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【国際】ブラックロック、2023年のフィンク・レター発表。「ESG」封印もESG投資鮮明に

 投資運用世界大手米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは3月15日、投資家に向けた公開書簡2023年版を発表した。フィンクCEOは毎年1月に、次の株主総会シーズンを意識した書簡を出しており、通称「フィンク・レター」とも呼ばれているが、今年は大幅に遅れた。また「ESG」という単語を封印した。背景には、米国でESGを巡る政治が沸騰しており、メッセージの出し方に慎重になったと考えられる。

【参考】【国際】ブラックロックCEO、ESG巡る分断を「もはや醜悪」と批判。業績好調を強調(2023年1月24日)

 フィンク氏は今回、近年、毎年初旬にCEO向けと投資家向けの2つのレターを発表していたことを回顧しつつ、今年は投資家向けのレターのみを作成したことを伝えた。また昨年は、議決権行使に関するレターをCEOと投資家の双方に向けレターを書いたにも触れたが、今年も書くかは明確にしなかった。

 昨年の振り返りとしては、株式市場と債券市場の両方が数十年ぶりに下落した歴史上最も厳しい市場環境の1年になったと述懐。同課題は2023年も続いているとした。また「米国や欧州を含む地域間、そして特に米国では地域内でも意見が分かれている。このような意見の相違は、ブラックロックのような真のグローバル資産運用会社にとって課題」と吐露。フィンク氏が12月に「醜悪」と表現したESGの話題を念頭に置いていると思われる。

 その中で「このような環境下でも、私たちの提供するサービスの多様性、グローバルな視点と洞察力、常に顧客の好みを中心に据えるというアプローチは、強力な競争力であると信じる」とした。2022年に、多くの運用会社で純流出を経験した中、同社は米国だけで2,300億米ドル、世界で4,000億米ドル近い純増となり、ESGを巡る分断の中でも、全体では投資家からの支持が堅いことを強調した。

 その上で、「シリコンバレー銀行に端を発する銀行危機問題」「社会分断・断片化」「退職後の生活」「希望と楽観のための未来への投資」「気候変動とエネルギー転換」「議決権行使の改革」の6つについてメッセージを出した。

 足元の銀行危機については、金融緩和と規制強化の結果が、米国の地方銀行セクター全体に波及し、さらなる差し押さえや閉鎖が起こるかどうかは不透明としつつも、一部の銀行がバランスシートを補強するために融資を控える必要があることは避けられず、銀行に対する資本基準の厳格化も予想されるとした。さらに、ALMのミスマッチ問題への関心が高まったことで、長期的には資金調達のために資本市場に目を向ける人が増えるだろうとも予想した。今後の流動性リスクに飛び火する可能性もあるとした。政府の歳出が抑制する中、今後の世界経済の成長のためには、民間セクターがより重要となり、民間セクターの潜在能力を引き出すために官民が協力する必要があるとした。

 社会分断では、保護主義と分極化が世界で起きており、信頼や希望が喪失しつつあると指摘。サプライチェーンが地政学的緊張にさらされることからも、今後数年間のインフレ率は約3.5%から4%で推移する可能性が高いとした。一方、北米にはチャンスも生まれるとし、多様で大量の労働力、天然資源、エネルギー・食料安全保障の強みを活かしべきとした。

 明るいに定年後に関しては、高齢化社会の課題は、世界的には現在ほとんど報じられていないが、着実に危機に向かっていると警鐘を鳴らした。成功する国は、健康寿命が長く、労働力率が高く、生産性が高い国であり、株主に持続的な利益をもたらす企業は、十分な労働者を確保し、高い生産性で従事させ、十分な顧客を確保することができる企業になると主張。また、快適な老後のためには、資本市場の成長によって長期的リターンが必要となるとした。

 同時に、未来への投資でも、人々は恐怖を感じると、貯蓄はしても、投資はしないことから、退職資産が、長期的な経済目標のために投資していくためには、希望と楽観、長期的な視点、金融機関への信頼、市場の誠実さが重要とした。

 気候変動では、「ここ数年、気候変動リスクを投資リスクと捉えてきたし、今でも変わらない」と言及。世界中の様々な場所で起きている自然災害を見れば、気候変動の影響は誰でもわかるとした。長期投資では、他の要因に加え、エネルギー転換が経済、資産価格、投資パフォーマンスにどのような影響を与えるかを考慮する必要があるとした。気象パターンの変化の影響を受けにくい地域に人々が移転すれば、米国の住宅市場は大きく変化する可能性があるとも述べた。政府の政策、技術、消費者の嗜好の変化は、大きな投資機会を生み出すとした。

 気候変動に関しては、米国の共和党陣営から反ESGの動きがあり、ブラックロックの苦しめている。そのため、今回のフィンク氏の説明にも熱が籠もっているように感じる。長期的な資産リターンに影響を与える可能性のあるサステナビリティの重要リスク要因を投資判断に反映させるためのデータへのアクセスも、多くの顧客が望んでいると強調。少数株主である同社は、企業に指示を出す立場ではなく、伴走者としての姿を打ち描いた。共和党の反発の根源となっているエネルギー会社の扱いについても、「エネルギー安全保障とエネルギー転換を成功させるために、エネルギー会社が果たすべき重要な役割を認識している」と配慮をみせた。

 フィンク氏は今回、「昨年、次の1,000のユニコーンは検索エンジンやSNS企業ではないだろうと書いた。そうではなくて、持続可能でスケーラブルなイノベーター、つまり、世界の脱炭素化を支援し、すべての消費者にとって安価なエネルギー移行を実現するスタートアップがそうなるだろう。私は今でもそう信じている」ともコメントした。

 議決権行使では、コーポレートガバナンスを改革し、株主の民主主義をさらに強化するため、アセットオーナーが議決権行使をしやすくできる仕組みをさらに整えていく意気込みを伝えた。また、株主の民主主義を健全に働かせるには、適切な情報提供が必要なため、議決権行使助言会社に依存しきらず、多様な声がアセットオーナーの中から生まれていることを重要とした。

 反ESG陣営が強調している「ESG投資はリターンを犠牲にしている」に関しても、今回フィンク氏は、1999年の上場以来、S&P500の金融サービス銘柄の中で最も高いパフォーマンスを誇り、7,700%のトータルリターンを達成していると強調した。顧客のリターンを重視しているからこそのESG投資との考えも改めて伝えた。

【参照ページ】Larry Fink’s Annual Chairman’s Letter to Investors

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