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【EU】欧州委、ESRS原案を発表。要件を大幅緩和。PRI等の機関投資家団体は反発

 国連責任投資原則(PRI)、欧州持続可能投資フォーラム(Eurosif)、欧州資産運用業界団体EFAMA、IIGCCの4団体は7月7日、欧州委員会で進められている欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)制定の動きに関し、高い水準の義務を企業に課すよう求めた。

 EUの金融報告フレームワーク検討機関European Financial Reporting Advisory Group(EFRAG)は2022年11月、EUで立法作業中の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく、欧州サステナビリティ報告基準 (ESRS)の最終案の第1陣を採択。最終決定権を持つ欧州委員会に送付した。

【参考】【EU】EFRAG、欧州サステナビリティ報告基準の最終案第1陣採択。スコープ3やTCFD定量分析を義務化(2022年11月19日)

 それを受け、欧州委員会は6月9日、委託法令案として、ESRSの原案を公表。全体開示要件として、一般原則「ESRS 1」と、一般開示原則「ESRS 2」の2つ。加えて、テーマ別開示要件として、気候変動「ESRS E1」、汚染「ESRS E2」、水・海洋資源「ESRS E3」、生物多様性・生態系「ESRS E4」、資源利用・サーキュラーエコノミー「ESRS E5」、自社従業員「ESRS S1」、バリューチェーン労働者「ESRS S2」、影響を受けるコミュニティ「ESRS S3」、消費者・エンドユーザー「ESRS S4」、行動規範「ESRS G1」の案を示した。

 欧州委員会の原案では、一般開示原則「ESRS 2」と気候変動「ESRS E1」は全ての企業が必須。これは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が6月に発行した、サステナビリティ開示基準の「一般サステナビリティ開示事項(S1)」と「気候関連開示事項(S2)」に整合させたと言える。また、自社従業員「ESRS S1」については、従業員250人以上の企業は必須とした。

【参考】【国際】ISSB、S1とS2を公式発行。WBCSDと合同で普及イニシアチブ発足。新時代へ(2023年6月27日)

 欧州委員会は、本来はEFRAGの推奨報告に準じた委託法令を定める義務が課せられていたが、欧州委員会は、他の会計指令に基づく行政義務を援用し、加盟国の委員や、EUの金融関連当局との協議を実施。それを受け、特に、生物多様性、自社従業員、サプライチェーン労働者、影響を受けるコミュニティ、消費者・エンドユーザーの5つが、企業にとって開示が「困難」との反応を得たと言及した。また、既存の非財務情報開示指令(NFRD)の報告義務対象でなかった企業にとっては対応時間が少なすぎるとの声もあったことを紹介。開示コストを必要最小限に留めるため、要件を緩和する必要があるとの見解を示した。

 そこで、今回の原案では、従業員750人未満のCSRDは対象企業は、ESRS 2のみを必須とし、他のテーマ別開示要件については、開示そのものではなく、マテリアリティ評価の際に考慮することのみを求める案を提示した。開始1年後には、スコープ3の二酸化炭素排出量と自社従業員の関する開示要件が、開始2年後には、生物多様性、バリューチェーン労働者、影響を受けるコミュニティ、消費者・エンドユーザーの開示要件が適用されるとした。

 従業員750人以上のCSRD企業に関しても、初年度は、汚染、水・海洋資源、生物多様性・生態系、資源利用・サーキュラーエコノミー、社会保護、障害者、労災、ワークライフバランスに関する開示義務が免除される。

 さらに欧州委員会は、一部の項目については、開示を義務ではなく、任意にする案も示した。具体的には、生物多様性に関する移行計画(トランジション・プラン)、正規雇用以外の自社従業員、特定のサステナビリティ課題が「マテリアルでない」と判断した理由の説明の3つを例示した。

 加えて、必須要件のまま残したが、サステナビリティリスクから生じる財務影響や、ステークホルダーエンゲージメントに関する開示要件、マテリアリティ評価手法に関しては、EFRAGの素案を修正し、柔軟性を上げた。腐敗に関する指標や、自己犯罪をしない権利を侵害したとみなされる可能性のある内部告発者の保護に関する指標も修正した。

 欧州委員会は、CSRDの義務を果たす上で、EFRAGからの素案を大幅に修正していることをみとめており、自身には公式な解釈権があることを強調するとともに、EFRAGに必要に応じて追加ガイダンスを欧州委員会に提出するよう要請するとした。同委託法令は正式採択後に、EU理事会と欧州議会の異議申立期間に入る。異議申立てがなければ、2024年1月1日に適用する予定となっている。

 これに対し、今回、PRIやEFAMAらは、欧州委員会がEFRAG素案を大幅に修正したことを批判する形となった。理由としては、「サステナブルファイナンス開示指令(SFDR)との不整合」「マテリアリティ自己評価や開示の一部任意化は、サステナビリティ報告の精度を低下させる」の2つを挙げた。すなわち、CSRDの要件緩和が、機関投資家のSFDR上の義務を果たせなくなると警鐘を鳴らした。

 そこで、対案として、「マテリアリティ評価要件の調整」「SFDRとCSRDの報告ルールの導入スケジュールの一致」「ESRS、ISSB、GRIの各スタンダードの相互運用性の最大限の確保」「移行計画の要件の具体化」の4つを示した。

 欧州委員会は、原案に対するパブリックコメント募集を7月7日に終了している。9月末までに委託法令を採択することになっているが、スケジュール通りに進まない可能性もありそうだ。

【参照ページ】Reducing mandatory requirements for corporate ESG reporting would deprive asset managers of data needed for sustainable investment disclosures
【参照ページ】European sustainability reporting standards – first set

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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