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【イギリス】ロンドンで地下農園栽培が本格稼働、大都市での地産地消を目指す 2016/05/17 最新ニュース

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ロンドン南西部にあるクラップハム・コモン(コモンは広場や公園として開放されている公共地)にある地下壕で栽培している野菜が2年以上の試作期間を経て、このほど市場に売り出されることになった。この地下農園は「Growing Underground」という名称が付けられており、大都市初の先駆的野菜農園として注目を集めている。

 農園となっている地下壕は第2次世界大戦中に使用されていたトンネル状の掩蔽壕(銃撃や爆撃から人や航空機を守るための施設でバンカーと呼ばれる)で、コモンの下、約30mにわたっている。電気、水道、換気を整備し、ワサビ、葉ニンニク、ルッコラ等の香味野菜を中心に20種類ほど栽培、毎日収穫できるまでになっているという。ロンドン市民にとっては地産地消であり、輸送コストやエネルギーの削減が可能なため、持続可能な食料供給に向けた新たな一歩となる。

 地下での栽培は、地上と比べ温度管理が容易な上、害虫も少なく、作物の質も高いという。これらの野菜はインターネット上での直接販売だけでなく、市内のスーパーや卸業者にも販売を行っていく。ミシュラン星付きレストランへの提供も決まっており、こだわり材料と美味なフランス料理が評判のロンドンの弁当宅配サービス、ヴァシュランも関心を寄せている。

 この野菜作りが関心を集めているのは、食料や水に関する英国政府や国民の危機感が背景にあるからだ。2014年7月に学術誌“Global Environmental Change”に掲載された論文によると、世界の大都市で最も水ストレスが高い順に、1.東京 2.デリー 3.メキシコ 4.上海 5.北京 6.コルカタ 7.カラチ 8.ロサンジェルス 9.リオデジャネイロ 10.モスクワ と続き、ロンドンは15番目にランクアップされている。「水ストレス」とは水資源の枯渇化を示す代表的な尺度で、特定の地域の「人口1人当たりの利用可能水資源量」を算出し、その地域の水資源の需給のバランスが悪い状況を示している。バース大学等の研究者たちは、世界的な水不足が生じた際に英国の食糧事情は危機に陥ると警告し、政府は2040年までに食料自給率を2倍にするという目標を掲げている。またロンドン前市長のボリス・ジョンソン氏は在任時に、今回の野菜農園の成功を機に「グリーンビジネス・イノベーション」で世界をリードしたいとも述べていた。ロンドン市政府は、水と食糧問題、さらには若者の失業問題の打開策としてグリーンビジネスを促進する考えだ。

 一方、英国の環境・食料・農村地域省は先月、食料・農業分野を「見習い学位制度」に組み入れると発表した。同制度は2015年3月に発表され、同年9月から創設された新たな教育システム。デジタルテクノロジーソリューション、自動車、建設、測量、電気工学等、12分野で見習い従業員として就労しつつ大学でも学ぶ仕組みだ。カリキュラム編成が各業界で求められる技能習得が中心となっているため、学位取得と就業訓練が同時に行える。学費は3分の2が政府、3分の1が雇用者負担で、学生の負担はない。食糧・農業分野の見習い学位制度は、国立飲食料スキルアカデミー(NSAFD)に3年制のコースを開設する
政府は見習い学位以外も含め、食料・農業分野での実習生を2020年までに現在の3倍に増員する目標も掲げている。

 都市空間を利用した野菜作りは、フランスを本拠地として、プルマン、ノボテル、アイビス等、世界的にホテルチェーンを展開するアコーホテルズでも取り組み始めている。同ホテルが先月発表した情報によると、輸送段階での品質低下と廃棄を避けるために各地域での地産地消を目指し、ホテル内の敷地1,000か所に菜園をつくり、野菜作りを始めるという。

 消費の多い大都市での野菜作りは、水や生産物の移動を最小限に抑えつつ需要に応じることができ、環境面では最も望ましい方策といえる。水ストレスが世界1位の東京でも、より積極的な空間利用や農業経営者・農業起業家の育成等、課題は多い。

【参照ページ】Underground herb farm surfaces to strengthen London’s food supplies
【参照ページ】Accor to plant 1,000 vegetable gardens to tackle food waste
【参照論文】Water on an urban planet: Urbanization and the reach of urban water infrastructure

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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