電子機器世界大手韓国サムスン電子は9月15日、包括的な環境戦略を発表した。2050年までにスコープ1、スコープ2でのカーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)の達成、再生可能エネルギーの利用拡大、エネルギー効率の高い製品開発、水の再利用拡大、炭素回収技術の開発に向けた投資等を掲げた。
今回の戦略の中核となる二酸化炭素排出量削減では、カーボンニュートラルの対象をスコープ1、スコープ2に限定した形。昨今、ネットゼロ・スタンダードに準拠し、スコープ3を含む2050年以前でのカーボンニュートラルの発表が相次ぐ中、やや見劣りする目標となった。DX部門では、先んじて2030年までにカーボンニュートラルを達成予定。
再生可能エネルギー転換では、事業電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟。5年以内に、韓国を除く各地域での再生可能エネルギー転換を進め、2050年までには韓国を含む全世界での100%転換を達成する。
韓国での再生可能エネルギー転換が遅れる理由としては、同国での再生可能エネルギーの選択肢が限定的なためと説明。RE100からも、同国は再生可能エネルギーの調達が最も困難な国の一つだと指摘されていると釈明した。一方、気候変動の緊急性を認識し、国際機関やNGO等との協働で、2050年までに100%を目指すとした。
製品では、超低消費電力半導体と省エネ性能に優れた電子機器を提供。データセンターやモバイル機器に使用されるメモリ製品の年間消費電力を、2025年までに現行製品比で大幅に削減する。スマートフォン、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ、モニター、パソコンの家電7製品の主要モデルでは、低電力技術を導入。2030年までに、同じ仕様の2019年版製品比で、消費電力レベルを平均30%削減する。
スコープ3での二酸化炭素排出量については、サプライヤーと協働し、製品ライフサイクル全体でのサーキュラーエコノミー化も強化。天然資源使用から見直しを行う他、マテリアルリサイクル技術や資源抽出プロセスを研究するサーキュラーエコノミー研究所も新設した。2030年までには、回収した全廃バッテリーから抽出した鉱物を再利用する仕組みを構築する。
製品素材では、2030年までに使用するプラスチックの50%を、再生樹脂に転換。2050年までには100%にまで引き上げる。同社の新型スマートフォン「The Galaxy Z Fold4」ではすでに、廃棄漁網からリサイクルしたプラスチックを活用している。
廃棄物回収では、2030年までに電気・電子機器廃棄物回収システムの対象国を、約50カ国から約180カ国まで拡大予定。2009年から2030年までで、業界最高水準の累積1000万tの電子廃棄物を回収し、2050年には累積2500万tを回収する見込み。使用済みスマートフォンも回収し、IoT機器など別の用途に再利用する。
また2025年までには、安全認証機関アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)発行のプラチナレベルの埋め立て廃棄ゼロ認証を、全世界の事業所で取得する。
水系保全と汚染物質処理対策では、水を最大限再利用することで、実際の取水量を2021年の水準に抑制。DX部門では、水質改善や河川再生等のプロジェクトを通じ、2030年までに消費量と同量を水系に還元する。DS部門では、半導体製造工程で排出される大気汚染物質や水質汚染物質を除去し、排出前に処理する新技術を適用。2040年から環境への追加的な影響をほぼ無くす。
同社はその他、炭素回収・利用(CCU)や粒子状物質の削減技術の開発、革新的な技術を有するスタートアップ企業への投資も強化。プロセスガスの削減、節水、電気・電子機器廃棄物回収の拡大、汚染物質の削減等を中心に、2030年までに7兆ウォン(約7,200億円)を投資を行う。この投資額には、再生可能エネルギーの使用拡大に関する費用は含まれていない。
同社のアクションは今後、同社EHS戦略研究所で精査。第三者専門家を含む二酸化炭素削減検証委員会によるパフォーマンス評価を受ける。
加えて同社は8月25日、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と共同開発した、安全性と家庭での使用を考慮したトイレのプロトタイプを発表した。同財団のトイレ性能要件に準拠。エネルギー効率に優れ、排水処理機能も備えている。
今回のアクションは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が2011年に発足した水・衛生(WASH)イニシアチブ「Reinvent the Toilet Challenge」の一環。人間の排泄物を安全かつ効果的に管理できる、革新的なトイレ技術の開発を進めてきた。
サムスン電子の研究開発部門サムスン高等技術院(SAIT)は2019年、ビル&メリンダ・ゲイツ財団との協働を開始。し尿に含まれる病原体を死滅させ、排出される排水や固形物を環境に安全な状態にする熱処理技術やバイオプロセス技術を開発した。同技術で処理した水は、完全に再利用することができる。固形廃棄物は脱水・乾燥・焼却で灰にし、液体廃棄物は生物学的浄化プロセスで処理する。
サムスンは、同プロジェクトに関連する特許のロイヤリティフリーライセンスを途上国に提供予定。両者は今後も協働を継続し、同技術の量産化に向けパートナー企業の参画を呼びかける。
【参照ページ】Samsung Electronics Announces New Environmental Strategy
【参照ページ】Samsung Develops Prototype ‘Reinvented Toilet’ in Partnership with the Bill & Melinda Gates Foundation
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