Skip navigation
サステナビリティ・
ESG金融のニュース
時価総額上位100社の96%が
Sustainable Japanに登録している。その理由は?

【イギリス】政府、エネルギー安保で脱化石燃料を法制化へ。再エネに加え水素、CCUS、核融合

 英政府は7月6日、エネルギー安全保障法案を発表。長期的なエネルギーの独立性、安全性、繁栄を促進するための措置を法制化する。今後、国会で審議する。

 同法案の柱は、2030年までに史上最大の1,000億ポンド(約16兆円)の民間投資を水素や洋上風力発電等の国内エネルギー供給の多様化に向け誘導し、10年後までに約48万人のグリーン雇用を創出するというもの。英政府は、「過去10年間で最大のエネルギーシステム改革」と表現した。

 まず、エネルギー供給の増産では、従来の再生可能エネルギー及び水素の重視に加え、熱エネルギー、炭素回収・利用・貯留(CCUS)、核融合型原子力発電に対しても大幅に民間投資を加速させる方針を掲げた。イノベーションと市場競争が大きなコンセプトとなる。革新的バッテリーや揚水発電では、規制障害を取り除き、市場の魅力を高める。

 熱ネットワークの展開促進や超高効率電気ヒートポンプのコスト削減等も狙う。これにより、消費者向けの価格低減を実現し、ガスボイラーを使用している消費者よりも低い価格を実現。また、ガスボイラーをヒートポンプに置き換えることで、家庭のエネルギー使用量を50%以上削減することができるという。今回、水素暖房にも大きな期待を寄せ、2025年までに大規模村落での水素暖房実証を行い、2026年に水素暖房の可能性に関する戦略的決定を下す政策も盛り込んだ。すでにエレスメア・ポートのレッドカーの2カ所で実証が行われることが決まっている。熱ネットワーク構築では、イングランド地方を対象に熱ネットワークのゾーニングも促進する。

 送配電でも、陸上電力ネットワークで市場をさらに自由化し、今後10年間での入札プロジェクトで新たな市場参入者を募る。エネルギー分野をまたぐインターコネクション制度を免許制として設けることで、ケーブル配線、陸揚地点、変電所の数を削減することも盛り込んだ。これにより、投資家やデベロッパーに確実性を与え、投資を呼び込む。スマートメーターでのサイバーセキュリティ対策も盛り込んだ。

 また、市場が健全に機能するよう、当局の規制を強化する。まず、電力、ガス、水素、CCUS等を包括的に計画・調整する司令塔機能を果たす政府機関として「Future System Operator」を新設。さらに、電力規制当局Ofgemに対し、熱ネットワーク市場の規制権限も追加し、エネルギー会社の不当な行いを監督。これにより消費者に不当に高い請求が行われることを防止する。加えて、競争市場庁が、エネルギー企業のM&Aの審査権限を特別に強化する「エネルギーネットワーク特別合併制度」を設け、市場寡占による価格上昇を抑制する。

 足元のエネルギー価格高騰対策では、エネルギー価格の上限を2023年以降も延長できる政府権限強化も盛り込んだ。これにより、ガスや電気の各単位、および1日の常時使用料の請求額に上限を継続的に設ける。加えて、低所得者向けの価格低減策として、エネルギー会社義務(ECO)制度の下で、供給者の買取制度を新設。大規模なエネルギー供給会社にエネルギー効率化や暖房対策を家庭に導入するよう義務づける。ECOは6月に導入され、2026年3月まで実施される予定。10月から実施される予定のエネルギー料金割引の金額も、200ポンドから400ポンドに倍増する。

 将来の燃料供給途絶への対策では、労働争議、悪意のある抗議活動、国家安全保障上の理由等を対象に、国務長官が石油下流部門での混乱を事前に防ぐ権限を付与。産業界にレジリエンスを高めるよう命じる権限や、潜在的な途絶に関する重要情報を政府に提出するよう命じる権限が含まれる。

 エネルギー関連施設の安全保障対策では、石油ターミナルや給油所等の石油関連施設での安全保障対策を実施。原子力発電では、「原子力第三者責任体制」を強化し、事故時の被害者への補償制度を新たに構築する。原子力発電所を警備する民間原子力警察の権限も強化する。さらに、原子力発電所の廃炉と原状回復でも世界をリードし、特に使用済み核燃料廃棄物の地層処分施設の安全性を高め、地域社会への説明能力を強化する。

 今回の法案では、海洋石油・ガス採掘に関しては、環境汚染への対策も対象とした。まず、海洋石油・ガス開発での生態系保護及び汚染防止観点での規制強化を掲げた。汚染時には、汚染者負担の原則を明言した。また、石油・ガスや炭素貯留インフラの事業運営者の規制も強化し、経営権の変更を政府当局の許可制とする。

 原子力発電に関しては、2022年に原子力法が成立し、英政府が将来のすべての原子力プロジェクトに「特別出資」する権利を留保することが盛り込まれている。7月19日には、国内で核燃料生産を促進するため、7500万ポンドの基金も発足した。英政府は、2030年までに最大8基の新規原子炉を承認する目標を掲げている。今議会で1プロジェクトを完全投資決定(FID)に、次の議会で2プロジェクトをFIDに進める考え。

 さらに今回の法案では、世界で初めて核融合エネルギーを法制化し、核融合エネルギー施設の規制体制を明確にしにいく。英政府は6月、将来の核融合エネルギー施設には、環境庁(EA)と安全衛生庁(HSE)の双方が規制権限を持つことも明確にしている。

 核融合原発では、7月25日には、英原子力庁(UKAEA)と、米核融合スタートアップのCommonwealth Fusion Systemsとの間で、5年間の共同研究を進める協定を締結。企業と連携する形で、政策を進める意向を明確にしている。

【参照ページ】Plans to bolster UK energy security set to become law
【参照ページ】Government fund to accelerate nuclear fuel supply opens
【参照ページ】UKAEA and Commonwealth Fusion Systems sign agreement to advance fusion energy

author image

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

この記事のタグ

Sustainable Japanの特長

Sustainable Japanは、サステナビリティ・ESGに関する
様々な情報収集を効率化できる専門メディアです。

  • 時価総額上位100社の96%が登録済
  • 業界第一人者が編集長
  • 7記事/日程度追加、合計11,000以上の記事を読める
  • 重要ニュースをウェビナーで分かりやすく解説※1
さらに詳しく ログインする

※1:重要ニュース解説ウェビナー「SJダイジェスト」。詳細はこちら

"【ランキング】2019年 ダボス会議「Global 100 Index: 世界で最も持続可能な企業100社」"を、お気に入りから削除しました。