日本経済団体連合会(経団連)は4月26日、報告書「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を発行した。2030年に二酸化炭素排出量を2013年比46%減、2050年カーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)を目標とする日本政府が「国家戦略」を未だ策定していないと言及し、経団連として提言をまとめた形。
今回の報告書では、まず、原子力発電を、「積極的に活用することが重要」と明言。また、再生可能エネルギーを大量導入するには、「火力発電の活用も不可欠」とし、CCUS(炭素回収・利用・貯留)の導入が全ての前提となるとの考えもみせた。
他には、交通・輸送や蒸気エネルギーの電化・水素活用等の推進や、次世代電力ネットワークの実現も掲げた。一方、産業用の熱需要については、電化が難しい領域があるとし、水素、アンモニア、合成メタンが柱になるとの考えも披露した。そのため、水電解装置やメタネーション設備の大型化・低コスト化、海外調達を「官民を挙げて取り組まなければならない」とした。
政府への要望としては、「イノベーション」「過渡期の技術となるトランジション」「官民投資の最大化」「産業競争力」の4つの視点を踏まえ、8つの書くションを掲げた。具体的には、「エネルギー供給構造の転換」「原子力利用の積極的推進」「電化の推進」「グリーンディール」「産業構造変化への対応」「サステナブルファイナンス」「カーボンプライシング」「攻めの経済外交戦略」の7つ。
エネルギー供給構造の転換は、太陽光発電と風力発電は日本では制約があるとの立場を繰り返し、原子力発電を重要と位置づけた。ウクライナ戦争による燃料サプライチェーン途絶リスクに関しては、調達先の多角化で対応し、水素・アンモニア混焼がベストソリューションと見立てた。再生可能エネルギーにはあまり期待できないとの従来の見解を繰り返した。自動車燃料は、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、合成燃料(e-fuel)、水素燃焼、バイオ燃料を併記。航空機・船舶では、持続可能な航空燃料(SAF)とアンモニア燃料を推した。
最重要と置く原子力発電では、運転期間を60年以上に延長、小型モジュール炉(SMR)、高温ガス炉、核融合を提言した。
電化の推進では、ヒートポンプや電熱線は日本のコスト競争力が高いと見立て、普及を促した。他のイノベーションでは、ケミカルリサイクル、水素還元製鉄、カーボンリサイクル、ZEB/ZEH、ネガティブエミッション等を挙げた。一方、エネルギーと製造業以外の視点はなかった。
グリーンディールとサステナブルファイナンスでは、まず2兆円の「グリーンイノベーション基金」を大幅に上回る予算を政府に要請。その上で、民間投資を呼び込むため、情報開示等のルールを国際基準に引き上げるべきとしつつ、実際の投資促進分野は、「グリーン」ではない「トランジション」とし、政府は国際的なルール形成を手動すべきとした。
産業構造変化への対応では、事業転換に対する税制優遇や金利優遇、債務保証等を行う時限立法を求めた。雇用転換でも政府が積極的に財政出動すべきとした。カーボンプライシングでは、キャップ&トレード型が最適とした。
今回経団連は、提言した内容が実現した場合、2050年度の実質GDPは、2019年度比で91.0%増加すると試算。年平均成長率は2.1%になるとした。
同報告書の中では、「気候変動問題に対する日本人の意識が必ずしも高くないことを示唆するデータも存在する」と伝え、米ピュー・リサーチ・センターの意識調査も紹介している。
一方、英気候変動シンクタンクInfluenceMapは3月、気候政策に対して最も妨害的な25の業界団体を挙げ、経団連は17位にランクイン。経団連の方針は、国際的に評価されていない。これを覆すことを日本政府に求めても、容易ではない。
【参考】【国際】英シンクタンク、金融世界大手30社の気候変動評価。アクション不十分。短期目標設定必要(2022年4月2日)
【参照ページ】グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて
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