小売世界大手ウォルマートは1月17日、同社の来期(決算期1月末)雇用創出プランを発表し、来期だけで34,000人の雇用創出効果を生み出していくと宣言した。同社は現在米国国内で約150万人雇用しているが、店舗数拡大、既存店舗の拡張、Eコマースの拡大、配送センター設立などに今期だけで68億米ドル(約7,800億円)を投資し、雇用を創出していく。同時に、現在の店舗スタッフ225,000人以上に対してスキルアップのための特別研修プログラムを実施していく。
新規採用の内訳は、ウォルマートブランド店舗とSam's Clubブランド店舗の合わせて59店舗で新規出店、移転、拡張と、Eコマースサービスの分野で10,000人を採用する。残りの24,000人はこれらの店舗出店、移転、改装に伴う建設労働者。建設労働者の雇用は同社が直接実施するわけではないが、同社の雇用創出効果には、事業活動がらの派生で創出可能な数字も含めている。
店舗スタッフ向けの研修では、すでに全米40ヶ所にある「企業内大学」を今年7月までに全米160ヶ所にまで拡大し、225,000人の店舗スタッフを受入れていく。対象は主に店舗スタッフ主任や副店長級を対象とし、6週間をかけて、小売事業の基礎や、リーダーシップスキル、各担当セクションごとに必要なスキルなどを6週間をかけて実務形式でトレーニングしていく。研修プログラムでは、店舗での顧客ニーズの変化への対応などを目的とする他、店舗スタッフ自身のキャリア形成にも重点を置いていく。
ウォルマートの雇用創出はサプライヤーにも及ぶ。同社は2013年に、2023年までに合計2,500億ドル分の米国製商品を調達することを表明している。米国国内で生産、組立、調達をする企業の事業を支援することで、米国国内での雇用創出につなげるのがその狙いだ。同社のコミットメントを受けて米国国内に事業を移転させたサプライヤーも存在しており、雇用創出へのインパクトは大きい。例えばカリフォルニア・イノベーションズ社は「Ozark Trail」ブランドのクーラーボックスを販売するカナダ企業であるが、クーラーの製造拠点を中国から米国アトランタに移したことで米国内で350人の雇用が生まれた。また、カナダの衛生用品メーカーEdgewell Personal Care社もカナダから米国デラウェア州に製造拠点を移し、272人の雇用を創出。Renfro Corporation社もスポーツ用靴下の生産拠点を米国アラバマ州に開設することで442人の雇用創出につなげている。
さらに、全米市長会と協働したアパレル産業への支援策として、ウォルマート財団と共同で「米国製造業イノベーション基金」に来期300万米ドル(約3.5億円)を拠出する。ウォルマートとウォルマート財団は2014年から同基金に1,000万米ドルを拠出しており、来期もそれを続ける。2017年の拠出対象となる大学はワシントン州立大学、ノースカロライナ州立大学、クレムソン大学、オレゴン州立大学、テキサス・テック大学、マサチューセッツ大学ローウェル校の6校。各大学ではアパレル素材や製造工程での環境性能を向上させる研究開発を行っており、各大学の特定のプロジェクトに対して資金を提供していく。
ウォルマートが全米での雇用創出効果を急に発表し始めた裏側には、米国での産業復興を掲げるトランプ政権を意識していると考えるのが普通だろう。トランプ政権は国内製製品の販売を奨励していく姿勢も見せ始めており、同社は新政権の動きにいち早く対応し始めていると言える。一方、ウォルマートは米国外にも多数の店舗を運営しており、企業全体のサプライチェーンは世界中を駆け巡っている。企業にとって重要なステークホルダーの一つである「政府」との関わり方を模索しつつ、他のステークホルダーに対する価値創造をしていく舵取りを、ウォルマートは巧みに行っていく必要がある。
【参考サイト】Walmart outlines 2017 goals for American job growth and community investment
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