的に失効する。
締約国は、国家管轄圏外区域で行うプロジェクトが海洋環境に潜在的にでも悪影響を及ぼす可能性がある場合、事前に国内法令に基づき、環境アセスメントを行うことも義務化。アセスメント結果は、クリアリングハウス・メカニズムを通じて、公表できるようにする。同条約が設置する科学技術機関が、環境アセスメントのガイドライン等を開発し、締約国会議が採択する枠組みも盛り込んだ。また、アセスメントに関し、他の関係する締約国との協議することも義務化した。但し同意はまでは必要としていない。
紛争解決では、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、同附属書に指定された仲裁裁判所や特別仲裁裁判所を指定できる。
同条約は、60カ国目が批准していから120日後に自動的に発効する。留保は、同条約が明確に認めている箇所を除いて一切禁止。
【参照ページ】UN delegates reach historic agreement on protecting marine biodiversity in international waters
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