サステナビリティ分野の国際アドボカシーNGOのCeresは6月28日、再生可能エネルギーに推進に関する州の政策と電力事業者に関するレポート「Clean Energy Utility Benchmarking Report: 2016」を発表した。Ceresは2014年にも同様の報告書を発表しており、今回のものが2016年最新版。日本では、米国は環境への配慮が低いと認識されているが、連邦制の米国では実際には各州ごとに温度感が大きく異なる。またオバマ政権は環境政策には積極的に働きかけてきたため、連邦政府の関心度もここ数年は大きく向上している。米国の電力事業者は大きく民営化されており日本よりも競争が激化しているが、今回の報告書では全米の民間電力ホールディング会社30社、傘下の子会社電力事業者119社を対象とし、再生可能エネルギーの導入実態や発電効率を、複数の公開情報をもとに調査、ランキングを発表した。今回の報告書では、再生可能エネルギーの定義からは、原子力と水力は除かれている。
(出所)Clean Energy Utility Benchmarking Report: 2016
報告書からは、電力会社の低炭素経済に向けた取り組みは、各州政府の動向に大きく影響されていることがわかった。堅調な成果を上げた電力会社の多くは、コロラド、ミネソタ、マサチューセッツ、カリフォルニアなど、再生可能エネルギーを力強く推進する州に本社を置いていた。上位ランクに入ったSempra、PG&E、Edison International、Xcelといった企業では、年間売上のうち20%以上が再生可能エネルギー発電によって生み出されていた。特にSempraは、2013年から2014年の一年間で再生可能エネルギー発電の売上が55%以上も増加、2014年度年間売上の36%が当該事業によって占められるほどだった。一方、格付けが低い事業者は、この問題にあまり積極的でないアラバマやミシシッピなど南部の州に集中していた。
また、全体傾向としては、活用できる最新データであった2014度データからは、30社合計の再生可能エネルギーは13%伸長、同時に発電効率の向上により9%のエネルギー削減を達成していた。とりわけ、風力発電が再生可能エネルギーを牽引。太陽光発電は、住宅設置だけでなく、電力事業者の設置も増えていることが明確となった。カリフォルニア州では2013年に、民間電力会社大手3社に対して電力備蓄(ストレージ)を義務付ける制度が開始されており、バッテリーの導入も急増している。
今後の見通しに関しては、オバマ政権が導入した「クリーンパワープラン」と、減税措置が大きな推進ドライバーとなるとした。クリーンパワープランは米国連邦最高裁判所によって違憲判決が出ているものの、今年秋には再審議判決が出て合憲とされる可能性が高いというのが有識者の共通見解。これにより、今後も低炭素電力に向けた取り組みは大きく続くと見られている。その影響はすでに始まっており、米国では今後石炭火力発電が大きく減少し、天然ガス火力と再生可能エネルギーが大きく伸びるという将来見通しが今回の報告書でも示された。再生可能エネルギー導入コストの削減と、発電コスト削減につながる発電効率の向上は、低炭素に向けた経済合理性も高いとの見方も述べた。
気候変動枠組条約パリ会議(COP21)の場で、米国も2025年までに2005年比で温室効果ガス排出量を26%から28%削減すると表明している。それに伴い、米環境保護庁(EPA)が主導する「クリーンパワープラン」も、2030年までに電力事業者からの温室効果ガス排出量を32%削減する目標を立てているが、現状の推移ではまだまだ努力が足らない。Ceresは、今後の発展のためにも、電力事業者の取り組みとして、自らの努力だけでなく、低炭素経済に向けた政策への積極的な支持も重要だとしている。すでに、上位ランク入りしたNational GridやPG&Eは、発電効率向上政策についての支持を明確にしている。
電力小売自由化進んでいる米国では、サステナビリティ戦略として企業が、積極的に再生可能エネルギー発電を推進する電力事業者から電力を購入する企業が増えている。Ceresの報告書は、このような企業にとって非常に有益な情報で、企業の選択肢にも影響を与えそうだ。
【参照ページ】Ceres Ranks U.S. Electric Utility Companies’ Renewable Energy, Energy Efficiency Performance
【報告書】Clean Energy Utility Benchmarking Report: 2016
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