
EU下院の役割を担う欧州議会は4月24日、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)の修正案を、賛成374、反対235、棄権19の賛成多数で採択した。2月にEU理事会の常駐代表委員会(COREPER)で否決された同法案は、欧州議会選挙前の最後のチャンスとして、成立まであと一歩のところまできた。
【参考】【EU】欧州議会法務委員会、CSDDD修正案通過。可決に向け望み繋ぐ。COREPERで合意済み(2024年3月22日)
【参考】【EU】EU理事会、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令案を否決。加盟国の足並み揃わず(2024年2月29日)
同指令は、EUおよびEU域内での事業規模の大きい大企業に対し、自社の事業、子会社の事業、サプライチェーンに関し、人権と環境に及ぼす実際もしくは潜在的な悪影響に関するデューデリジェンスの実施を義務化するもの。
原案では環境・人権デューデリジェンスの実施義務対象を、従業員500人以上かつグローバル売上が1.5億ユーロを超える大企業と、特定セクターに関しては従業員250人以上かつグローバル売上が4,000万ユーロを超える企業とし、さらに同指令発効から3年後には、EU域内で売上が1.5億ユーロを超えるEU域外の大企業と、EU域内での売上が4,000万ユーロを超える特定セクターのEU域外企業にも適用するとしていた。対象企業数はEU域内企業が約12,800社、EU域外企業が約4,000社と推定されていた。
修正案では、従業員1,000人以上かつグローバル売上が4.5億ユーロを超える大企業に絞り込んだ。適用スケジュールでも、同指令発効の3年後に従業員5,000人以上かつグローバル売上が15億ユーロを超える企業、4年後に従業員3,000人以上かつグローバル売上が9億ユーロを超える企業、5年後に従業員1,000人以上かつグローバル売上が4.5億ユーロを超える企業と3段階に分ける。対象となるEU域内企業は5,300社から6,800社となる。EU域外の大企業の対象基準も売上が4.5億ユーロを超える企業となった。
また適用基準に設定されている売上は、連結売上とされているが、フランチャイズ企業についても定義が明確となった。フランチャイズ企業では、EU域内売上8,000万ユーロ以上かつフランチャイズ収入2,250万ユーロを超える企業が義務対象となる。
金融機関に関しては、事業の上流サプライチェーンのみが対象となり、投融資や保険を含む下流サプライチェーンについては対象外となった。下流サプライチェーンを含む追加措置の必要性については、欧州委員会が発効後にレビューを行い、EU理事会と欧州議会に報告するという条項が盛り込まれた。
環境デューデリジェンスについては、義務適用企業に、気候変動の移行計画(トランジション・プラン)を策定する義務も課し、同様の義務を課している企業サステナビリティ報告指令(CSRD)との重複を避けるため、一つの開示で双方の義務を果たしていることになる法的調整も入った。さらに生態系・自然資本に関する内容も含まれる。
ドイツが懸念していた企業の訴訟リスク増加に関しては、悪影響を被ったと主張する個人、労働組合、NGO等からの訴訟を受け付けない期間を最低5年間設ける措置を導入した。また、証拠の提出、差止命令、訴訟費用に関する内容も盛り込んだ。
人権の定義ついては、国際労働機関(ILO)の中核的労働条件と影響を受けやすい集団(Vulnerable Group)が列挙され、環境の定義については森林破壊と生態系サービスが明記された。環境・人権リスクでの取引停止については、「最後の手段」であることも明記され、まずはサプライヤーでの遵守をエンゲージメントすることが求められることも盛り込まれた。エンゲージメントについては時間軸と手法について説明することが必要となる。
同修正案では、欧州議会での審議の前に、EU理事会の常駐代表委員会(COREPER)を3月15日に通過しているため、今後、EU理事会での採決が行われる。修正前の原案はCOREPERで合意できず、EU上院の役割を担うEU加盟国閣僚級のEU理事会での審議にも至らなかった。
CSDDDは、EU理事会で可決されると成立。EU官報掲載の20日後に発効し、EU加盟国政府は2年以内に国内法化することが義務付けられる。
【参照ページ】Due diligence: MEPs adopt rules for firms on human rights and environment
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