東南アジアで水産資源の養殖により、マングローブが大きく消失していることがわかった。カリフォルニア工科大学のNathan Thomas研究員らが、今年6月8日に科学雑誌プロスワン(PLOS One)に発表した論文「Distribution and drivers of global mangrove forest change, 1996–2010」の中で明らかにした。
マングローブ、特にヒルギ科(Rhizophoraceae)のマングローブは、根や葉が密集している海洋性の樹木や低木で、海岸の生態系を嵐や海面上昇から守るための天然の要塞となっている。また近隣住民はマングローブでの漁業や木材を通じて生計を立てており、二酸化炭素の吸収源にもなっている。さらに、マングローブは、多様な生物が生息する生物多様性の宝庫としても知られている。
発表された論文は、日本の国立環境研究所衛星観測センター、英国ウェールズのアベリストウィス大学、ラオスの国際水管理研究所(IWMI)、米国航空宇宙局(NASA)が2011年に共同で開始した国際プロジェクト「グローバル・マングローブ・ウォッチ(GMW)」のチームが実施した調査を基に、衛星画像を用いて1996年から2010年の世界のマングローブに関する生態系の分布と変化をマッピングし、解析したもの。
調査は、北米、中南米、アフリカ、中東とインド、東南アジアの熱帯地方にある1,168カ所のマングローブを、日本の地球資源衛星1号(JERS-1)、合成開口レーダー(SAR)、陸域観測技術衛星((ALOS)、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー(PALSAR)によるデータを使用し、(マングローブの)土地被覆と土地利用の変化を時系列で示した。その後、多重時間(multi-tempora)レーダー・モザイクによるマングローブ地域の消失や拡大とその要因が手作業で解析された。
調査対象とした1,168カ所では、12%のマングローブが人間の活動による影響で消失しており、1996年以前と比べ消失エリアは約38%増加していた。また、調査対象地域全体では18.4%の消失が確認されたが、最も消失の割合が多かったのは東南アジアで約50%に達していた。世界のマングローブの33.8%が存在する東南アジアは、同時に世界の水産養殖の90%を占める地域。今回の論文では、東南アジアで大規模にマングローブが消失した主な要因は、水産養殖(エビ養殖)と農業(油ヤシ、米)だと指摘している。
一方、回復に向けた取り組みが進んでいる地域もある。インドネシアのボゴール農業大学のマングローブ生態学研究者Cecep Kusmana氏によると、同国には370万ヘクタールのマングローブがあり、その70%が水産養殖と人間の居住によって破壊され、被害を受けている。しかし現在、政府、国際NGO、沿岸の住民がマングローブを修復させるために協力しており、将来については楽観的な見方を語った。今はまだ修復より消失の割合の方が大きいが、特に沿岸地域の住民の間ではマングローブの役割に関する認識が高まっており、持続可能な水産養殖とマングローブ保全のバランスを図る取り組みが進められているという。
【論文】Distribution and drivers of global mangrove forest change, 1996–2010
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