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【環境】COP22マラケシュ会議いよいよ開幕 〜締約国会議論点とパリ協定未批准の日本の対応〜

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 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)パリ会議に世界が注目した昨年12月。それから1年が経ち、次の締約国会議であるCOP22マラケシュ会議が、本日11月7日から18日までかけて、アフリカのモロッコで開催されます。パリ会議で国際合意に至った「パリ協定」は、先週11月4日に無事に発効し、締約国会議にはパリ協定に規定された権利と義務が発生することになりました。それを受け、COP22マラケシュ会議では、パリ協定の第1回締約国会議も合わせて開催されることが決まっています。一方、パリ協定が発効するギリギリのタイミングの11月4日、日本政府は衆議院での審議を経て、パリ協定を国として批准する手はずを整えていましたが、国会運営に失敗し審議ができず、批准もなりませんでした。日本は未批准のまま、COP22の開催に臨むことにとなり、パリ協定第1回締約国会議にも議決権を持たないオブザーバー参加しかできないこととなりました。

 このような事態となったことに、日本のメディアも批判していますが、パリ協定締約国会合にオブザーバー参加しかできないことが、一体どんな不利益があるのか、はっきりとしたことはあまり伝わってきてはいません。そもそも、パリ協定第1回締約国会議に締約国として参加するには、10月19日までに批准書を提出することが期限となっていたため、批准を11月4日までに終えていたとしてもオブザーバー参加が確定していた日本は、いまさら11月4日に批准を間に合わせる必要がなかったという言い分もありうるでしょう。また、パリ協定は、世界の気温上昇を産業革命前から2度未満に抑える、いわゆる「2℃目標」を掲げ、各国はそれに向けた自発的な温室効果ガス削減目標を国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に対して提出する義務を負うというものと理解している人からすると、すでに日本政府も、2030年度の温室効果ガス削減目標を、2013年度比で26.0%減(2005年度比で25.4%減)とするという目標を同事務局に提出済み。さらに、パリ協定の締約国会議で何を話し合い、日本は何に参加できないのかが、いまいちピンと来ないかもしれません。

 しかし、全文29条からなるパリ協定は、2℃目標以外の内容が実際には書かれており、パリ協定締約国会合でも重要な案件が議論されることが決まっています。さらに、パリ協定の条文には、今回のパリ協定第1回締約国会議で審議する内容も定められており、オブザーバー参加の日本政府には、その議決に参加できないことが決まっています。今回、COP22マラケシュ開催前に、パリ協定の内容をあらためておさらいし、日本にとっての意味も整理していきます。

国連気候変動枠組条約締約国会議とは

 まず、そもそも国連気候変動枠組条約締約国会議とは何かからおさらいしておきましょう。ここでのポイントは「国連気候変動枠組条約の加盟国であり、COP21にも締約国として参加していた日本は、なぜパリ協定に未批准という理由だけでCOP22にオブザーバー参加しかできないのか?」という素朴な質問に正確に答えていくことにあります。この質問に対する答えを先に言ってしまうと「いいえ、日本はCOP22に締約国として正式参加できます。」が答えとなります。すると、さきほどの「日本はオブザーバー参加しかできない」という話と矛盾するではないかと思うかもしれません。ここに、そもそも国連気候変動枠組条約締約国会議の運営の複雑さがあります。

 これを理解するために、前のパリ会議に遡って考えてみましょう。パリ会議の正式名称は実は、「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)及び京都議定書第11回締約国会合(CMP11)」と言います。すなわち、COP21とCMP11という二つの会議を含んでいますよという意味です。国連気候変動枠組条約締約国会議は、国連気候変動枠組条約に締約している国の会議です。国連気候変動枠組条約は1992年に国際合意に至り、1993年に発効した条約で、日本も発効前に同条約を批准しています。その後毎年締約国会議が開かれており、昨年のパリ会議が21回目の会議でした。一方、京都議定書締約国会議は、京都議定書を締約している国の会議です。京都議定書は、1997年にCOP3で国際合意に至り、2005年に発効した条約で、日本も発効前の2002年に同条約を批准しています。その後、京都議定書の締約国だけの会議(CMP)も、毎年COPと同時に開催されており、昨年のパリ会議が11回目の会議でした。COPが気候変動という枠組みの基礎的なフレームワークを検討し、長期的な国際合意を定めるのに対し、京都議定書のCMPは京都議定書で規定された仕組みや手続きに関する詳細ルールを決定しています。日本政府は、両条約の締約国であるため、COPにもCMPにも締約国として参加しています。

 この状況は、パリ協定が誕生したことにより、さらに複雑になります。今回のマラケシュ会議の正式名称は、「国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)及び京都議定書第12回締約国会合(CMP12)及びパリ協定第1回締約国会合(CMA1)」となります。11月7日から18日の間に、この3つの会議がまとめて開かれ、それぞれの条約で定められた枠内で、各会議体が様々な決議を行っていきます。この3つの中でとりわけ注目されているのが、パリ協定第1回締約国会合(CMA1)。パリ協定が誕生したことにより、実質的な意味がなくなった京都議定書締約国会議(CMP)に替わり、新たにCMAが実質的な詳細ルールの検討舞台となっていきます。パリ協定未批准の日本は、COP22とCMP12には締約国として参加できますが、パリ協定第1回締約国会合(CMA1)には締約国ではないオブザーバー参加しかできないのです。

パリ協定に書かれている内容とは

 
 ではパリ協定第1回会合では何が話し合われるのでしょうか。これを知るためには、パリ協定の内容を見ていく必要があります。パリ協定は全文29条で、外務省の日本語仮訳では全40ページ。パリ協定で非常に有名な2℃目標については、第2条1項(a)に、

世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑えること並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続する

とあります、この内容は条文の中のごく一部にすぎません。パリ協定には他にも様々な義務や努力義務、権利について記載されています。ちなみに、パリ協定の英語名は「Paris Agreement」。日本語に直訳すると「パリ合意」ですが、名称にかかわらず、れっきとした条約です。英語メディアなどでは、他にも「Paris Accord」「Paris Pact」などと呼ばれたりもしています。条約を意味する名称が様々使い分けられている背景には、「国連気候変動枠組条約(Convention)」、「京都議定書(Protocol)」、「パリ協定(Agreement)」と英文で、それぞれの条約を明確かつ容易に記載分けできるということがあるのではと、私自身は理解しています。

パリ協定の概要

 パリ協定の全29条の内容は、大きく10のパートから構成されています。

パリ協定の概要
(出所)筆者作成

 簡単に概要を解説しましょう。まず、条約の目的のパートでは、2℃目標や低炭素社会分野へ資金をシフトさせることなどが書かれています。また、各国政府に対して自国の気候変動を緩和する義務を課す内容(第4条〜第5条)と、気候変動を見越した適応策を自国で実施することを課す内容(第7条〜第8条)があります。自国ではなく他国での温室効果ガス削減を自国の成果とする制度「市場メカニズム等」は第6条に書かれています。また、発展途上国に対する資金援助(第9条)、技術・能力開発援助(第10条〜第12条)があります。そして、遵守状況を明確にするため、各国の報告義務(第13条)や2023年に最初の各国実施状況レビュー会合を開くこと(第14条)、専門家委員会を設立すること(第15条)などがあります。また、締約国会議の役割、事務局の役割などを定めた組織的・手続的事項を定めた条項がその後に続きます。ちなみに、第21条は条約の発効条件に関する規定で、世界の温室効果ガス排出量合計55%以上を占め、かつ55ヶ国以上が批准(または受託)をした日から30日目の日に発効するとあります。そのため、10月5日にEUが加盟国28カ国を束ねて批准書を提出し、排出量合計56.87%、批准国数73ヶ国となった時点で、30日目の11月4日に発効することが決まりました。

 パリ協定の中で、今後の交渉における論点となるのは、第6条「市場メカニズム等」です。今後各国は、自主的に定めた削減目標の達成ため、エネルギー変換や効率の向上など様々な施策を余儀なくされるのですが、実は別のオプションも残されています。それは、他国での削減実績を自国の成果に換算するという道です。この道は、京都議定書中でも、「排出量取引」「共同実施(JI)」「クリーン開発メカニズム(CDM)」を内容とする「市場メカニズム」という制度が導入されました。この3つの制度の中で、一番浸透してきたのが「クリーン開発メカニズム(CDM)」。先進国が発展途上国に対して技術・資金等の支援を行い、温室効果ガス排出量の削減または吸収量を増加する事業を実施した結果、成果の一定量を支援元の先進国の温室効果ガス排出量削減分に充当することができるというものです。この制度のもとで実施された削減量(クレジット)は「認証排出削減量(CER)」と呼ばれ、企業等も活用していましたが、厳しい審査が必要で、申請から登録まで2年ほどかかるという使い勝手の悪さが忌避され、日本以外ではあまり実績が出ていませんでした。海外では、企業が企業単位の自主目標達成のために、国の削減実績としては換算されないが、企業の実績には換算できる、審査が簡便な「VER」という制度が普及していました。そのため、CERのもととなっていた「クリーン開発メカニズム(CDM)」は今日、あまり機能しなくなっています。

 パリ会議でも、市場メカニズムをあらためてどうするのかが大きな争点となりました。なかでも、他国での成果を自国での成果として取り込めるこの制度に着目をしている国が日本です。以前から、日本政府には、自国での削減努力もさることながら、自国の目標を他国での成果で達成しようとしている雰囲気がどうもあります。日本政府は、2010年頃から京都議定書の枠外で「二国間クレジット制度(JCM)」という制度を開始し、すでに複数国との間でJCMプロジェクトを締結する実績を挙げています。JCMは、支援受入国と支援実施国の二国間が合意すれば、支援受入国から支援実施国に対して削減クレジットを移す(すなわち、支援実施国の削減成果とする)ことを認める制度。CDMが条約事務局が適格性審査を行う中央管理的な制度なのに対し、各国が適格性審査を行う分散管理的な制度です。日本政府は、JCMの活用を見据え、この分散管理型の市場メカニズム制度を「協力アプローチ」という概念でパリ協定に盛り込むことに成功しました。

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(出所)経済産業省「COP21の結果と今後の課題

 また、パリ協定には、「協力アプローチ」の他、従来のCDMを踏襲する「国連管理型メカニズム」も制度して盛り込まれています。さらに、市場メカニズムではなく、国が開発援助をし持続可能な発展に資する取組をした場合に認められるクレジット「非市場アプローチ」も盛り込まれましたが、「協力アプローチ」「国連管理型メカニズム」「非市場アプローチ」のいずれも、詳細なルール整備は、パリ協定締約国会合(CMA)で検討することとなっています。したがって、パリ協定締約国会合での議論が、これら「市場メカニズム等」の帰趨を、すなわち日本政府の「対外成果重視」政策を左右していくことになります。

パリ協定第1回締約国会合のアジェンダ

 ここまで整理してくると、パリ協定締約国会合の重要性が透けて見えてくるかと思います。本日から始まるCOP22マラケシュ会議の一部を構成するパリ協定第1回締約国会合(CMA1)。このCMA1で最低限何を審議するかは、パリ協定の中にすでに規定があります。

  • 第4条10項 :パリ協定での国の目標達成の共通期間について検討する
  • 第6条7項 :「国連管理型メカニズム」制度の規定に関する規則、方法及び手続を採択する
  • 第7条3項 :発展途上国の気候変動適応努力の確認方法を採択する
  • 第9条7項 :先進国が発展途上国へ資金援助した際に報告する報告指針、手続を採択する
  • 第11条5項 :発展途上国への能力開発制度実現に向けた最初の措置を採択する
  • 第13条13項:締約国の行動及び支援の透明性確保のための方法、手続及び指針を採択する
  • 第15条3項 :専門家委員会の運営方法及び運営手続を採択する
  • 第16条6項 :第1回会合は、パリ協定発効日の最初のCOPの場で併せて開催する

 また、「協力アプローチ」についても、第1回会合でとの明記はないものの、第6条2項に「パリ協定締約国会合は、二重計上(ダブルカウント)の回避を含む削減量計算方法指針を採択する」とあり、第1回会合の中でも具体的な審議が行われる可能性があります。「協力アプローチ」として認められる可能性があるJCMは、二国間でルールを作成することが基本。そのため、相手国毎に詳細ルールが異なっていたり、削減量の計算方法が複雑で多様になっていたりとすでに課題も指摘されています。二重計上(ダブルカウント)を防ぐ国際的なルール作りも未だ整備されていません。したがって、JCMが正式に「協力アプローチ」として扱われるかはまだ完全にはっきりとはしていませんが、日本政府はなんとかJCMを「協力アプローチ」として認めさせたいと目論んでいます。

 しかし、批准が遅れた日本は、第1回会合にはオブザーバー参加しかできず、審議には加われますが、決議に加われないこととなってしまいました。すなわち、ルール交渉の場で、票を武器とした交渉力を持てないということになります。日本が渇望し盛り込んだ制度のルールに関する決議に、日本がスタートから関われないというのは、とても皮肉な結果です。

なぜ日本の批准は間に合わなかったのか

 現時点でパリ協定批准状況は、署名197カ国のうち、すでに100ヶ国が批准済み。G7諸国の中での未批准なのは日本のみ。温室効果ガス排出量トップ20ヶ国(総排出量で世界の80%)の中で未批准なのは、4位ロシア、5位日本、8位イラン、16位オーストラリア、18位トルコのみの5カ国のみです。経済影響から国際合意入りを渋ってきた新興国でも、排出量トップ20のうち、1位中国、3位インド、7位韓国、9位サウジアラビア、10位インドネシア、12位ブラジル、13位メキシコ、15位南アフリカ、20位タイはすでに批准済み。どうしても先進国の中で未批准の日本の存在が目立ちます。

 昨年の伊勢志摩サミットの場で、気候変動分野でのイニシアチブを発揮したと成果を誇った日本は、なぜ批准が間に合わなかったのでしょうか。原因は、パリ協定が持つ意義と海外諸国の本気度を、首相官邸と与野党が完全に見誤ったとしか言いようがありません。国会審議の時間は十分にあったからです。日本政府がパリ協定に署名したのは、4月22日の各国合同署名会の場で、その時点では他国と並んでいました。そのとき日本国内では、6月30日までの今年度通常国会の真っ最中。国会で審議しようと思えばできる状況でした。その後、衆議院は、8月1日から8月3日まで第191回臨時国会が、9月26日から今日も開会中の第192回臨時国会があり、いずれも審議のチャンスがありました。しかし、首相官邸と与野党がパリ協定批准審議の優先順位を高くしなかった結果、いつまでもたっても審議入りがなされませんでした。

 確かに、各国の批准スピードは当初は速くはありませんでした。4月22日の合同署名式の後、8月末までに批准したのは、太平洋やカリブ海の小国の他、8月1日に北朝鮮が批准しているぐらい。流れが変わったのは9月3日に、米国と中国の二大経済大国が協議し、この日に同時に批准したことでした。正式には、米国は国会での批准というプロセスを必要としない「受諾」という対応を取り、国会審議をすっ飛ばしてのスピード批准を行いました。米国は京都議定書の批准を渋り、議定書の発効そのものを大幅に遅らせた大国。中国は世界最大の排出国。この両国が批准したことで、COP22開始までにパリ協定が発効し、COP22でパリ協定第1回締約国会合が開催される可能性が見えてきたため、各国は批准手続きを急いでいきます。米中批准から9月末までに新たに35ヶ国が批准。そして、10月2日には排出量世界3位のインドが、10月5日にはEUが一括批准をしたことにより、発効条件を達成。11月4日の発効が決まりました。その後、駆け込み批准でなんとか発効前の批准に漕ぎつけた国に、インドネシア、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、ベトナムなどがあります。

 米中批准後、日本も批准を急ぎ始めてはいました。三権分立を是とする日本では、政府の優先案件でも、行政府である内閣は国会での審議日程を決めることはできません。それは国会が決定します。国会の審議日程のカギを握るのは、与野党の国会対策委員会、通称国対。とりわけ与党国対は、限られた日数内で必要な審議を終えられるよう、審議案件の優先順位を検討し、案件の審議スケジュールを組み立てていきます。一方、野党国対は審議に時間をかけることを求めるため、与党国対は野党国対に対し、スムーズに案件を処理していけるように働きかけていきます。また、実際に国会の審議日程を最終的に固めていくのは衆議院と参議院に置かれた議院運営委員会。議院運営委員会の委員長や理事には与野党の国会議員が就任し、各党の国対の意向を受け、スケジュールを決めていきます。そして、最終的に開会の合図ができる、すなわち開会できる権限は、本会議は衆参議院議長、各委員会は委員会委員長が持っています。

 現在開会中の臨時国会で、与党国対にとっての最優先事項は、環太平洋経済連携協定(TPP)の批准と関連法案の成立。TPP法案は審議難航が予想されていた案件でしたが、山本有二農相の失言事件が重なり野党の追及がヒートアップし、審議は停滞。なんとか今国会中に成立させたい国対と衆議院TPP特別委員会は焦りを募らせていきます。そんな中、与党国対は、衆議院先議の通例ではなく参議院で先に審議する判断を下し、パリ協定はなんとか10月28日参議院本会議を全会一致で通過。焦点は衆議院で可決できるかに絞られていきます。与党国対は衆議院本会議と各委員会の審議日程を調整しながら、ぎりぎりのタイミング、11月4日午後に衆議院本会議にかけるというスケジュールをなんとか組み立てます。こうして、COP22までに間に合うのではという希望的観測が生まれました。

 しかし11月4日に不測の事態が起こります。毎日新聞の報道によると、この日、竹下亘・自民党国対委員長、大島理森・衆議院議長、佐藤勉・衆議院議院運営委員長の計画では、午後に衆議院本会議でのパリ協定を批准する手続きを行い、衆議院TPP特別委員会でのTPP承認・関連法案の採決は11月7日遅らせる予定でした。しかし、農相失言を機にTPP関連法案の審議日程が野党と折り合わなくなっていたことに焦った自民党の塩谷立・衆議院TPP特別委員会委員長は、午後になって急遽同委員会の開会を告げ審議を開始してしまいます。衆議院議員全員に出席が要請される本会議は、委員会開会中は開けないないため、この時点で本会議を開催できない事態となり、結果パリ協定の批准審議も不可能に。突如開かれたTPP特別委員会では、与党が採決を強行し、同法案が委員会を通過することとなりましたが、パリ協定が犠牲となりました。毎日新聞の報道では、塩谷立・TPP特別委員会委員長は、同じく自民党の佐藤勉・衆議院議院運営委員長に連絡しないまま委員会開会を決めた模様。特別委員会開会の報を受けた佐藤氏は激怒したと言います。

 TPPは、日本政府としては、対中国交渉力を強化するための国際的な経済連携として何としても実現させたい枠組み。しかし、肝心な米国では、明日に大統領選挙を迎える2人の候補者、クリントン氏もトランプ氏も当選したら廃案にすると息巻いています。特別委員会での採決を急いだ背景には、少しでも早くTPPを批准し、他の交渉参加国に働きかけて米国の離脱を止めたいという想いがあるのでしょう。しかし、COP22を目前に、TPP批准が1日遅くなる事態より、パリ協定批准が1日遅れる事態のほうが、デメリットは大きかったと言えるのではないでしょうか。

COP22マラケシュ会議に向けて

 11月4日に批准できなかったパリ協定の衆議院での批准は、11月8日に予定されているようです。しかし、それが実現できたとしても、11月7日のCOP22開幕には間に合わず、会合でもオブザーバー参加しかできないことには変わりがありません。日本は、歴史的な国際合意となったパリ協定を先導するつもりがないのではという印象を世界に与えてしまっています。パリ協定には「先進国がパリ協定目標達成を先導すべき」と記されているのにです。これでは、環境立国と自認してきた日本と、海外からの味方は食い違っていくばかりです。

 この事態を招いたのは、首相官邸と与野党の認識の甘さだけではないのかもしれません。国会議員が国民の代表である以上、国会審議に影響を及ぼしている各団体や経済界、ひいては国民の認識の甘さだったとも言えるかもしれません。

 COP22マラケシュ会議では、日本も公式参加できる国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)の場で、先進国から途上国への資金援助年間1,000億ドルの具体的な実施方法についても話し合わせる予定です。この支援金額は、先進国の要請により「パリ協定」本体には盛り込まれず、別文書に「2025年までに最低限、年間1,000億ドルの支援目標額を定める」と書くことで妥協が図られたためです。

 世界全体の各界がCOP22マラケシュ会議の動向を見守る今週。気候変動に向き合う国際的なムードに日本政府が真摯に耳を傾けることと同時に、日本企業や日本国民にも、それに関心を寄せ続ける責務があるのではないでしょうか。

【パリ協定】外務省による日本語仮訳
【パリ協定】英語原文
【パリ協定批准状況】Paris Agreement – Status of Ratification
【参考ページ】経済産業省「COP21の結果と今後の課題
【参考ページ】環境省「COP21の成果と今後
【参考ページ】東京大学公共政策大学院「二国間クレジット(JCM)制度の課題と対応の方向
【参考ページ】毎日新聞「TPP採決 自民内調整に不手際 「パリ協定」に波及

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所所長

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