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【日本】政府、GX実現に向けた基本方針を閣議決定。国際的な理解が得られない場合、絵に描いた餅

 日本政府は2月10日、「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定した。2022年に複数回開催したGX実行会議での議論を踏まえ、政府政策として決定した形。パブリックコメントの募集も実施されたが、ほぼ2022年12月の第5回GX実行会議で示された原案のまま確定した。政府は今年の国会で関連法案を提出する。

【参考】【日本】政府GX実行会議、官民投資に150兆円投資構想。2028年にカーボンプライシング制度(2022年12月24日)

 今回の閣議決定文書では、第5回GX実行会議の内容を踏襲し、「既に欧米各国は、ロシアによるウクライナ侵略を契機として、これまでの脱炭素への取組を更に加速させ、国家を挙げて発電部門、産業部門、運輸部門、家庭部門などにおける脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取組を加速している」と言及。ウクライナ戦争でカーボンニュートラルの流れが加速しているとの認識をあらためて示した。

 大方針としては、「徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換」「再生可能エネルギーの主力電源化」「原子力発電の活用」の3つを掲げた。

 分野別の基本方針として、「水素・アンモニア」「バッテリー」「鉄鋼」「化学」「セメント」「紙パルプ」「自動車」「資源循環」「住宅・建築物」「デジタル投資」「航空機」「海運」「バイオ」「再生可能エネルギー」「電力系統」「原子力」「運輸」「インフラ」「カーボンリサイクル」「炭素回収・貯留(CCS)」「食料・農林水産業」「地域・くらし」の22分野毎の見通しを示した点も、第5回GX実行会議と同じ。

 今後10年間での官民投資は、150兆円超で最終確定。官民投資額の内訳は、自動車で34兆円、再生可能エネルギーで20兆円、住宅・建築物で14兆円、電力系統で11兆円、デジタル(半導体含む)で12兆円、水素・アンモニアで7兆円、バッテリーで7兆円、航空機で5兆円、CCSで4兆円、鉄鋼で3兆円、化学で3兆円、海運で3兆円、バイオで3兆円、カーボンリサイクルで3兆円、資源循環で2兆円、原子力発電の高温ガス炉・高速炉で1兆円、セメントで1兆円、紙パルプで1兆円とした。経済産業省の所管外の食料・農林水産業、地域・くらし、運輸、インフラへの投資については扱っておらず、位置付けが小さく、電力と重工業に偏った内容となっている。

 再生可能エネルギーの拡大でも、第5回GX実行会議と同様、すでに発表されている政策を再度記載するに留まった。2030年の設備容量は第6次エネルギー基本計画の内容を踏襲。洋上風力発電のみは、第6次エネルギー基本計画では5.7GWだったが、その後に日本政府は10GWに上方修正しており、今回も10GWとした。太陽光発電は2030年に104GWから118GW。水素・アンモニアの導入量は2030年で各々300万tで、火力発電の混焼に使う。発電イノベーションでは、以前からの「ペロブスカイト」だけが頼みの綱となった。

 それに伴い2030年に向けた施策では、FIPの活用、公共部門で設置可能な建築物等の約50%の導入で6GW、改正温対法に基づく促進区域制度等を通じた地域共生型再生可能エネルギーの推進で8.2GWとした。必要量と比較すると、全く不足している内容にみえる。既設の再生可能エネルギーについては、太陽光発電60GWを例に挙げ、「増出力・長期電源化に向けた追加投資を促進」するとした。

 系統強化では、広域系統では、過去10年間で1.2GWの整備だったのに対し、今後10年間で8倍以上の10GWを目指す。北海道を本州をつなぐ海底直流送電ケーブルを2030年度に2GW新設。50/60Hz変換設備も2027年度に現在の2.1GWから3GWへと拡大する。系統強化の費用は約6兆円から7兆円。調整力の確保では、蓄電発電所の2030年に向けた需要を示し、民間企業の投資に期待。他には水素・アンモニアに頼る。公共的な資金拠出では、一般水力発電、揚水発電、蓄電発電、水素・アンモニア混焼発電、バイオマス発電で「長期脱炭素電源オークション」制度を2023年度にスタートする。脱炭素電源としながら、「水素・アンモニア混焼発電」が含まれているところが大きなポイント。

 GX実行会議を通じ、唯一となる新規施策と言えるのが、原子力発電の全面再稼働の加速。第6次エネルギー基本計画は全面再稼働を前提としており、現在再稼働済みは10基。ここから、2023年に高浜原発1号機・2号機、女川原発1号機・2号機、島根原発2号機、柏崎刈羽、東海第二原発の再稼働を予定し、2020年代半ば以降にその他再稼働申請10基、未申請9基の再稼働も見込む。稼働延長についても、「既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、現行制度と同様に、『運転期間は40年、延長を認める期間は20年』との制限を設けた上で、原子力規制委員会による厳格な安全審査が行われることを前提に、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとする」とした。これらの方向性が閣議決定された。

 同文書では、次世代革新炉の新設についても踏み込んだ。具体的には、「地域の理解確保を大前提」としつつ、「廃炉を決定した原発の敷地内」に限定し、次世代革新炉への建替えを進めるとした。現在廃炉処分となった原子炉は24基、発電所単位では11ヶ所ある。資源エネルギー庁によると、廃炉の手続きは、燃料抽出、原子炉等の解体、建屋等の解体の3段階があり、廃炉完了までは概ね28年から40年かかる。そのため次世代革新炉の新設では、廃炉作業と新設作業を同じ敷地内で同時に進めるという難易度の高い工事となる。

(出所)資源エネルギー庁

 原子力発電運用の前提となる、使用済み核燃料の処理については、「六ヶ所再処理工場の竣工目標実現などの核燃料サイクル推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備を進めるとともに、最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けを抜本強化するため、文献調査受入れ自治体等に対する国を挙げての支援体制の構築、実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)の体制強化、国と関係自治体との協議の場の設置、関心地域への国からの段階的な申入れ等の具体化を進める」とした。

 但し、肝心の六ヶ所再処理工場を管理する日本原燃は2022年9月、建設中の再処理工場の完成目標時期を「2022年上期」から延期することを発表。第5回GX実行会議直後の12月26日に、「2024年6月までには完成させたい」と述べた。完成時期の延期は26回目で、計画通りに進むかは怪しい。

 石油やガスの確保に関しては、民間からのダイベストメント(投資引揚げ)が進む中、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力銀行(JBIC)等が主体となって進める。

 化学では、ケミカルリサイクルを現状27万tから2050年頃に250万t、バイオプラスチックを現状6万tから2050年頃に最大200万tというマイルストーンを設定。金属・レアメタルの資源循環にも触れたが、2兆円という投資額を示すに留まった。

 一方、財源側では、GX経済移行債を20兆円規模で発行する。発行手法は、グリーンボンド等を念頭に「国際標準に準拠した新たな形での発行」を目指すとしつつも、通常国債として発行する道も残した。ひとまず関係省庁による検討体制を早期に発足させる。償還は2050年度までに終える設計とする。資金使途は、「民間のみでは投資判断が真に困難な案件であって、産業競争力強化・経済成長及び排出削減のいずれの実現にも貢献する分野」とした。

 150兆円の資金動員の要となる民間資金の導入では、グリーン分野はほどほどに、トランジション分野を強調。「トランジション」は、日本での独自の解釈が目立ち、国際的な理解が得にくい状況のため「国際的なトランジション・ファイナンスに対する理解醸成に向けた取組を強化すべく、トランジション・ファイナンスの適格性・信頼性の担保に向けた取組が必要となる」と記載した。関係省庁・産業界で連携して引き続き検討を進める模様。

 カーボンプライシング制度に関しては、2023年度からGXリーグでの「排出量取引制度」を試行的に開始。企業が自主的に目標を設定し、不足分を自主的に日本版カーボンクレジット市場で購入するというもの。すでに東京証券取引所で売買実証が行われている。「企業の自主努力」が大前提となっており、どこまで自主的に購入するかは極めて不明。

 また、化石燃料輸入者等のみを対象とした「化石燃料賦課金制度」を2028年から導入。5年間導入を先送りすることについては、「代替技術の有無や国際競争力への影響等を踏まえて実施しなければ、我が国経済への悪影響や、国外への生産移転(カーボンリーケージ)が生じるおそれがあることに鑑み、直ちに導入するのではなく、GXに集中的に取り組む期間を設けた上で導入することとする」とした。また、「当初低い負担で導入し、徐々に引き上げていくこととした上で、その方針をあらかじめ示すことにより、GX投資の前倒しを促進することが可能となる」とも言及した。実行では、投資の前倒しを引き出すためには、将来高い金額をかけていくことを早期に発表していく必要がある。

 発電事業者に対する排出量取引制度となる「有償オークション」の導入は、さらに遅く、2033年度と明記した。具体的には、発電事業を行うに当たって取得する必要がある排出量に相当する排出枠をオークションの対象とし、排出量の見通しや発電効率(ベンチマーク)等を基礎に、排出枠を一定量無償交付し、超過分をオークションで購入する。無償排出枠は段階的に減少させる。2033年度からとした理由は、「再エネ賦課金総額がピークアウトしていく想定を踏まえ」とした。

 カーボンプライシング制度の構想が、このように複雑になっている背景は、2022年10月の第3回GX実行会議で、岸田文雄首相が「エネルギーに係る公的負担の総額が中長期的にも増えないよう、炭素に対する賦課金と排出量取引市場に係る負担を将来的に関連税制などが減少していく範囲内にとどめることを明確に示すことで、企業の予見可能性を高め、産業企業活動の混乱を回避し、民間による大胆な投資を引き出すこと」と指示したことにある。そのため、経済産業省では「エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく制度」がキーフレーズとなった。

 種々のカーボンプライシングの運用のために「GX推進機構」も新たに創設する。排出実績や取引実績の管理、有償オークションの実施、取引価格安定化に向けた監視等も担う。

 日本政府は同日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」も閣議決定した。中身は、化石燃料賦課金制度、有償オークション、GX推進機構の設立に関するもののみ。その中で、化石燃料賦課金制度での「エネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく制度」の担保手法も明確に盛り込まれた。具体的には、石油石炭税の収入減少分と再生可能エネルギー賦課金の納付金減少分の合計額から、有償オークション制度の負担総額を差し引いたものが、対象事業者に負担させる金額の総額となる。これに対象事業者の二酸化炭素排出量で割った金額が単価となる。この条文を維持すれば、化石燃料賦課金の炭素価格単価は、極めて低額となる。

 GX推進機構の組織設計に関しては、運営を担う理事長1人、理事最大6人、監事1人、運営委員会委員8人全員は、経済産業相の認可で決定できるとした。理事長は経済産業相が同意すれば運営委員の解任権も持つ。またGX推進機構は、財相と協議し経済産業相が認可すれば、金融機関からの借入や機関債の発行も可能。調達限度額は政令で定める。政府保証も可能だが、国会の議決で保証上限額を定める。また、余裕資金は、銀行預金、国債運用の他、経済産業相が指定した有価証券や、経済産業省令で定める対象で運用することが可能。監督権限も経済産業相が持つ。このように経済産業相が大権を握る。

[2023.2.11追記]
一部内容を追記した。

[2023.5.18追記]
GX推進法は5月12日に国会を通過し、成立した。

【参照ページ】「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました
【参照ページ】「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました
【参照ページ】GX実行会議
【参照ページ】原子力発電所の「廃炉」、決まったらどんなことをするの?

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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