世界保健機関(WHO)は10月11日、生活習慣病の予防の政府の財政政策をまとめた報告書「Fiscal policies for Diet and Prevention of Noncommunicable Diseases(NCDs)」を発表した。WHOは報告書の中で、加盟国政府から生活習慣病の予防に関する方策についての相談が増えていることを挙げ、今回政府が適切に税制や助成金制度を実施し、日常食の価格に介入することで、健康促進を図ることができるとした。
WHOはここ数年、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒などに起因し、生活習慣の改善により予防可能な疾患をまとめて「非感染性疾患(NCDs)」としと呼称し、国際的な対策を呼びかけている。NCDsには、がん、糖尿病、循環器疾患、慢性呼吸器疾患などが含まれるとされているが、どこまでを含めるかという国際的な合意はまだない。WHOは2013年5月、国際的なNCDsの目標と指標を含む枠組みをまとめたアクションプラン「NCDsの予防と管理に関するグローバル戦略の2013年~2020年行動計画(The Global Action Plan for the Prevention and Control of Noncommunicable Diseases 2013–2020)」が策定し、具体的な活動を開始しており、今回の報告書の発表もその活動の一環だ。
報告書の中では、世界的に肥満人口の割合が増加していることを課題として取り上げ、砂糖の摂取量を下げるために、各国政府は甘味飲料に「砂糖税」を課すなどして甘味飲料の価格を釣り上げ、人々の消費マインドを抑制すべきだとした。世界の肥満人口は、18歳以上の成人のうち3分の1が体重過多の状態にあり、男性の11%、女性の15%は肥満と診断されるレベルにあるという。この肥満人口割合は、1980年から2014年の間に倍増してしまっている。さらに、4,200万人の子供は昨年の時点で肥満レベルにあり、特にアジアに肥満児童が多く分布しているという。さらに2012年には、糖尿病患者は世界で4億2200万人に達し、150万人は糖尿病で亡くなっている。
WHOは、このような肥満増加の原因を、食品メーカーが菓子類や飲料に人工的に付加する砂糖(WHOはこれを「フリーシュガー」と呼称)が原因だとし、栄養学的にはこのようなフリーシュガーは人間の生活に一切必要ではないことから、政府が消費を抑制すべきだとした。具体的には、このような「フリーシュガー」や飽和脂肪酸、トランス脂肪酸を用いた食品や飲料に対して課税し、商品価格を上げることで、商品の消費量を下げることが実証的に明らかだとして推奨した。また、税制については、すでに幅広く普及しているタバコ税を例に出し、小売価格に対して一律に定率課税をするより、砂糖などの含有量や個数に応じて課税するほうが有効だとした。また、これらの課税による税収増を、福祉健康サービスへの歳出に回すことで、さらに人々の健康を増進できると提言。その上、青果価格を押し下げる助成金を提供すれば、青果の消費量を増やすことができるとも述べている。
WHOの発表に寄ると、2012年時点で、世界で3,800万人が非感染性疾患で命を落としているという。そのうち1,600万人は70歳になる前に死亡している。
国連持続可能な開発目標(SDGs)でも、2030年までに70歳になる前に糖尿病、ガン、心臓疾患、肺疾患で死亡する人の数を3分の2に減らすことが掲げられている。昨年英国で同様の「砂糖税」を甘味飲料に課税することが大きな波紋を呼んだが、今回のWHOの発表により、他の国にも同様の税制が広がる可能性がある。WHOが商品の砂糖含有量の削減に躍起になる姿は、食品業界関係者からはあまり歓迎されないかもしれない。しかし、世界の食品企業の中には、すでに人類の健康や国連持続可能な開発目標(SDGs)を尊重し、砂糖含有量の削減の方針を打ち出すところも出てきている。食品業界が世界に貢献できることは何か、今後はさらにそれへの深い答えが問われていく。
【参照ページ】WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks
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