
環境に関する金融リスクを検討するための中央銀行・金融当局ネットワーク「環境リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)」は7月11日、気候変動緩和を実現するために、各国の中央銀行が実施した金融政策のケーススタディをまとめた報告書を発行した。
NGFSは2021年、中央銀行の政策として、信用リスク操作、担保資産プライシング、量的緩和(資産購入プログラム)の3つで合計9つの政策オプションを示していた。今回の報告書は、その後の中央銀行のケーススタディ8つをまとめたもの。政策オプションに関しては、量的緩和(資産購入プログラム)に「ポジティブ・スクリーニング」を追加し、9つに増やしている。
掲載されたケーススタディは、信用リスク操作での公定歩合調整が、日本銀行、中国人民銀行、ハンガリー中央銀行の3行。担保資産プライシングが欧州中央銀行(ECB)とハンガリー中央銀行、量的緩和(資産購入プログラム)が欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、ハンガリー中央銀行。
同報告書では、2021年の報告書発行時には、中央銀行の政策オプションには実践するには大きな課題に直面すると予測されていたが、実際には多くの中央銀行が実践にまで至っており、予想以上にうまくいったとの見方を示した。但し、実行している中央銀行の数は少なく、中央銀行のバランスシートを気候変動リスクから保護するという目的に向けた課題が残っているとした。
今回のケーススタディからは、中央銀行は一般的に、データの入手可能性に加え、マテリアリティを考慮して政策の優先順位を決定していることもわかった。気候変動に関連する金融リスクを自行のバランスシートに限定することを目的とする中央銀行は、自行のエクスポージャーの大きさに基づいて行動を優先し、一方、低炭素経済への移行を支援することを目的とする中央銀行は、より広範な経済全体への影響に鑑みて、対象とするアセットクラスを選定していた。
また気候変動リスクに基づく金融政策運営は、様々なトレードオフがあることから、慎重に漸進的に政策を広げていく動きも確認された。課題となっていたデータの入手可能性に関しても、様々な現実的な解決策が見出されており、「ウォーターフォール」と呼ばれる手法で欠損データを代替入力していく方法や、発行体の気候スコアを活用する方法、第三者の評価データや取引先の自己評価を用いる方法等がでてきている。
今後の課題としては、3つを挙げた。まず、中央銀行が実践した政策の有効性を評価する枠組みの開発。2つ目は、バランスシートの負債側に焦点を当てた流動性管理政策での気候変動リスク統合の手法の開発。3つ目が金利がゼロ金利を下回っている期間に採りうる政策の研究。
【参照ページ】NGFS publishes report on adapting central bank operations to a hotter world
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