気候変動への対応が叫ばれる中、食品メーカーも自社の資源を活かしたエネルギー対策に乗り出している。
英国最大のチーズ製造企業の1つ、ファーストミルクは昨年7月1日、英国最大級の嫌気性処理(AD)設備がカンブリア州アスパトリアにあるファーストミルクの工場施設内に完成したことを発表した。チーズ製造工程で生まれる食品廃棄物を嫌気性細菌の消化作用によってメタンガスに転換し、同工場のエネルギー源としても用いられるとともに、英国でのガス供給事業者であるナショナル・ガス・グリッド社のパイプラインにも送られる。
今回のプロジェクトは、ファーストミルク、嫌気性処理技術を持つClearfleau、再生可能エネルギーの普及推進をアドバイスするRenewables Unlimitedの3社が共同して実施し、「Lake District Biogas」というプロジェクト名がついている。総工費は1,000万英ポンド(約16億円)。2016年春に本格稼働する。1日当たり1,650㎥の食品廃棄物を処理する能力があり、毎時1000m3相当のバイオガス(約5MW相当の熱エネルギー)を生成できる。生成バイオガスの80%以上はナショナル・ガス・グリッド社に送られる。
食品廃棄物からのバイオガス生成の効果は大きい。環境インパクトとしては、化石燃料使用を減少できるため年間7,000tの炭素を削減、水質改善でリン含有量ゼロ・BOD削減の効果がある。また、廃棄物の輸送が不要となるためタンクローリー運搬を大幅削減できる。財務インパクトもある。アスパトリア工場のエネルギー経費の25%が削減できるとともに、固定買取制度(FIT)を通じて20年間の物価スライド制ガス売却収入100万ポンド、さらに政府から再生可能熱インセンティブ(Renewable Heat Incentive:RHI)として200万ポンド、その上廃棄物処理コストの削減も可能となる。乳製品業者は、全世界での二酸化炭素排気量が4%を占めており、ファーストミルクによる発表は温室効果ガス削減の好事例として歓迎されている。
同様の取り組みは、アイスクリーム製造大手の米ベン&ジェリーズにも見られる。同社は2014年6月、オランダのヘレンドーン工場でアイスクリームの製造工程から生まれる廃棄物(牛乳、クリーム、シロップ等)を嫌気性処理(AD)によりエネルギーに換えて、同工場の年間消費電力の半分を賄うことに成功した。2015年12月にはさらに牛乳やクリームを使わず、ココナツミルクとアーモンドミルクのブレンドによるアイスクリームの製造を発表した。牛乳製造は牛が排出するメタンガスや放牧に必要なエネルギーから出る温室効果ガスを伴うため、牛乳使用を削減することで二酸化炭素排出量を40%削減できるという。このブレンド製品は米国をはじめ数年内にヨーロッパにも販路を広げる予定だ。
さらに、ロンドン東部のダゲナム(Dagenham)にある食品廃棄物のリサイクリングおよび処理業者、ReFoodのADプラントでは、3,200万英ポンドの新たな施設が稼働を開始した。最先端の技術を結集したこの施設は、食品廃棄物を年間16万トンリサイクルし、毎時2,000㎥以上のメタンガスを産出する。産出した天然ガスは直接ナショナル・ガス・グリッド社に送られ、地域の10,000世帯以上で使用される。
【参照ページ】lake district biogas - delivering sustainable energy for first milk’s award winning creamery
【参照ページ】UK's largest on-site dairy AD plant to generate green energy from Cumbrian cheese
【参照ページ】Behind the scenes at Ben & Jerry's new biodigester
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