世界銀行グループと年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は4月19日、債券分野でのESG投資の分析レポートを共同で発行。ESG債券投資はリスクマネジメントを強化できるとともに、安定的なリターンにも貢献するとの見方を示した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と世界銀行グループは2017年10月11日、ESG債券投資分野での共同研究を行うと発表。今回の報告書は共同研究の一環。
【参考】【日本】GPIF、世界銀行グループとESG投資の共同研究で提携。第1弾はESG債券投資分野(2017年10月19日)
同報告書によると、すでに一部の投資家は、ESG債券投資をリスクマネジメントの強化としてだけでなく、債券投資や他のアセット投資がもたらす国連持続可能な開発目標(SDGs)等へのインパクトを計測するために活用する動きもみられる。実際に取り組んでいる投資家の例として、蘭APG、蘭PGGM、スウェーデンAP2等の名前を挙げた。
ESG債券投資でも、ESG株式投資と同様、ネガティブスクリーニング、ESGインテグレーション、テーマ投資、エンゲージメント等の戦略が存在している。ネガティブスクリーニングの例では、社債では、たばこ、問題性のある武器、原子力、アダルト、アルコール等の業界を除外する例や環境、人権、倫理基準に抵触する企業を除外する例が、国債では、経済制裁や国際的な環境・人権基準に違反する国を除外する例を紹介した。
世界のESG債券投資額は21.9兆米ドル。戦略毎では、ESGインテグレーションが9.6兆米ドル、ネガティブスクリーニングとESGインテグレーションの二種混合型が5.8兆米ドル、ネガティブスクリーニングが2.3兆米ドル、ネガティブスクリーニングとESGインテグレーション、テーマ投資の三種混合型が1.4兆米ドル。
パフォーマンスに関しては、金融機関や大学等での先行研究をレビュー。個別の研究発表では様々な見解の違いが見られるものの、大方の見方として、ESG要素が重大な信用リスクを構成していることや、ESG要素はリターンを犠牲にしないとする研究が増えてきているとした。
一方、ESG債券投資には大きな制約もあると指摘した。ESGのうち「社会(S)」に関する定義、新興国市場を中心としたデータ不足、ESG債券投資商品の不足、信用格付や債券インデックスにESGを組込む手法の未整備等を挙げた。インパクト計測を実施している機関投資家からも、インパクト計測が難しいとの声が上がった。
債券投資先へのエンゲージメントについても、債権者は株主と異なり公式なオーナーシップがなく、エンゲージメント機会が限られていると感じている投資家が多いとした。とりわけ国債を発行している各国政府に対するエンゲージメントは限定的となるという意見が出た。
今回の報告書受けて、GPIFは「ESG投資は、その過程を重視するものから、その結果を重視するものへと発展しつつある」と認識を示し、今後に向けて、データの深掘り、ESG要素が債券投資に与える影響の研究、ESG考慮とインパクト投資における原則や基準の検討、革新的な投資商品の投入が必要だとした。高橋則広理事長は「今回の共同研究の成果も踏まえ、GPIFは債券投資におけるESGの考慮について、引き続き取り組みを検討していく」と表明。水野弘道理事兼CIOも「GPIFはESG統合を実施するため、委託先の債券投資運用会社と連携することをコミットしている」とした。
【参照ページ】Environmental, Social and Governance Factors Can Be Material Risks for Fixed Income Investors, Finds World Bank Group and GPIF Report
【参照ページ】環境・社会・ガバナンス(ESG)が債券投資家にとって重要なリスク要素に
【レポート】Incorporating ENVIRONMENTAL, SOCIAL and GOVERNANCE (ESG) Factors into FIXED INCOME INVESTMENT