アジア開発銀行は先日公表した報告書"Key Indicators for Asia and the Pacific 2014"の中で、今後数十年に渡って貧困問題はアジアが抱える深刻な課題として残り続け、食糧不足や経済的脆弱性を解決するための一層の努力が求められると指摘した。
現在の急速な経済成長はアジア地域の生活水準改善に大きく貢献している。2005年次のデータで1日平均1.25ドル以下の収入または支出の中で生活している人々を極度の貧困状態と定義した場合、その割合は現状のペースで経済成長が続けば2030年までに1.4%まで減少する見込みだ。
しかし、今回アジア開発銀行が新たに公表した報告書によれば、1日1.25ドル以下で生活する人々を極度の貧困と定義することは貧困の全体像を捉えきれていないという。同行でチーフエコノミストを務めるShang-Jin Wei氏は、報告書の発表にあたり「我々が住む多くの地域では、1日1.25ドルでは最低限の生活を維持するうえで十分とは言えない。貧困問題に対してより効果的な政策を立案するためには、貧困の全体像を正しく理解することが不可欠だ」と述べ、現状における貧困の定義の不完全性を訴えた。
同報告書では、貧困の全体像を正しく把握する上では下記3点を考慮することが重要だと指摘している。
- アジア地域の貧困層の消費にかかるコスト
- 一般物価よりも早く上昇する食糧価格
- 自然災害や気候変動、経済危機などに対する脆弱性
それぞれのポイントの詳細は下記の通りだ。
1. アジア地域の貧困層の消費にかかるコスト
従来は一般的に1日1.25ドルを貧困ラインとして使用してきたが、アジアのデータに絞り込んで考えると、極度の貧困層は1日1.51ドル以下で生活している人々だと推測される。この水準を用いて貧困を定義すると、9.8%だったアジアの貧困率が約30%まで引き上がることになる。
2. 一般物価よりも早く上昇する食糧価格
急激な食糧価格の高騰は深刻な食糧供給の不安定化を招いている。貧困層はそうでない人と比較するとほとんどの収入を食糧に費やしており、食糧価格の高騰は消費者物価指数の上昇より生活への影響力が高いことを考えると、さらに約1億4,000万人の人々が貧困層に該当することになる。
3. 自然災害や気候変動、経済危機などに対する脆弱性
貧困ラインのぎりぎり上で生活している数多くの人々は、自然災害や経済危機、病気などにより簡単に貧困層へ落ちてしまう可能性がある。これらの人々も合算すれば、2010年のアジアにおける貧困率は約11.9%も跳ね上がり、4億1,800万人が貧困層に加わることになる。
これらの要素を個別に切り離して考えることは難しいものの、もしこれらを集約して考えれば、アジアにおける貧困率は28.5%から49.5%まで引き上がり、貧困層にあたる人口は約12億人から約17億人まで増加するという。
また、アジア開発銀行は、こうした高まりつつある脆弱性に対処するために、食糧供給の安定化、政府によるリスクマッピングや警告システム、生計の多角化などのリスク削減策への投資、貧困層向け保険商品の開発や強固なインフラ整備となどソーシャルセーフティネットの強化が重要だとしている。
急激な経済成長の裏側に横たわる貧困という問題を直視し、政府だけではなく企業やNPOが当事者としてどう取り組んでいくのか。今後も様々な取り組みが求められる。
【レポートダウンロード】Key Indicators for Asia and the Pacific 2014
【企業サイト】アジア開発銀行
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