【環境】二酸化窒素濃度の高い国 ー中国・日本・イタリア・ドイツ・ベネルクス・英国ー 2016/01/13 体系的に学ぶ

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気候変動と大気汚染

 大気に関連する環境問題でよく耳にする言葉があります。気候変動と大気汚染。両者は全く別のものではあるのですが、同じ大気環境の話なのでよく混同しがちです。気候変動とは、広く気候条件が変化することを指しますが、特に最近では温室効果ガスにより地球の温度が上昇していく傾向のことを指します。温室効果ガスの種類にはいくつかあり、その中で最大のものが二酸化炭素(CO2)です。その他にもメタン、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスなどがあります。昨年末話題となった気候変動枠組み条約パリ会議でも二酸化炭素に関する報道がたくさんなされたのは、二酸化炭素が気候変動の大きな原因になっており、またエネルギー等で用いられる化石燃料の燃焼が二酸化炭素を大量排出させるからなのです。

温室効果ガスの種類
(出所:気象庁

 一方、大気汚染とは、大気中の煤煙や化学物質が人体の健康(特に呼吸器系)に悪影響を与えるもののことを言います。例えば、日本での四大公害のもととなった四日市ぜんそくでは工場から大量に排出された亜硫酸ガスが原因となりました。このように大気汚染の原因となる物質のことを大気汚染物質と呼びます。大気汚染物質の主要なものには、二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、PM10、PM2.5などがあります。PM10やPM2.5は日本の環境規制においては「浮遊性粒子状物質」の名で呼ばれています。大気汚染物質も化石燃料と密接な関係があります。石炭や石油には硫黄化合物が含まれており、これらを燃焼することで二酸化硫黄となり大気に排出されていきます。化石燃料以外の燃焼も問題となります。工場や自動車エンジンなどで燃焼がなされると、大気中の窒素が酸素と結合して二酸化窒素が生成されるのです。

NASAの二酸化窒素モニタリングプロジェクト

 2015年12月14日、米宇宙航空局(NASA)が二酸化窒素濃度に関する興味深い分析を発表しました。NASAは2004年に地球観測衛星オーラ(Aura)を打ち上げ、過去10年間この衛星に搭載している紫外線・可視光線高解像度イメージング装置(OMI)を活用して地球上の二酸化窒素濃度の分析をしてきていました。そしてこの度、過去10年間の二酸化窒素濃度の変遷を画像にしてまとめ発表を行ったのです。

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(出所:NASA

 上の図は2005年時点の世界の二酸化窒素濃度地図です。アメリカ東部、イタリア北部、ドイツ、ベネルクス、イギリス南部にかけての西ヨーロッパ地域、華北・香港・台湾・日本・韓国などの東アジア地域が赤くなっていることがわかります。これらの地域は世界の人口集積地帯や産業集積地帯となっている場所であり、その結果二酸化窒素濃度が非常に高いことが見て取れます。

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(出所:NASA)

 こちらの図は2014年時点の地図です。アメリカ東部や西ヨーロッパ地域の赤色が薄くなる一方で、中国大陸の赤色は広がってきています。またインド北部に赤い点が見られるようになってきています。この2005年から2014年にかけての変化をNASAは分析しました。

 動画の後半で紹介されている地図には、過去10年間で二酸化窒素濃度がどれだけ増減しているが示されています。青色は濃度が減少した地域、赤色は濃度が上昇した地域です。色を濃いほど減少・増加の度合いが大きいことを示しています。

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(出所:NASA)

 アメリカ東部では濃い青が多くなっており、環境規制や改善の成果がわかります。一方で、動画の中ではテキサス州周辺では濃度が濃くなってきている様子も紹介されており、原因としてはシェールオイル、シェールガス、地熱発電開発などで用いられる水圧破砕が挙げられていました。

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(出所:NASA)

 西ヨーロッパ地域では、特にイタリア北部、ベネルクス、イギリス南部での改善が目覚ましく、ドイツでは一帯が薄い青色になっています。もともと濃度が高くなかったスペイン北部でも濃度が大きく減少しています。この地図からはヨーロッパの環境政策の背景のようなものが浮かび上がってきます。ベネルクス、イタリア、ドイツ、イギリスと言えば太陽光発電や風力発電、地熱発電が大きく発展した地域です。これらの国で環境政策が大きく打ち出された背景には国民の環境意識の前に、大気汚染などが深刻化しており他国に比べて環境に関する危機意識や課題感が強かったと言えます。依然これらの地域ではまだ二酸化窒素濃度が他国に比べ高く、まだまだ対策が必要であることを同時に物語っています。

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(出所:NASA)

 東アジアでは中国大陸の悪化が一目瞭然です。とりわけ天津市、河北省と西隣の山西省は悪化具合がひどい状況です。中国の中でも上海や北京周辺は青くなっており、政府の対応が奏効しているようですが、それでも依然濃度は高い水準です。この図からは中国政府が躍起になって環境保護を強化しようとしている背景が理解できるような気がします。一方で、日本、香港及び珠光デルタ、台湾西部には青色が見えます。

 米国・西ヨーロッパ・日本では濃度が大きく下がったとは言え、2014年時点の地図からもわかるように世界の中で濃度が比較的高いということには変わりがありません。日本やドイツ、ベネルクスなどは環境先進国のイメージが強いですが、実態としては放置しておくと大気汚染が悪化してしまうため対策が必要であったということです。同様に中国やインドが同じ道を辿れるか、気候変動だけでなく大気汚染の文脈でも新興国の政策が世界の鍵を握りそうです。

 

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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