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【日本】政府、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」採択。ほぼ全業種でロードマップ提示

 日本政府の経済財政諮問会議の下に設置されている、加藤雅信・官房長官が議長を務める成長戦略会議は12月25日、10月に宣言した「2050年カーボンニュートラル」に基づき、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を採択した。気候変動緩和を「成長の機会と捉える時代」になったと位置づけ、広範囲に渡る業種に対し、変革のロードマップを示した。

 同戦略の対象となった業種は、電力・エネルギー、自動車・バッテリー、半導体・情報通信、船舶、物流・交通・土木インフラ、食料・農林水産業、航空機、カーボンリサイクル関連、住宅・建築・不動産、資源・素材、ライフスタイル、金融。各々について、2025年までの各年、2030年、2040年、2050年の工程表が示された。

 工程表の内容は大雑把な点は否めないが、2050年までのカーボンニュートラル達成に向け、包括的なロードマップを示した意義は大きい。また、通常このような業界の大変革については、各府省の審議会等で関係各者の調整を図り、じっくり議論をして固めるのが従来の政府の通例だが、今回は府省内部だけで、短期間でロードマップを仕上げた。

 エネルギー・電力では、洋上風力発電を2030年に10GW、2040年に30GWから45GWを国の目標として決定。産業界は、国内調達率目標を2040年60%、コスト低減目標として、2030年から2035年までに1kWh当たり8円から9円にコミットするよう求めた。アジア展開も見据え、浮体式洋上風力発電では国際規格を主導する意気込みも見せた。

 燃焼アンモニアでは、2030年に向け、20%混焼の実証(3年間)を経て、電力会社を通じてNOx抑制バーナーとアンモニア燃料をセットで実用化。既存の東南アジア石炭火力発電の1割に混焼技術を導入できれば、5,000億円規模の投資との期待感も見せた。そのためASEANとの協議を強化する。生産プラントや海外の積出港整備への投資拡大や、日本がコントロールできるサプライチェーンを目指しエネルギー安全保障にも対応するという。価格は、2030年には、現在の天然ガス価格を下回る、Nm3-H2当たり10円台後半での供給を目指す。

 同様に水素も、導入量を、2030年に最大300万t、2050年に2,000万t程度を目指す。コストは2050年に1Nm3当たり20円以下を目標に設定。水素の活用面では、水素発電タービンで先行して市場を立ち上げアジア等に輸出、FCトラックを世界と同時に国内市場を立ち上げ各国にも輸出、水素還元方式製鉄でも世界に先駆けて技術を確立するという。水電解装置の海外輸出も視野に入れる。

 原子力発電は、現行の軽水炉ではなく、小型炉(SMR)、高温ガス炉、核融合炉の3つをロードマップに入れた。SMRでは、海外の実証プロジェクトと連携した日本企業の取組を支援。高温ガス炉では、高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し安全性の国際実証だけでなく、カーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援。核融合炉では、ITER計画を始めとした国際共同技術開発を日本の計画にも反映し、米・英のベンチャーと日本のベンチャー・メーカー等が連携を加速する。また、グリーン水素の生産でも、これら原子力発電の新技術を電源としていく考えを示唆した。

 自動車・バッテリーでは、遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現とし、小泉進次郎・環境相が求めていた「2035年」の明記は避けた。商用車でも、乗用車に準じて2021年夏までに検討を進める。軽車両も電動化の対象とする。また、電動化だけでなく、水素と二酸化炭素で生産する合成燃料もロードマップに加えることで、内燃機機関部品サプライヤーへの配慮を見せた。バッテリー価格では、2030年までのできるだけ早期に車載用の電池パックを1kW当たり1万円以下にするとした。太陽光併設型の家庭用蓄電池でも、2030年までに工事費込みで1kWh当たり7万円以下を目指す。またEUで法制化検討が進む、バッテリーのリサイクルやカーボンフットプリントの算出・開示についても検討材料として例示した。但し、2030年以降のロードマップ
について白紙とした。

 半導体・情報通信では、DX推進に伴う、グリーンなデータセンターの国内立地推進と次世代情報通信インフラの整備を掲げた。データセンターでは、サーバ、メモリ、光デバイス、空調・電源等の国内調達を拡大。さらに、2030年までに全ての新設データセンターを30%省エネ化させ、データセンター使用電力の一部再生可能エネルギー化を義務付ける案も示した。業界全体では、2040年にカーボンニュートラルを目指す。

 船舶では、LNG、水素、アンモニア等のガス燃料船開発に係る技術力を獲得するとともに、国際規格化を主導することを柱とした。一方、近距離・小型船向では燃料電池化や電動の普及を促進する。LNG燃料船の高効率化では、低速航行、風力推進システムと組み合わせ二酸化炭素排出削減率86%を達成するとともに、再生メタン活用による実質ゼロエミッション化を掲げた。IMOのEEXI対応でも、格付け制度を導入し、省エネ・省CO2排出船舶にインセンティブを付与する。

 物流・交通・土木インフラでは、火力発電所や石油化学コンビナートが立地する港湾・臨海部で日本の二酸化炭素の6割が排出されている現状を踏まえ、カーボンニュートラルポート(CNP)を全国に展開。都市交通でも、LRTやBRT等の低炭素インフラを増強する。自転車活用も促進する。FC鉄道車両の社会実装では、関連基準・規制等、必要な環境整備を検討するとした。建設でも、地方自治体の工事を施工している中小建設業へICT施工の普及を行い2030年に段階で年間32,000tの二酸化炭素排出量削減を目指す。2050年では建設施工でもカーボンニュートラルを掲げた。

 食料・農林水産業では、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する。さらに、農林水産業における化石燃料起源の二酸化炭素ネット排出量をゼロにする。それでも残る排出量については、農地、森林・木材、海洋における炭素の長期・大量貯蔵を実現。その手段の一つとして、ブルーカーボンの炭素吸収量のインベントリ登録、藻場・干潟等を対象にしたカーボンオフセット制度を挙げた。農林水産省からは、成長戦略会議の中で別途、同省の「みどりの食料システム戦略」を資料を提示。化学農薬と化学肥料の使用量削減と有機農業面積の拡大を、排出量ゼロの政策として含めた。

 航空機は、電動化、水素航空機、持続可能なジェット燃料(SAF)の3本立て。電動化では、2030年までに機体のモデルチェンジに合わせ、装備品電動化に向けた技術、ハイブリッド電動化向け技術を確立。2050年に向け、装備品市場の拡大や、小型機(20人以下)における全電動化、リージョナル機(100人以下)以上のハイブリッド電動化に向けたコア技術の拡大、組み立て技術の確立を目指す。水素航空機では、2030年に向けて、欧米との連携を強化するとともにコア技術(水素貯蔵タンク、燃焼器等)の研究開発を促進。2035年以降の水素航空機の本格投入を見据える。SAFでは、バイオ燃料で、コストを2030年に既存燃料と同価格となる1L当たり100円台を目指す。また、2050年に向けては、ガソリン価格以下の合成燃料の実現を目指す。

 カーボンリサイクルでは、CO2-SUICOM技法のコンクリート生成、藻類バイオ燃料、人工光合成プラスチック生成、CCUS(炭素回収・利用・貯留)の4つを掲げた。コンクリートでは、CO2-SUICOM技法のコストを2030年に既存コンクリートと同等の1kg当たり30円を目指す。また2050年までに、防錆性能を持つ技術も確立し用途を大幅に拡大する。需要促進のため公共調達による販路拡大も掲げた。藻類バイオ燃料は、2030年に既存のジェット燃料と同等の1L当たり100円台を目指す。コスト目標では、2030年に変換効率の高い光触媒を開発し、製造コスト20%減を目指し、2050年には、既存のプラスチック製品と同等の1kg当たり100円を目指す。CCUSでは、EOR(原油増進回収法)を柱に据えた技術開発を実施し、2050年に世界の分離回収市場で年間10兆円の3割シェア実現(約25億t相当)を目指すという。

 住宅・建築物・不動産では、全体的にエネルギーマネジメントによる省エネを実施しつつ、建物ではZEHとZEBを推進するための規制強化と木造建造物の普及拡大を、建材では断熱サッシ等の建材・エアコン等省エネ基準の強化を掲げた。特に住宅では、省エネ住宅の普及や断熱性向上のリフォームの拡大も盛り込んだ。

 資源・素材では、2023年以降にバイオ素材やリサイクル技術を展開していけるように進めるとした。それ以外の内容は薄く、他の業種に比べて、非常に薄いロードマップとなっている。

 ライフスタイル関連では、産業というよりも、「国・地方脱炭素実現会議」での議論も踏まえ、各地域で実現して行くべき内容をまとめた。具体的には、住まい・移動のトータルマネジメント(ZEH・ZEB、需要側の機器(家電、給湯等)、地域の再生可能エネルギー、動く蓄電池となるEV/FCV等の組み合わせを実用化)、ナッジやシェアリングを通じた行動変容、デジタル技術を用いた二酸化炭素排出量削減のクレジット化等を促す技術開発・実証、導入支援、制度構築等に取り組む。ロードマップでの表現は、現在想定されるアクションを並べるにとどめた。

 金融では、脱炭素化には向かわないが低炭素には貢献する分野にファイナンスする「トランジションファイナンス」が重要と位置づけ、経済産業省が強く求めていた内容が織り込まれた。成果連動型の利子補給制度(3年間で1兆円の融資規模)を創設し、先端低炭素設備投資促進のための取組では1,500億円以上の投資誘発を目標に据えた。政府提供のリスクマネーに関しては、日本政策投資銀行(DBJ)の特定投資業務の一環として「グリーン投資促進ファンド」を創設し、洋上風力発電や次世代型バッテリーで800億円の資金を提供する。ESG投資やサステナブルボンド(ESG債)についても記述したが、具体性はなかった。

 また政府としての財政出動や税制面では、2兆円のカーボンニュートラル基金については、経済産業省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に10年間で2兆円の基金を創設することを表明。企業のイノベーションを支援する。また2兆円の基金を呼び水として、企業の研究開発・設備投資で15兆円を誘発したいとした。別途税制支援も打ち出し、10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を見込む。具体的な税制では、脱炭素化の設備導入での最大10%の税額控除または50%の特別償却、一定の条件を満たす企業の繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例の創設、研究開発税制の控除上限を法人税額の25%から30%までに引き上げ、の3つ。これら3つは、与党の2021年度税制大綱ですでに発表済みの内容。

【参考】【日本】政府、32兆円の補正歳出を閣議決定。経済構造転換に重き。与党は来年度税制大綱も決定(2020年12月10日)

 さらにカーボンプライシングについても明記した。選択肢としては、クレジット取引と炭素税の可能性を併記。同時にカーボンリーケージ議論も踏まえ、国境調整措置も必要とした。

【参照ページ】成長戦略会議(第6回)配布資料

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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