欧州委員会は5月23日、グリーン水素製造に関する委託法令2本の原案を発表。欧州議会とEU理事会との協議を開始した。6月17日までパブリックコメントを募集する。すでに、一部の企業からは厳しすぎるとの声も上がっている。
EUでは3月、ロシア依存度を2030年よりかなり前にゼロにする計画「REPowerEU」を発表し、2030年までにグリーン水素の年間生産量を1,000万tにする計画を発表。5月には、欧州委員会と電解槽メーカー20社との間での会合を開かれ、2025年までに電解槽の製造能力を10倍の17.5GWにまで拡大することを共同宣言していた。賛同した20社は、ボッシュ、カミンズ、シーメンス・エナジー、ティッセンクルップ・ニューセラ、サンファイアー、McPhy、ジョン・コックリル、NELハイドロジェン、ソリッドパワー、ハイスター、H2B2、メタコン、グリーン・ハイドロジェン・システムズ、Genvia、Enapter、Elogen、DeNora、コンビオン、アドベント。
【参考】【EU】欧州委、ロシアからの化石燃料依存度を2030年前にゼロへ。再エネ・グリーン水素加速(2022年3月9日)
また共同宣言では、グリーン水素プロジェクトの加速化に関する立法や、質の高いプロジェクト案のみを政府の支援対象とすることへのコミット等も盛り込んでおり、今回、2018年に制定された再映可能エネルギー指令に基づく委託法令案を示した形。
委託法令案の1つ目は、交通・輸送で燃焼燃料として活用するグリーン水素活用に関する規制。液体水素と気体水素の双方を含む。まず、グリーン水素は、バイオマス以外の再生可能エネルギーで発電された電力で水電解した水素と定義。また、アディショナリティ(追加性)を確保する観点から、今後新設される再生可能エネルギー発電が的確な電源となると限定。これにより、水電解用の電源を再生可能エネルギー発電に寄せる代わりに、通常の電源増加のため、火力発電が増えることを防ぐ。また、対象との発電所は、補助金を受けていない発電に限定した上で、消費した電力と発電された電力が一致することを保証する同時性の原則も課す。
2つ目の委託法令案は、再生可能エネルギー指令で定められた削減目標を満たすため、グリーン水素と合成燃料(eFuel等)のライフサイクルでの排出量算出ルールを提示した。合成燃料の活用では、通常燃料に比べて二酸化炭素排出量をライフサイクル全体で70%以上削減できる場合のみ認められると限定。ライフサイクル全体の算出式は、合成燃料の生産原料の生産での排出量、及び加工、輸送、最終残渣の廃棄を全て加算した上で、CCSで回収した分は控除できる。
これらの2つの委託法令案は、欧州議会及びEU理事会との政治的合意後、最終法案を双方に提出し、EU理事会での2ヶ月の精査期間を経て、欧州委員会が最終的に制定する。2026年12月31日までに施行されるとしている。
これに対し、独電力大手RWEは同日、要件が厳しすぎると指摘。今後、新たな風力・太陽光発電所の計画や承認プロセスが加速されるとしても、補助金のない新設の再生可能エネルギー発電電力のみが対象となれば、2030年までにグリーン水素の大量製造は不可能と見立てた。また、同時性の原則を追求しすぎれば、設備稼働率が一定でない再生可能エネルギー発電により、グリーン水素製造設備の稼働率も不安定になり、運用の複雑化や水素価格の高騰を招くとし、再考を求めた。
一方で同社は、グリーン水素の生産拡大のため、今後数十億ユーロの投資を行うことも表明した。EU加盟国に対し、電解槽での電気分解に使用する電力分を、国家の再生可能エネルギー増加目標に加える必要性も指摘した。
【参照ページ】Commission launches consultations on the regulatory framework for renewable hydrogen
【参照ページ】Hydrogen: Commission supports industry commitment to boost by tenfold electrolyser manufacturing capacities in the EU
【参照ページ】New Delegated Act puts brakes on green hydrogen
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