参議院は7月18日、改正健康増進法案を賛成176、反対60で可決し、同法が成立した。同法は、望まない受動喫煙を防止することを全面に掲げ、オフィスや飲食店等の多くの人が集まる施設内では原則禁煙とした。違反した喫煙者には最大30万円の罰金、飲食店の管理者に対しても最大50万円の罰金が科せられる。同法は段階的に施行され、東京オリンピック・パラリンピックの直前となる2020年4月1日に全面的に施行される。
今回のたばこ規制強化の動きには、2020年東京オリンピック・パラリンピックと世界保健機関(WHO)の評価が関係している。WHOは「たばこ規制枠組条約(FCTC)」を2003年に制定し、2005年に発効。2008年からはたばこ規制の進捗度を7項目にまとめた「MPOWER」に基づき、FCTC締約国の評価を実施している。日本政府は、発効前の2004年に同条約の締約国となった。
日本のMPOWER評価では、「受動喫煙の防止」「脱たばこ・メディアキャンペーン」「たばこの広告・販売・後援の禁止」の3項目で「最低」の評価をとりつづけてきた。日本政府は2013年に健康増進法を、2015年には労働安全衛生法を改正し、受動喫煙防止を強化したが、いずれも「努力義務」に留まっていた。
さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催地視察のため来日したアサモア・バーWHO事務局次長、ジュディス・マッカイWHO上級政策顧問、ダグラス・ベッチャーWHO生活習慣病予防部長から相次いで日本の受動喫煙への取組の不備を厳しく指摘され、五輪大会までに対策を講じるよう迫られていた。とりわけ、飲食店で普及している簡易な「煙流出防止措置」は、密閉の喫煙室とは同等の効果が見込めないとして、否定的な見方が出ていた。
それを受け、厚生労働省は2017年に全飲食店を原則禁煙とし違反者には罰金を科す法案を用意したが、自民党の厚生労働部会で大反発を受け、法案を国会に提出する閣議決定できない状況が続いていた。反発議員は、禁煙を飲食店に迫るのは経済的に悪影響とし、規制強化阻止や規制強化の場合は五輪会場となる東京だけに限るよう求める案、または禁煙の導入を飲食店の判断に委ねる案等も出ていた。その後1年を経て、ようやく2018年3月に閣議決定、厚生労働省の原案に小規模飲食店への例外措置を広く盛り込んだ形で今回の成立に漕ぎ着けた。
今回の法律により、学校や病院、児童福祉施設、行政機関、バス、航空機等は敷地内が全面禁煙となり、屋内に喫煙室を設けることもできない(屋外は可)。一方、鉄道、船舶、飲食店、オフィスについては、同様に禁煙となるが屋内に禁煙室を設けることは可能。但し、喫煙できる場所には20歳未満の客や従業員が立ち入ることはできなくなる。また、個人または出資総額5,000万円以下で客席面積100m2の飲食店(全国飲食店の55%程度)は、例外的に禁煙義務の対象外とし、別の法律で定めることとした。但し、喫煙可能な飲食店の場合はその旨の掲示義務が課され、20歳未満の客や従業員は店内に入れなくなる。店内に煙の流出防止措置を講じている場合は、非喫煙スペースには20歳未満の客や従業員は入ってもよい。
電子たばこ等の加熱式たばこも同様に規制の対象となる。加熱式たばこは原則屋内での喫煙が禁止となり、学校や病院、児童福祉施設、行政機関、バス、航空機等では、加熱式たばこの屋内喫煙室を設けることも同様に禁止。それ以外の場所では、喫煙室でのみ喫煙が可能となる。
旅館やホテル等の客室ではいずれの場合も喫煙は禁止されない。
同法の施行は、学校や病院、児童福祉施設、行政機関、バス、航空機等に関する部分は、2019年夏頃に前倒しで施行され、詳細は政令で定める。それ以外は2020年4月1日に施行される。
それとは別に、東京都では、受動喫煙防止条例が6月5日に成立し、改正健康増進法よりも厳しい対策が導入されることが決まっている。東京都の条例では、2020年4月1日以降、いかなる飲食店であっても、従業員を雇っていれば、大規模店舗と同じく原則禁煙となり、喫煙室がある場合のみ喫煙が可能となる。また、小中高校や保育所、幼稚園は、屋外の喫煙場所の設置も禁止され、敷地内全面禁煙が義務化される。さらに飲食店では、禁煙店舗でも禁煙を示すステッカー掲示が義務付けられる。後者の2つについては、2019年9月1日までに規則で定める日から施行される。
【WHOレポート】WHO report on the global tobacco epidemic 2017
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