英ビジネス・エネルギー・産業戦略省は12月13日、原子力発電と水素の分野のイノベーションに総額1億200万ポンド(約160億円)の補助金を発表した。英国における核燃料生産と次世代原子炉の支援に7,700万ポンド、バイオマス火力発電からの水素生産技術開発に2,500万ポンドを投じる。
今回の発表は、英政府が2021年に発表した「ネットゼロ・イノベーション・ポートフォリオ」予算10億ポンド(約1,700億円)の一部。他には、洋上風力発電、グリーン水素、ブルー水素、省エネ、直接大気回収(DAC)、炭素回収・利用・貯留(CCUS)、工業でのカーボンニュートラル化等が含まれている。
【参考】【イギリス】政府、包括的な「水素戦略」発表。グリーン・ブルー両睨み。基準策定も(2021年8月23日)
【参考】【イギリス】政府、カーボンニュートラルでのAI活用支援に2.5億円。イノベーション補助金(2022年12月5日)
今回の発表では、原子力への投資に関しては、まず、2030年代初頭までに稼働可能な先進的モジュール型原子炉(AMR)の一種である最先端の高温ガス炉(HTGR)の研究の次の段階を開始するために、最大6,000万ポンドを投じる。高温ガス炉は、炉心の主構成材に黒鉛を中心としたセラミック材料を用いているため、高温でも炉心溶解しにくい。核分裂で生じた熱を外に取り出すための冷却材にはヘリウムガスを用いている。また、小型で設計でき、建設費を抑えることもできる。同省は、10年後までに工学設計の実証プロジェクトを立ち上げる計画。
また、高温ガス炉の研究・開発・実証プログラムを補完するプロジェクトとして、AMR知識獲得プロジェクトにも400万ポンドを提供。外部からの知見を得ることで研究効率を上げる。さらに、核燃料加工会社ウェスティングハウスに最大1,300万ポンドを提供。再処理ウランと採掘ウランの両方から新たな燃料を生産することに費やす。同省は別途、1月2日、ロシアからのウラン依存度を減らすため、英国での核燃料生産を促進する最大7,500万ポンドの「核燃料基金」を創設することも発表した。英政府は、2050年までに最大24GWの原子力発電を確保する計画を掲げている。
水素に関しては、炭素回収・貯留付きバイオエネルギー(BECCS)からの水素生産のフェーズ2補助金として、2,500万ポンドを拠出する。フェーズ1は2022年1月に500万ポンドで実施済みで、フェーズ1の中から有望なプロジェクトに絞り、フェーズ2補助金が追加支給される。2030年までの実用化を目指す。また同省は今回、「英国水素戦略アップデート」も発表し、最近の政府アクションを伝えた。すでにIndustrial Hydrogen Acceleratorを通じて9つのプロジェクトに合計2,600万ポンドを拠出。Net Zero Hydrogen FundとHydrogen Production Business Modelを通じ、第1回水電解割当ラウンドも実施している。
また同省は今回、ガスボイラーの効率基準の引上げ方針も発表。2035年からは天然ガスのみのボイラーの新設・修繕を段階的に廃止していく計画を示した。さらに、2026年以降に販売される家庭用ガスボイラーでは、水素燃料対応を求める提案についてのパブリックコメントの募集も開始した。
さらに同省は12月20日、地域熱供給ネットワークの構築のため、Green Heat Network Fund(GHNF)から2地域に総額2,700万ポンド(約43億円)を拠出することも発表した。地域熱供給ネットワークは、現状で英国の熱供給のわずか2%ほどでしかないが、政府は2050年には最大20%をカバーできるとみている。2021年3月に創設されたGreen Heat Network Fund(GHNF)の予算は総額2億8,800万ポンド(約460億円)。今回の第1号決定では、ハル地区とピーターバラ地区が補助金を獲得。特に、ハル地区では家庭ごみを活用した廃棄物焼却の熱を供給する。別途、ウィガン地区は、GNHFの前身のHeat Networks Investment Project(HNIP)から260万ポンド(約5億円)の補助金も決まった。英政府系金融機関のインフラストラクチャーバンクからも自治体向けに40億ポンドの融資も用意した。
【参照ページ】£102 million government backing for nuclear and hydrogen innovation in the UK
【参照ページ】First Green Heat Network Fund awards for cutting-edge low carbon energy projects
【参照ページ】Ministers bolster UK nuclear fuel capacity to squeeze out Russian influence
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