【戦略】フランス「エネルギー転換法」の内容 〜原発削減、気候変動情報開示、プラスチック製品・売れ残り食品廃棄禁止〜 2016/10/02 体系的に学ぶ

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 今日、フランスが2015年7月22日に制定した「エネルギー転換法(Energy Transition for Green Growth Act)[日本ではエネルギー移行法とも呼称されています]」が世界から大きく注目されています。この法律には、フランスを低炭素国家に変えていくための内容が数多く規定されています。制定時にとりわけ大きく報道されたのが、原子力発電割合の大幅削減です。フランスは世界の原子力発電大国で、現在電力の75%を原子力発電で発電しています。エネルギー転換法ではこれを2025年までに50%にまで引き下げることを決定しました。原子力発電大国の急速なエネルギー政策転換は、ヨーロッパだけでなく、世界中から大きく注目されています。

 エネルギー転換法が画期的であるのは、この原子力割合の削減だけに留まりません。食品廃棄物に関する内容、不動産の環境規制に関する内容、企業や金融機関の気候変動関連情報開示の義務化に関する内容など、法律の全文は8章215条に及び、エネルギーや資源に関する広範囲の内容を盛り込んでいます。この記事を執筆している2016年9月にも、フランス国会がファーストフード店などで常用されているプラスチック製の食器などを2020年までに禁止する法律を制定したことが報じられましたが、この規制もエネルギー転換法に書かれている内容のひとつです。

 フランスは以前、ヨーロッパの中でも環境分野での遅れが指摘されていました。エネルギー政策でも原子力発電依存が続く中、再生可能エネルギーの分野では、ドイツ、オランダ、イギリス、デンマーク、スペインなどに大きな遅れを採っていました。これを一新したのが、現在のオランド大統領です。社会党出身の大統領として2012年5月に就任したオランド氏は、大統領選挙の中でも「原子力から再生可能エネルギーへ」をマニフェストに掲げ、原子力発電を50%に引き下げることを訴え当選。2015年7月にエネルギー転換法を制定させ、同年12月に開催された気候変動枠組条約パリ会議(COP21)では議長国として名乗りを挙げ、パリ協定という大きな成果を残しています。

 もちろん、エネルギー転換法を制定するまでの道筋は平坦なものではありませんでした。オランド大統領は、着任後すぐの11月からまず国民の意見を広く徴収するため、2013年7月までの約9ヶ月をかけて「全国討論会」を開催、同7月に討論会の結果を総括した報告書をまとめます。その後、約1年間をかけ、セゴレーヌ・ロワイヤル環境・持続可能開発・エネルギー大臣がエネルギー転換法の法案をようやく閣議に提出できたのが2014年7月30日。そしてそこから国民議会(下院)と元老院(上院)での幾度の法案審議と修正案の審議を経て、両議会を通過したのが1年後の2015年7月22日です。さらに、フランスの立法手続きである憲法院に法案は回され、そこで食品廃棄物に関する条項が違憲だとの判断を受け削除された後、正式に成立したのが同年8月17日。全国討論会の開始から実に3年1ヶ月を経過していました。この間には、関連の業界団体や反対派議員からの激しい反発などがあったと言われていますが、オランダ大統領とロワイヤル大臣の強い結束により、最終的に法案成立に漕ぎ着けました。オランダ大統領とロワイヤル大臣は、元事実婚のパートナーという関係にあり、両氏の間には4人の子供がいます。両氏は、オランダ大統領が大統領選挙に出馬する前に事実婚関係を解消し、その後オランダ大統領は別の女性と事実婚関係にありますが、2007年に大統領候補となった力のある政治家であるロワイヤル大臣との政治的関係は非常に良好のようです。ちなみに、フランスでは事実婚は、1999年制定の市民連帯協定(PACS)によって誕生している合法的な関係であり、フランスにはこのような事実婚のカップルが非常に多くいます。

 また、エネルギー転換法は、法律の構造としても非常に珍しい形態を取っています。エネルギー転換法に規定された89の新ルールには、すぐに効力を持つ条項”Immediately applicable provisions”と、改めてルール制定手続きをとった後に効力を持つものが混在しています。ルール制定手続きにも、行政当局の判断で制定できるものから、フランス行政裁判の最高裁判所である国務院での審議を経て制定できるもの、フランス国会での採決を経て制定できるものまで様々です。この背景には、国会での審議を一気に進めると反対派により骨抜きにされるのを避けるため、内閣で大きな絵を先に描いた上で既定路線としてしまい、必要な手続きを後回しに取っていくというオランド政権の知恵が伺えますが、そのため制定されたルールの詳細が理解しづらくなっています。環境・持続可能開発・エネルギー省も、今年8月18日、最新のルール制定状況を反映させた「エネルギー転換法ユーザーガイド第2弾」を発行し、最新状況の告知に努めています。さらに、EU加盟国であるフランスで正式に成立した法律は、欧州委員会から内容について再審議を要請する判断が出ることもあり、ますますエネルギー転換法においても最終的な確定ルールがわかりづらくなる要因となっています。では、このように長い過程で産み出されたフランスのエネルギー転換法の内容を見ていきましょう。

エネルギー転換法の内容

エネルギー分野

 エネルギー政策における目標が、この「エネルギー転換法」全体の到達目標として位置づけられています。この中で、原子力比率を50%にまで下げ、替わりに再生可能エネルギー比率を大幅に引き上げていく大胆な政策が大きく注目されています。

・最終エネルギー消費を2030年までに2012年比で20%削減、2050年までに50%削減
・化石燃料消費を2030年までに2012年比で30%削減
・温室効果ガス排出量を2030年までに2009年比で40%削減、2050年までに75%削減
・電力に占める原子力発電割合を2025年までに50%に削減
・電力に占める再生可能エネルギー割合を2030年までに40%に引き上げ
・最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー割合を2020年までに23%、2030年までに32%に引き上げ
・炭素税の形でカーボン・プライシング制度(TICPE)を2020年までに導入(価格は炭素1トン当たり2020年時点で56ユーロ、2030年時点で100ユーロ)
・原子力発電分野における地域情報委員会(CLI)や原子力安全局の権限を強化。地域情報委員会は、少なくとも年1回公開の総会の開催、原発周辺地域への説明責任を電力事業者が果たすよう情報提供活動の内容を助言・監督
・現在稼働中の原子力発電最大容量である63.2GWを超える原子力発電所の新規建設を禁止
 (現在建設中の原子力発電所の稼働阻止を実質的に伴う規定)
・40年以上経過原子力発電の稼働ルールを厳格化
・再生可能エネルギー推進の妨げとなる規制を緩和し、手続きも簡素化

不動産分野

 フランスでは2012年時点で温室効果ガス排出量の44%が建物から排出されており、エネルギー転換法でもこの分野での対策を実施します。

・2017年までに建物のエネルギー効率改善のための大規模改修を毎年50万物件実施
・2050年までに新築物件は全て政府の定める低エネルギー建物(LEB)基準を義務化
・個人所有物件のエネルギー効率改善のための大規模改修には3万ユーロまで融資を無利子化、さらに8,000ユーロ(カップルには16,000ユーロ)まで大規模改修費用の30%を減税
・中央政府と地方政府はエネルギー効率改善のための大規模改修の妨げとなる法規制を撤廃

交通・輸送分野

 フランスでは2011年時点で温室効果ガス排出量の27%が交通・輸送分野から排出されており、その削減を目指すとともに、大気汚染も減少してきます。

・2030年までに再生可能エネルギー原料自動車比率を15%以上に引き上げ
・2030年までに電気自動車の充電スタンドを700万台以上設置
・2015年4月施行の電気自動車への購入補助金(最高1万ユーロ)制度を増額し延長
・2015年12月末まで個人が充電スタンドを設置する際に費用の30%を減税
・地方政府は新規公用車購入時の電気自動車等割合を50%以上に、全体の電気自動車等割合を20%以上に移行
・2025年以降、地方政府経営バス事業者では全バスを低エネルギーバスに移行
・地方政府は大気汚染深刻地域での自動車進入禁止規制が可能に
・レンタカー会社やタクシー・バス会社は新車購入時の低エネルギー車割合を10%以上に

サーキュラー・エコノミー

 資源や食品の廃棄物を削減し、EUも推進する「サーキュラー・エコノミー」国家への移行を目指します。とりわけ、ビニール袋やプラスチック製食器の使用禁止を決めたことが耳目を集めています。ビニール袋の使用禁止は他国でも前例がありますが、今年7月にあらためて国会を通過し制定されたプラスチック製食器の使用禁止は世界初と言われています。また、国会通過時には、食品業界に売れ残り品の廃棄を禁じ、売場面積が400m2を超える小売店舗に対しては売れ残り品を寄付等に活用するための慈善団体との契約を義務付ける施策なども盛り込まれていましたが、これらの規定は憲法院での審議時に削除されています(詳細は後述)。

・埋立廃棄物量を2025年までに50%削減
・家庭ごみを2020年までに10%削減
・2025年までに家庭ごみの食品廃棄物分別回収を地方政府が制度化
・給食や配膳サービス企業に食品廃棄物削減を義務化する制度を立法化
・建設廃棄物を2020年までに70%削減
・無害廃棄物のリサイクル比率を2020年までに55%、2030年までに65%に引き上げ
・小売店等でのビニール袋の使用を2016年1月から禁止
 (実際には欧州委員会から規定の明確化要請が入り、小売店等で一般的な薄型使い捨てビニール袋[厚さ0.05ミリ以下]のみを対象とし、2016年7月から施行開始。コンスターチやポテトスターチなど植物由来成分配合のビニール袋の使用は引き続き可能)
・野菜・果物・肉・魚包装用のビニール袋の使用を2017年1月から禁止
・プラスチック製のコップ・食器・皿の使用を2020年1月から禁止
 (2017年1月からの禁止を求める声もあったが、貧困層が家庭でプラスチック製食器を常用していることなどから、施行を2020年に先延ばし)
・紙のリサイクル割合を2017年1月から25%、2020年1月から40%に義務化
・車修理企業に対し顧客にリサイクルパーツの使用を提案することを義務化
・廃棄物の不法処理や不法海外輸出の取締を強化

企業及び金融機関の気候変動関連情報開示

 ESG投資の分野では、エネルギー転換法が制定した気候変動関連情報の開示義務化が大きな期待を集めています。気候変動関連情報の開示に関しては、エネルギー転換法173条で定められています。173条では、上場企業、銀行、機関投資家に対して、気候変動リスクに関する情報を「Comply or explain」原則に基づきアニュアルレポートの中で開示することを義務化しました。このルールの適用は、2016年1月を含む会計年度のアニュアルレポート発行から開始され、2017年6月30日までに実施することが決まりました。総資産が5億ユーロ未満の小規模機関投資家は適用除外を受けることができ、173条で定める詳細開示項目ではなくESGファクターの考慮概要だけの報告が課されます。

 この173条の条項は、今年5月に修正案としてエネルギー転換法に盛り込まれることが国会で決まったもので、法案審議の最終段階に内容が明らかとなりました。その後、エネルギー転換法が8月に成立したことで、フランスは気候変動関連情報の開示義務化を定めた世界初の国となりました。機関投資家に対する気候変動関連情報の開示義務化の詳細内容については、法成立した8月から12月まで関係各界との協議が重ねられ、12月31日に大統領および首相が行う行政命令である「デクレ(Décret)」の形で正式に詳細ルールが発せられました。デクレでは、年金基金、保険会社などアセットオーナーや運用会社に対する開示義務化の項目を定めていますが、実際には基準は解釈の余地を機関投資家に残す内容となっています。また、開示情報の第三者認証についての規定はなく、情報の信憑性についても機関投資家自身に委ねる内容となっています。フランス政府は2年後に実施状況レビューを行う予定です。デクレは発布翌日の2016年1月1日に発効しています。

■エネルギー転換法で定められた主な内容

※以下全て「Comply or explain」が適用」

◯上場企業
・アニュアルレポートの中での以下3点の開示を義務化
1. 気候変動に関する金融リスクの内容
2. リスク低減するための措置
3. 現行法で義務化されている事業や商品が及ぼす環境・社会影響への開示に加え、気候変動への影響

◯銀行・信用提供機関
・アニュアルレポートの中での以下2点の開示を義務化
1. 過剰レバレッジのリスク(気候変動に限定しない)
2. 気候変動シナリオを含む通常ストレステストによって明らかとなったリスク

◯機関投資家
・アニュアルレポートの中での以下2点の開示を義務化
1. 投資判断において考慮されるESG基準の内容
2. 投資政策において国が推進するエネルギー転換戦略をどのように考慮しているか

■機関投資家向けにデクレで定められたアニュアルレポートでの開示義務化の主な内容(以下全て「Comply or explain」が適用」)

※以下全て「Comply or explain」が適用」

◯ESGインテグレーョンに関する情報
・投資判断やリスク管理においてESG情報をどのように考慮しているか
・運用会社に対しては、ESGインテグレーションを実施してるファンド名と運用残高(AUM)の割合
・ESG分析の手法と理由付けの手法
・分析と取組実施結果に関する情報

◯気候変動関連リスクの考慮に関する情報
・気候変動が直接的にもたらすリスクとエネルギー転換がもたらすリスク
・温暖化防止のための国際合意や「フランス低炭素戦略」での目標達成に向けた貢献へのアセスメント
※リスク分析においては、気候変動や異常気象がもたらす影響、天然資源価格が利用可能性の変化がもたらす影響、気候変動に関する政策変化がもたらす影響、エネルギー移行に貢献する資産への投資額、投資先企業が間接または直接的に排出する過去、現在、未来の温室効果ガス量などを考慮に入れるよう推奨

◯国際または国内の脱炭素化目標に向けた自主的取組に関する情報
・脱炭素化に向け自主的に定めた達成目標
・自主的目標を達成するための投資ポリシーの変更、ダイベストメント、エンゲージメントなど具体的方策
※セクター別の定量目標を定めることを推奨

食品廃棄物に関する規定

 上述したように、食品廃棄物に関する義務化に関しては、憲法院での法案審議の過程で違憲判断を受け削除されました。あらためてその規定の内容とは、食品業界に売れ残り品の廃棄を禁じ、売場面積が400m2を超える小売店舗に対しては売れ残り品を寄付等に活用するための慈善団体との契約を義務付けるというもの。しかし、違憲判断の中身は、規定の内容に関するものではなく、立法手続に不備があったというものでした。食品廃棄物に関する義務化条項は、法案審議の過程で国会の第1読会に間に合わず第2読会の中で盛り込まれており、憲法院はこのことから十分に審議がなされないまま国会採決に至ったことを問題視、違憲の判断が下されました。また、違憲審議の裏でも、狙い撃ちをされた食品業界からは「家庭からのほうが食品廃棄物を多く出ているのに」と反発の声が上がっていました。

 違憲判決を受けた政府は、すぐさま大手流通業者との協議を開始。法律制定に向けての努力を継続させていきます。早速、ロワイヤル環境・持続可能開発・エネルギー大臣は8月27日、フランス国内の大手小売企業を招集し会議を実施。参加した大手小売企業は全てその場で、エネルギー転換法に盛り込まれるはずであった規定を自主的に実施することを宣言しました。そして、国民議会と元老院はこの内容に関する法案を再審議し2月3日に元老院を通過、政府は最終的に法成立させることに成功しました。法律には、2016年7月末までに慈善団体との契約を締結を迫る期限が設けられるとともに、違反して食品を廃棄した企業には違反の度に最高3,750ユーロ(約48万円)の罰金が科せられることも盛り込まれました(※法案当初は罰金最高7万5,000ユーロもしくは2年以下の懲役であったがその後大幅に減刑)。これにより、フランスは小売店に売れ残り食品の廃棄を禁止する世界初の国となりました。フランスでは現在、毎年約2,200万トンの食料が廃棄されており、そのうち食べられるのに廃棄されている「食品ロス」が約710万トンあると言います。この710万トンのうち、67%が一般家庭、15%がレストラン、11%が小売店で廃棄されており、小売店からの約70万トンの食品ロスがゼロになることが期待されています。

気候変動対応に大きく舵を切ったフランス

 COP21でパリ協定の国際合意を取り付けたフランス。議長国フランスが果たした役割は、単にCOP21の会場を提供しただけでなく、約1年前からの入念な各国への働きかけや、会期中に紛糾しかけた議論を必死に繋ぎ止めるという立ち回りがありました。その意気込みが国内で結実したのが、このエネルギー転換法だと言えます。原子力依存からの脱却や、気候変動情報開示の義務化やプラスチック製品や食品廃棄物削減といった世界初の取組。ドイツやイギリスに大きく差をつけられていたフランスが、ここに来て急速にヨーロッパの環境政策先進国へと飛躍を遂げてきています。

【法律】エネルギー転換法
【デクレ】Final Decree of the implementation of Art 173 of the French Law on the Energy Transition for Green Growth
【参考ページ】ENERGY TRANSITION FOR GREEN GROWTH ACT in Action
【参考ページ】Module de suivi de la loi de transition énergétique
【参考ページ】A ban on plastic bags distributed at cashiers in French shops came into force Friday, as the country makes the environmentally-friendly shift to recyclable and reusable biodegradable bags.
【参考ページ】EU thwarts French plastic bag ban — for now
【参考ページ】PRI “French Energy Transition Law”
【参考ページ】French Supermarkets Enter Voluntary Food Waste Agreement
【参考ページ】French law forbids food waste by supermarkets

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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