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【日本】政府、「水素基本戦略」決定。褐炭をCCSでCO2フリー化する水素製造技術が柱か

 経済産業省資源エネルギー庁は12月26日、「第2回再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」の場で「水素基本戦略」が決定されたと発表した。水素基本戦略は、2050年までの将来ビジョンと2030年までの行動計画を定めたもの。

 同会議は、総務大臣、外務大臣、文部科学大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣、経済再生担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、内閣府特命担当大臣(海洋政策)、内閣官房長官で構成。再生可能エネルギーの導入拡大と水素社会の実現に向け省庁横断で検討するために設置された。もともとは、2014年に「再生可能エネルギー等関係閣僚会議」が設置。2017年4月に「再生可能エネルギー・水素等閣僚会議」に改組され、第1回会議が行われた。会議の庶務は、内閣官房が担い、経済産業省が協力している。

 政府は、水素エネルギーを推進する理由として、エネルギー安全保障を高めるため、現在特定地域の化石燃料に依存している状況を改め、活用できるエネルギー資源を分散化することを挙げた。また、気候変動対策として二酸化炭素排出量削減も挙げたが、後述するように、二酸化炭素排出量については、炭素回収・貯蔵(CCS)技術を導入し二酸化炭素排出量をゼロにすることが前提となっている。さらに海外での再生可能エネルギーを利用し水素エネルギーを輸入することも視野に入れている。

水素エネルギー利用コスト目標

 水素エネルギーを普及させるためには、主に、水素の製造、水素の輸送・貯蔵、水素の供給・利用の3つプロセスの整備が必要となる。水素の利用では、燃料電池自動車(FCV)の可能性がよく知られているが、すでに光ファイバーや石油精製等の工業分野では利用されている。燃料電池として電気利用も大きな可能性がある。しかし、現状水素エネルギーはコストが高く、利用を促進するためには、利用コストを大きく低減させなければならない。「水素基本戦略」では、FCVステーションでの水素価格が現状約100円/Nm3のところを、2030年までに30円/Nm3、将来には20円/Nm3にまで5分の1に引き下げると掲げた。これが実現できれば、現状の天然ガス輸入価格12円/Nm3に大きく近づく。

水素エネルギー輸入

 だが、脱炭素で低価格な水素エネルギーを実現するためには、技術的な課題が多い。水素エネルギーは利用時には二酸化炭素排出量がゼロだが、現状では水素は天然ガス等の化石燃料を化学反応させて抽出されているため副産物として二酸化炭素を大量に発生させてしまう。今回の計画では、海外に豊富に存在する質の低い石炭の一種「褐炭」に着目し、褐炭にCCSを組み合わせる構想を示したが、褐炭は天然ガスよりも二酸化炭素排出量が多く、水素エネルギーを二酸化炭素排出量ゼロ・エネルギーとして利用するためには、炭素回収・貯蔵(CCS)を高度に実用化させ、普及させなければならない。また、水素は、水を電気分解させて製造する手法もあるが、電気を必要となる。その電気を、再生可能エネルギー電力にできれば、同じく二酸化炭素排出量ゼロ・エネルギーにできる。

 水素の輸送・貯蔵でも技術課題が多い。水素の輸送では、気体の水素を効率的で大量に輸送する仕組みが必要となる。現状では、水素を気体のまま圧縮し高圧ガスとして輸送する手法や、マイナス253度に冷却すると液化し体積が約800分の1になる特徴を活かして液体水素として輸送する手法が生まれている。しかし、高圧ガスは危険物として取り扱わなければいけない制約があり、一方液体水素を長距離輸送するには極度の低温状態を長時間維持する技術や設備が必要となる。常温で液体化水素を運ぶにはトルエン等の有機物と化合させる「有機ハイドライド」という技術があり、水素を500分の1にできるが、輸送前後で水素化、脱水素化するという追加設備コストが発生する。「水素基本戦略」では、液体水素については、2020年度までの日豪間の液化水素サプライチェーン構築実証を通じて基盤技術を確立し、2030年頃に商用化させるとした。有機ハイドライドでは、2020年度までの日ブルネイ間の有機ハイドライドサプライチェーン構築実証を通じて基盤技術を確立し、2025年以降の商用化を目指す。

 また輸送・貯蔵では、新たな技術的オプションについても記載した。常温液体輸送では、有機ハイドライドではなくアンモニアと反応させる手法も注目されている。アンモニア化合物は脱水素せず直接発電燃料とすることも可能だが、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)を発生させたり、人体に悪影響のある可燃性劇物を生成してしまう。別のオプションでは、水素を二酸化炭素と合成しメタン化させる技術もあるが、二酸化炭素を安価に調達することが課題となる。国内輸送では水素を気体のままパイプライン輸送するインフラも検討されているが、設置コストや安全性のために臭いを敢えて付ける「不臭」物質が燃料電池の性能を損ねる課題が指摘されている。このうちアンモニアを用いた手法については、2020年代までに利用開始を目指すと掲げた。

国内での水素製造

 国内での水素製造では、再生可能エネルギー電力を用いた水素製造・貯蔵「Power-to-gas」に焦点を当てた。気候変動対応のため世界的に整備が進む再生可能エネルギー電力は、天候等により発電力に差が出るため、安定化のためにバッテリーに貯蔵できると可能性が大きく広がる。「水素基本戦略」は、Power-to-gasの中核となる水電解システムについて、世界最高水準のコスト優位性を持つため2020年までに5万円/kWを見通す技術を確立するとした。FIT切れ再生可能エネルギー電力が大量に生まれ、電力調達コストが低下する2032年頃には商用化したい考え。

国内での水素利用

 水素利用では、水素エネルギーで発電する「水素発電」も注目されている。コスト競争力のある電源とするために、2030年頃までに17円/kWhを目指し、水素調達量年間30万t(1GW相当)を目安とする。将来的には、同じ気体燃料である天然ガス火力発電と同等のコストを目指し、年間500万から1,000万t(15から30GW)を目安とする。前述したアンモニアと化合させた水素の直接燃焼では、2020年頃までに石炭混焼発電等での利用開始を目指す。

 燃料電池自動車(FCV)では、2020年までに4万台程度、2025年までに20万台程度、2030年までに80万台程度の普及を、水素ステーションについては 2020年度までに160ヶ所、2025年度までに320ヶ所の整備を目標とし、2020年代後半までに水素ステーション事業の自立化を目指す。FCバスは、2020年度までに100台程度、2030年度までに1200台程度の導入を目指す。FCフォークリフトは、2020年度までに500台程度、2030年度までに1万台程度の導入を目指す。FCトラック、FC船の実用化については定量目標は避けた。

 水素と酸素から発電や発熱を行う家庭用燃料電池「エネファーム」では、2020年頃までに、PEFC(固体高分子形燃料電池)型標準機については80万円、SOFC(固体酸化物形燃料電池)型標準機ついては100万円の価格を実現するための助成を行い、その後の自立的普及を図る。

【参照ページ】「水素基本戦略」が決定されました

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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