【国際】PET分解酵素の研究が英国で本格化。日本人研究らの研究成果が源流に 2018/05/06 最新ニュース

 英メディアは4月16日、英ポーツマス大学の研究チームがペットボトルの原料PETを分解する酵素の研究を成果を一斉に報じた。プラスチックは自然分解が難しく、プラスチックごみ問題は年々注目を集めている。PETの酵素分解が実用化できれば新たな突破口となる。同研究の背景には、奈良先端科学技術大学院大学の吉田昭介特任准教授率いる日本人科学者らが、2016年に米科学誌サイエンスに掲載された画期的な論文がある。

 酵素は、たんぱく質またはたんぱく質と低分子の化合物から成り、生物の細胞内で合成され、生体内での化学反応の触媒となる高分子化合物の総称。吉田准教授らは、ペットボトルや衣服等の素材であるPET(ポリエチレンテレフタレート)を栄養源とする微生物が発見できれば、その生物機能を利用して、低エネルギーの「PETバイオリサイクル」の実現が可能だと考えた。自然界よりPET分解菌を探索すべく様々なサンプルを採取して実験を続けたところ、数週間後にPETくずを含む堆積物を投入した試験管の中で、PETフィルムに多種多様な微生物が集まり分解している様子を発見。この微生物群から強力なPET分解細菌を分離することに成功した。

 サンプルが大阪府堺市のごみ集積場で採取されたことから、この細菌を「Ideonella Sakaiensis(イデオネラ・サカイエンシス)201-F6株」と命名。201-F6株は、PETを分解するだけでなく、PETを「食べ」、栄養源として増殖することもわかったという。さらにこの細菌に含まれる2種類の酵素(後に「ペターゼ」「MHETase」と命名)がPETを効率よく分解し、PETの原料であるテレフタル酸とエチレングリコールに分解することも判明した。従来の人工的な原材料還元では素材としての劣化が伴っていたが、最終的に廃棄されたPET製品を、原料に戻すことに成功した世界初の事例となった。

 この画期的な研究成果が、大規模、短時間で可能となれば、サーキュラーエコノミーが実現できることになる。英ポーツマス大学の研究チームは、オックスフォード地区にあるシンクロトロン施設「ダイヤモンドライトソース」にある強力なX線照射を使用し、ペターゼの高画質3Dモデルを作成。その構造を把握した上で、ペターゼ表面の残留物の調整により酵素の効き目が向上することに注目した。吉田准教授らが発見した自然界のペターゼを人工的な操作により最適化することができることが明らかになった。

 研究チームはさらに、PETの代替品と期待されている植物由来のポリエチレンフラン・ジカルボキシレート(PEF)というプラスチックに対しても、ペターゼの実験を実行。同大学のマギーハン教授は、「この実験結果は衝撃的だった。ペターゼはむしろPETよりPEFに対して効力を発揮した」とBBCに語っている。しかしPEFの製造には産業用の植物を育成するための土地、エネルギー、肥料、水が大量に必要となるため、現状ではPETが多用されている。

 PETは、石油を主原料とするポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック素材の分類上は、ポリエステルに属している。プラスチックは一般的には合成樹脂を指すが、ポリエステルの一部には自然界で発生するものもあるという。マギーハン教授は、「(自然界の)ポリエステルは植物の葉を保護している。バクテリアは何百年もかけて、そのポリエステルを食べるよう進化してきた」と解説。一方、PETが圧倒的な量となったのはここ50年ほどのことであり、バクテリアがテレフタル酸とエチレングリコールの合成物であるPETを食べるまでに進化するには、相対的に非常に短い時間しが経過していないのだという。

 吉田准教授らの研究成果を基に、PETを食べて増殖する細菌と、それを促す役目をもつ酵素ペターゼについての研究が、海外でも本格的にスタートした。ペターゼの大規模な利用を可能にするには、PETの分解速度を加速させる必要があり、そこに至るにはあと数年かかる見通し。しかし、PET製品のクローズド・ループ・リサイクリングによるサーキュラーエコノミーの実現は、近くまで来ている。

【参照ページ】ポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して栄養源とする細菌を発見
https://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2015/osa3qr000001fh3n-
【参照ページ】PETを分解する細菌の発見
【参照ページ】Recycling hope for plastic-hungry enzyme
【参照ページ】細菌の栄養的分類
【参照ページ】微生物が特定の形の代謝物を作るために必要な酵素遺伝子を発見
【参照ページ】生分解性バイオポリエステルの高性能化

株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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