金融業界の気候変動対応を促す国際イニシアチブ2° Investing Initiative(2°ii)は6月17日、ESGインデックスに関する研究報告書を発表。米MSCIの一連のESGインデックスを対象に課題を指摘した。
まず、通常インデックス「MSCI World Index」と、低炭素型インデックス「MSCI World Low-Carbon Leaders Index」と「MSCI World Low-Carbon Targets Index」を原単位の二酸化炭素排出量で比較した場合、「MSCI World Index」が29%、「MSCI World Low-Carbon Leaders Index」が17%、「MSCI World Low-Carbon Targets Index」が19%で、「MSCIワールド・インデックス」が最も削減幅が大きかった。
これは2015年の原単位排出量がベースラインとした場合の数字のため、必ずしも驚く結果ではないが、原単位排出削減率だけではインデックスの良し悪しを図ることは難しいという事実を明らかにした分析となった。
次に「MSCI World Index」と「MSCI World ESG Leaders Index」の投資リターンを比較分析した。結果、2007年からの14年間のトータルリターンで、「MSCI World ESG Leaders Index」の方が0.8%高いという結果だった。2°iiは、同結果から、ESG投資はパフォーマンスを犠牲にするものではないということが証明されたとしながらも、サステナビリティリスクに対応できるESG投資はパフォーマンスが高くなるという仮説とは合致しないと説明した。
3つ目の分析では、MSCI World Environment Indexと構成銘柄の課題を指摘。同インデックスの設計思想では、製品の50%以上を環境重視型製品・サービスが占める企業を構成銘柄とする予定だが、結果的に2022年第1四半期の状況では、テスラ1社で47.33%を占め、ほぼテスラの株価に連動するインデックスとなっていた。2°iiは、同インデックスは、幅広い企業に成長資金を提供する投資機会にはなりえておらず、さらにテスラ自身は、MSCIの「推定気温上昇」モデルで、2.63℃水準となっており、決して優れた状況にはなっていないと指摘した。テスラが2.63℃水準となっている理由は、製品使用時の排出量を考慮せず、製品生産時の排出量のみで計算するモデルになっているため。
【参考】【国際】MSCI、投資ポートフォリオの気候変動「温度」診断サービス発表。企業にはコミット度判定格付も(2021年9月15日)
最後に、時価総額加重平均型インデックスが、実際には特定の銘柄に集中している問題を指摘した。経済協力開発機構(OECD)によると、ITセクターは先進国市場の付加価値総額の約5%にすぎないが、MSCI World Indexでは、同セクターは25%から30%を占めており、ITセクターが突出している状況となっている。特に、2015年5月以降、同インデックスの上位10社のシェアは9.5%から、19.1%へと約2倍に拡大。10社のみで約2割を構成している。この事実は、時価総額加重平均型が幅広い分散投資と宣伝されていることと矛盾するとした。
一方、MSCIが比較的新しくリリースした「MSCI World Climate index」については高く評価。機関投資家向けの気候変動移行リスク評価ツール「PACTA tool」を活用した分析では、世界の気温上昇を1.65℃以下に抑える持続可能な開発シナリオ(SDS)との整合性が取れていた。特に、電力セクターにおいて、気候変動パフォーマンスが、親インデックスを概ね上回っていた。
今回の調査は、2°iiの研究プログラム「1in1000」が実施。今回の報告書は、2°iiは、既存のインデックスの課題を指摘することで、気候変動を重視する機関投資家が真に活用できるインデックスの開発を、インデックス開発会社に求めていくことを狙っている。
【参照ページ】Cabinet of Curiosities – The world of mainstream & low-carbon benchmarks
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