英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は8月17日、英国政府発の「水素戦略」文書を発表。同時に、「低炭素水素基準」「ネットゼロ水素ファンド」「水素ビジネスモデル」でも素案を示し、パブリックコメントの募集を開始した。
英政府の「水素戦略」は、ジョンソン首相が2020年11月に発表した「10ポイント・プラン」に基づくもの。英政府は、水素ビジネスで2030年までに9,000人以上の雇用創出と、40億ポンド(約6,000億円)の投資ポテンシャル創出のため、2030年までに低炭素水素生産能力を5GWにまで伸長。2050年には、雇用創出で10万人、経済価値で130億ポンド(約1.9兆円)を見込む。また、2050年までには英国のエネルギー消費の20%から35%を水素に転換する必要があると試算している。
【参考】【イギリス】首相、2030年ガソリン・ディーゼル新車販売禁止方針表明。脱炭素に向け10重点施策も発表(2020年11月19日)
今回の「水素戦略」では、グリーン水素とブルー水素の双方の技術開発を支援する「ツイントラック」アプローチを採用。グリーン水素に絞るEUの戦略とは一線を画した。政府は2022年に製造戦略の詳細と、水素セクター開発アクションを策定・公表する。また、グリーンウォッシュを避けるため、低炭素水素に関する基準も策定し、信頼性による需要と供給の好循環を促す。また、水素インフラも見直し、既存のガスインフラでも水素を20%混合することの安全性、技術的実現製、コスト効果も評価。これにより天然ガスからの二酸化炭素排出量を7%削減しにいく。
英政府は今回、最大の課題であるコスト課題を克服するためのビジョンも示し、同時に重工業向けの低炭素水素経済移行のための1億500万ポンド(約160億円)の追加予算も発表した。補助は「ネットゼロ・イノベーション・ポートフォリオ」を通じて拠出される。支援分野は、
- Industrial Fuel Switching Competition:産業用の天然ガス等の高炭素燃料をクリーン水素等の低炭素燃料に転換するのに5,500万ポンド
- Red Diesel Replacement Competition:建機でのディーゼル燃料を低炭素燃料に転換するのに4,000万ポンド(一方で、ディーゼルとバイオディーゼルへの補助金は廃止)
- Industrial Energy Efficiency Accelerator(IEEA):クリーンテクノロジー開発への補助に1,000万ポンド
英国政府は、水素分野では他にも、新規水素製造のための「ネットゼロ水素ファンド」で2.4億ポンド、産業エネルギー転換ファンドに3億1,500万ポンド、低炭素水素供給公募「Low Carbon Hydrogen Supply 2」で最大6,000万ポンド、長期蓄電公募「Longer Duration Energy Storage Demonstration」で6,800万ポンド、大型車・海運・航空の水素エネルギー(FCV)転換で1億8,300万ポンドをすでに発表済み。
英政府は別途、安全衛生局およびエネルギー規制機関Ofgemと協働で、熱源の脱炭素化での水素活用の実証実験も支援している。実証の結果は2026年に策定予定の戦略に組み込まれ、順調にいけば2035年までに家庭、企業、自動車、調理器、ボイラー等で水素を熱源として活用することが見込まれる。
英政府は今回、水素戦略の基には、英政府の洋上風力発電での成功体験があることを明らかにした。政府が早期に目標を示し、企業が強力にバックアップすることで、世界をリードできると言及。特に、差額決済契約(CfD)モデルでの成功を強調した。
英政府は、11月の第26回気候変動枠組条約グラスゴー締約国会議(COP26)に向け、産業戦略策定を続々と発表している。すでに「工業脱炭素化戦略」「交通・輸送脱炭素化戦略」「北海トランジション・ディール」を発表済み。年内にはさらに「熱・不動産ネットゼロ戦略」も発表する予定。
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は8月18日、別途、電気自動車(EV)分野への総額9,100万ポンドの補助金支給先も発表している。同補助金は、内燃機関自動車と同等の航続距離と、12分以内のフル充電完了を目標に設定。例えば、BMW英国法人のEVバッテリー開発に2,620万ポンド、CELERITASプロジェクトの超高速充電機開発に970万ポンド、商用車EV開発のREEcornerに4,120万ポンド等を支給した。
【参照ページ】UK government launches plan for a world-leading hydrogen economy
【参照ページ】£91 million funding for low carbon auto tech including hydrogen engines and ultra-fast charging batteries
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