【食品】ハエで食糧危機と有機廃棄物問題を同時に解決。世界が注目する日本企業「ムスカ」 2018/08/02 事例を見る

 イエバエ。人の暮らしの中で最も目にするハエの種だ。これまでは「害虫」とも呼ばれてきたイエバエが、いま世界の食糧危機と有機廃棄物問題を同時に解決する新たな技術になろうとしていると言ったら驚くだろうか。そんな離れ技を実現しようとしているのが福岡市に本社を置くスタートアップ企業ムスカ。いま日本国内だけでなく海外からも大きな注目を集めている。

 ハエが社会課題を解決すると言われても普通の人はピンとこないかもしれない。しかし、話はそんなに難しくない。まず有機廃棄物から考えてみよう。有機廃棄物とは、食品廃棄物や家畜の糞尿のことで、事業者から出る有機廃棄物は産業廃棄物として扱われている。日本では食品廃棄物だけで年間2,800万tも出ており、食品リサイクル法の下で肥料や飼料への活用が進められている。だが、現状処理や堆肥肥料の需要が追いつかず、日本国内の倉庫には処理待ちの食品廃棄物が溢れかえっている。ハエの幼虫は、そのような有機廃棄物を餌として消費し成長する。そしてハエも昆虫なので、摂食後には排泄物を排出する。ここが今回のストーリーの大きなポイントとなる。

 ハエの幼虫は実は栄養価が高い。国連の中で食糧問題を扱う食糧農業機関(FAO)も、2013年に家畜の飼料に昆虫を用いることを呼びかけたりするほど、昆虫の栄養素としての可能性はここ数年で大きく注目されている。これまでタンパク性飼料では魚粉が活用されてきたが、近年魚粉は需給が逼迫し、世界的に価格が高騰している。しかも、魚粉の原料となる魚は増産が難しい。一方、昆虫は栽培により大量生産が容易。こうして昆虫飼料への期待がどんどん高くなっている。

 ハエの幼虫が排出する排泄物も栄養価が高い。人類の歴史では、ヒトや家畜の糞が農業肥料として用いられてきたことはよく知られている。ハエの幼虫が出す排泄物も同様に農業肥料に適している。今後世界の人口が増加する中、食糧生産性の向上は不可欠だと言われている。ハエが生み出す天然の農業肥料は食糧生産を増やす大きな可能性を秘めている。

 ムスカの強みは、この有機廃棄物の摂食と栄養価の高い幼虫と排泄物を生み出す優れたイエバエの品種を、45年間かけて1,100世代の選別交配によって創り出したことにある。すなわちムスカの商品である「イエバエ」は、ただのイエバエではなく、有機廃棄物処理と食糧生産性増加のための機能を大きく高められたハエなのだ。このイエバエの研究は、45年前に旧ソ連の研究所で始まる。その後、旧ソ連の特許技術を日本技術商社アビオスが取得。今回、アビオスのイエバエ事業が2016年に分社化されたのがムスカだ。

 次にムスカのイエバエの優位性を見てみよう。有機廃棄物の一般的な処理方法は、土に混ぜ微生物による堆肥化。しかし、堆肥化の過程では、メタンガスや亜酸化窒素等の温室効果ガスが発生し、悪臭や酸性雨の原因となるアンモニア生成される。堆肥化させた有機廃棄物を農地に過剰散布すると地下水汚染や悪臭の原因ともなる。堆肥化には通常2ヶ月から3ヶ月という時間がかかるという低効率も課題となっている。

 一方、ムスカのイエバエの幼虫は、わずか1週間で有機廃棄物を摂食、分解してしまう。この圧倒的なスピードが1つ目の特徴だ。摂食は管理のもと工場内で実施されるため大気汚染物質や温室効果ガスの回収も可能。さらに、有機廃棄物が含有する窒素分は、イエバエ幼虫が吸収してしまうため、排泄物は低窒素有機肥料となる。そのため農地に散布しても地下水汚染のリスクが非常に少なくできる。

 2つ目の特徴は、幼虫と排泄物の性能の高さ。ムスカのイエバエ幼虫を用いた家畜飼料は、通常の餌に混ぜると40%の増体効果が確認された。また、家畜にとっても餌の魅力が高く通常の餌に混ぜるだけで5%の誘引効果(餌摂取効果)が得られた。加えて、この家畜飼料を摂取したマダイはエドワジエラ病に対する耐性が上がり病気にも強くなることがわかった。

 同様に排泄物を用いた農業肥料もすごい。一年以上の発酵期間をかけた完熟堆肥よりも収穫量を15%も引き上げる効果が確認された。また、同様に栽培植物に対し抗菌作用をもたらすことも確認された。最近では化学肥料に対する懸念が欧米を中心に強まってきているが、天然肥料のイエバエ幼虫排泄物はむしろ追い風となる。ムスカは、この「スーパーイエバエ」を高速培養する技術を確立した。

 当然世界にはムスカの競合もいる。現在、オランダ、南アフリカ、カナダの企業が昆虫を用いた同様の取組を推進している。しかし、同社によると、ムスカのイエバエは、有機廃棄物であれば何でも分解できる特長や、幼虫も排泄する排泄物も飼料や肥料にできてしまうという「ムダなし」な点により、他社のものより優れているという。そのため、海外からの注目度も高い。

 ムスカは2016年に設立してからまだ2年と日が浅いが、中核技術となるイエバエは45年という長い歴史を経ている。もちろんこれから様々な課題が出てくるかもしれないが、新しいチャレンジを応援していきたい。

【企業サイト】ムスカ

著者プロフィール

夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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