カナダ国家エネルギー委員会(NEB)は2月22日、アルバータ州エドモントンからブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーの西郊バーナビーまで約1,200kmの石油パイプライン「トランス・マウンテン・パイプライン」を複線化するプロジェクト「トランス・マウンテン・エクスパンション・プロジェクト(TMX)」について、環境や地域社会への悪影響があるものの、公益のためには実施すべきという意見書をまとめ、カナダ連邦政府に提出した。連邦政府が最終判断することになる。
(出所)カナダ連邦政府
同プロジェクトは、当初は米Kinder Morganの子会社Kinder Morgan Energy Partnersが2013年にカナダ国家エネルギー委員会に申請。環境破壊への懸念等から反対運動が起こったものの、2016年にカナダ連邦政府は同プロジェクトをアセスメントの条件付きで承認。ブリティッシュ・コロンビア州のクリスティー・クラーク知事も2017年11月、同プロジェクトから年間10億カナダドル(約850億円)のレベニューシェアで合意し、さらに年間20億カナダドル(約1,700億円)の州内経済効果があることから、同プロジェクトへの支持を表明していた。
しかし、環境NGOや先住民団体からの反対運動が根強いため、カナダ連邦政府は2018年5月、連邦政府直属のカナダ開発投資公社を通じて、同プロジェクトを45億米ドル(約5,000億円)でKinder Morgan Energy Partnersから買収すると発表。2018年8月、Kinder Morganの株主総会は売却を承認。そして同日、カナダ控訴裁判所は、同プロジェクトに対してカナダ国家エネルギー委員会が認めた承認を、環境NGO及び先住民団体との協議不足を理由に撤回する決定を下した。そのため、同委員会は再度承認判断をする状況にあった。
今回、国家エネルギー委員会は、パイプラインで運ばれた石油を海上輸送するための航行により、「サザンレジデント・キラーホエールズ(SRKW)」という種のシャチと、それを食する先住民に対し著しい悪影響を及ぼしうると判断。また、航行により二酸化炭素排出量も著しく増加すると結論づけた。また、パイプラインやタンカーからの原油漏出が発生した場合、周辺環境に著しい悪影響を及ぼしうることも認めた。しかしその上で、顕著な経済便益があるため同プロジェクトを進めるべきと提言した。経済便益には、カナダ産原油の輸出拡大、雇用創出、地域及び先住民の能力開発、パイプライン建設による関連産業への経済波及効果、地方政府および連邦政府の歳入拡大を挙げた。
同委員会の提言では、悪影響を低減するための措置を打つことも同時に提言しているものの、著しい悪影響の可能性を認めた上で建設承認を下したことに対し、環境NGOや先住民だけでなく、近隣の米ワシントン州知事からも非難の声が上がっている。
【参照ページ】NEB releases Reconsideration report for Trans Mountain Expansion Project
【参照ページ】Kinder Morgan Canada Limited - Trans Mountain Pipeline and Expansion Project Transaction Closes
【参照ページ】Expansion Project
【参照ページ】Trans Mountain Expansion Project
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