経済産業省は10月26日、今年8月に発足した「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」の提言とその議論の過程をまとめた報告書「伊藤レポート2.0(「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」報告書)」を公表した。前回の「伊藤レポート」は2014年に発表され、「稼ぐ力」が落ちている日本企業の底上げを図るためROEを8%以上とする目標を掲げ、経済界に大きなインパクトをもたらした。「伊藤レポート2.0」は、「稼ぐ力」を上げるためには、人材や技術、ブランド等の「無形資産」やESG投資が主眼とする非財務情報が重要だと強調した。
「伊藤レポート2.0」は、前回と同様、伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科特任教授が座長を務め、水野弘道GPIF理事・CIO、有馬利男国連グローバル・コンパクト(UNGC)ボードメンバー、江良明嗣ブラックロック・ジャパン・インベストメント・スチュワードシップ・チーム責任者、三瓶裕喜フィデリティ投信ヘッド・オブ・エンゲージメント、松島憲之三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフリサーチアドバイザー、菊田徹也第一生命保険常務執行役員、井口譲二ニッセイアセットマネジメント株式運用部担当部長、竹ケ原啓介日本政策投資銀行産業調査部長、廣田康人三菱商事代表取締役常務執行役員、久保雅晴三井化学代表取締役副社長執行役員等が委員。金融庁、環境省、日本取引所グループ、日本経済団体連合会もオブザーバー参加した。
同研究会は、日本企業のPBR(株価純資産倍率)は、昨年9月時点でTOPX構成銘柄の中央値が1倍を下回る0.98。一方米国やドイツは2倍台が中央値。日本は長期的にも過去長年に渡り1倍前後で推移しており、日本企業が生み出す価値に対する投資家からの期待が極めて低いことを問題視した。とりわけ、欧米主要国では、低PBR企業の有形資産比率が約90%なのに対し高PBR企業は70%台と無形資産比率が高くなっているが、日本企業はPBRの高低にかかわらず、有形資産比率が90%台と高くなっている分析した。また、日本では政策保有株主(事業会社等による株式保有)比率が比較的高いことも、PBRを高めるインセンティブが少なくなっていることも取り上げた。
一方、昨今の投資手法の変化として、将来の価値創造ストーリー、仮説構築を行うため非財務情報の重要性が増している指摘。非財務情報を適切に流通させる企業と投資家間の共通認識や情報開示フレームワークが未整備であることを課題として取り上げた。そのため、同研究会はすでに今年5月、「価値協創ガイダンス(価値協創のための統合的開⽰・対話ガイダンス-ESG・⾮財務情報と無形資産投資-)」を公表している。同ガイダンスは、「稼ぐ力」工場に向け取り組むべき分野として、企業文化・風土、ESG、サステナビリティ、成長性、経営人材・キーパーソン育成、ダイバーシティ、研究開発投資、IT・ソフトウェア投資、ブランド投資、ガバナンス等を挙げている。
「伊藤レポート2.0」は、今後に向け、同ガイダンスの運用定着のための企業・投資家対話プラットフォームの設立、資本市場における非財務情報データベースの充実とアクセス向上、政策や企業戦略、投資判断の基礎となる無形資産等に関する調査・統計、研究の充実、企業価値を高める無形資産への投資促進のためのインセンティブ設計等を提言した。経済産業省はまず、同ガイダンスの企業モデル事例や投資家評価を調査・検討する研究会を立ち上げる予定。
【参照ページ】ESGと無形資産投資に関する初めての体系的な手引きと政策提言を取りまとめました~「伊藤レポート2.0」発表~
【レポート】伊藤レポート2.0
【ガイダンス】価値協創ガイダンス
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