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【日本】GPIF水野CIO、ロンドンでESG投資の検討状況を紹介。運用会社に大きな期待と役割

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の水野弘道・理事(管理運用業務担当)兼CIOは6月6日、ロンドンで開催されたイベント「RI Europe 2017」の中で基調講演を行い、GPIFが検討しているESG投資の考え方や、運用会社への要望、GPIFの内部での議論状況等の一部を披露した。水野CIOは、英国でのプライベート・エクイティ・ファンドでの経験が長く、安倍政権の公的年金改革の一環として資産運用能力を高めるため、2014年7月にGPIFのアドバイザー兼運用委員会委員に就任。さらに2015年1月、GPIFの理事(管理運用業務担当)兼CIOの職についた。また、GPIFは2015年9月に国連責任投資原則(PRI)に署名して以降ESG投資の検討を開始しており、動向に金融機関や事業会社からの大きな注目が集まっている。

 基調講演の冒頭では、水野CIOはGPIFの運用メンバーとして参加した当初、運用成績を上げるため運用資産構成に主眼を置いており、ESG投資には全く関心がなかったことを吐露した。その後、ロサンゼルスでのイベントなどに登壇した際に、会場からESG投資に関する質問を浴びたり、同じく登壇者であった米国年金基金のコメントなどを聞くことをきっかけに、長期投資やESG投資の重要性を急速に認識、知見を吸収していったという。水野CIOは、日本社会の中にはESG投資が重視する「持続可能性(サステナビリティ)」という概念が昔から根付いていると感じており、日本の公的年金基金が国連責任投資原則(PRI)に署名し、責任投資を実施していくことについては当然だと思うようなり、実現に向け周囲に働きかけていったという。

 水野CIOは、ESG投資のコンセプトの一つである「マルチステークホルダー」についても自身の考えを披露。基本的な概念に賛同しつつも、欧米では株主だけでなく地域社会や環境など幅広いステークホルダーとの協調を推進する状況であるのに比べ、日本では株主の軽視、従業員または日本の国内社会重視への偏重が見られるとした。そのため、マルチステークホルダーという目的は同じでも、日本では異なる視点が求められることを強調した(注1)。

 GPIFが抱えるESG投資への大きな課題としては、法律によりGPIFは投資先企業に対して直接エンゲージメントすることが禁止されていることを挙げた。GPIFは、投資先に直接投資できないことは知られているが、同様にエンゲージメントすることも禁止されているため、株主としてアクションは全て運用会社を通してしか実施できない。また、巨大な投資家であるGPIFは、個別企業や経済界に影響を及ぼす行動をとることも禁止されており、行動に大きな制約が課せられている。水野CIOは、クラスター爆弾企業への投資を実施していることを指摘された際のことを例に出し、厚生労働省からはクラスター爆弾等個別事案での投資継続・引揚げ検討をすることは禁止されているとの指摘を受け、GPIF自身では実施ができないことが多いという難しさを語った。

 そのため、水野CIOは、個別事案への独自対応が禁止されているGPIFにとってのESG投資は、ESGインデックス投資が中心となるとの考え方を見せた。GPIFは現在、新たなESGインデックスの作成をインデックス開発会社に要請しているが、背景にはこのような事情があった。しかしながら、水野CIOは、ESGインデックス作成において重要なESG課題(すなわちGPIFが重視するESG課題)について、GPIFから特に提示することはないとした。長期的な企業の価値創造において何が重要となるかを考えることは、運用会社こそが考える仕事であり、運用会社はGPIFからの指針を待つのではなく、自ら考え抜くことが求められると述べた。同時に、ESG投資を重視しない運用会社に対しては、GPIFからの運用委託額を減額する(Smaller Check)ことになるだろうと言及した。

 水野CIOは、超長期投資家であるGPIFの内部にとって長期投資の重要性が極めて高いと述べる一方、GPIFの組織内部にも依然として短期志向(ショートターミズム)の考え方を持つ幹部がいることを示唆した。昨今の内部議論の中で、トランプ大統領が天然資源政策を推進する中、気候変動などでのESG投資を開始するタイミングは今でなくてもよいのではないかという声が出たことを紹介。水野CIOは、長期的な視点に立つESG投資が、だからこそ必要なのだと回答したと述べ、GPIF内部でもESG投資への理解を促進している奮闘ぶりを語った(注2)。

(注)記事は、RI Europe 2017の場での直接聞いた内容をもとに執筆した

注1:同文に対し、記事執筆後2017年6月21日にGPIFから以下内容の補足説明を頂いた。株主への配慮が弱かった日本企業も、コーポレートガバナンス・コードの導入などによって株主重視の姿勢を強めつつある。一方、株主利益を優先してきた欧米は、シングルステークホルダーからマルチステークホルダーに移行しており、日本と欧米の企業双方とも、幅広いステークホルダーと協働するあるべき姿に向かっているといえる。

注2:同文に対し、記事執筆後2017年6月21日にGPIFから誤りの指摘を頂いた。正確には、GPIFの内部ではなく、一人の運用委員(経済または金融に関して高い識見を持つ外部のアドバイザーという位置付け)の指摘を紹介したものである。GPIFの2016年12月16日の運用委員会議事要旨によると、ある運用委員は「ブレグジットやトランプ米大統領の誕生のような今年のジオポリティクス(地政学)の大きな地殻変動は、大胆に言うとESGに辟易したグループによる揺り戻しの側面がないとは言えない。個人的にはESGは非常に重要で、その方針を支持している立場であるが、場合によってはこれに逆行する流れが生まれかねないリスクがあることを十分に注意する必要がある」という発言があった。

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夫馬 賢治

株式会社ニューラル 代表取締役社長

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