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【日本】政府、パリ協定提出文書で2015年CO2目標を据え置き。環境省は今後の展開で粘り

 首相官邸の地球温暖化対策推進本部は3月30日、パリ協定に基づき加盟国が気候変動枠組条約(UNFCC)事務局に提出することが義務付けられている国別削減目標(NDC)のレビューを実施し、提出する内容を決定した。これを受け環境省は、更新版を3月31日に事務局に提出すると発表した。

 今回の見直し作業は、パリ協定の規定に基づくもの。パリ協定は、2015年に加盟各国が提出した目標草案(INDC)を見直し、再検討した内容を2020年の3月までに提出することを義務付けている。その後も5年毎に、同年の締約国会議(COP)開催の12ヶ月から9ヶ月前に事務局に提出することが条文に盛り込まれている。特に2020年の目標提出では、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、INDCでは気温を3.2℃にしか抑えられず、1.5℃には程遠いとして目標の引き上げを各国に要請していた。さらに日本政府に対しては、機関投資家団体からも目標の引き上げを求める共同声明が届いていた。

【参考】【日本】機関投資家631団体4000兆円、安倍首相に2030年までのCO2削減目標引き上げ要請(2020年2月19日)

 日本が2015年に提出したINDCの内容は、

「2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)にすることとする。」

となっており、「2030年度に2013年度比▲26%(2005年度比▲25.4%)」が日本政府としてのコミットメントだった。

 それに対し、今回決定したNDCは、

  • 我が国は、2030年度に 2013年度比▲26%(2005年度比▲25.4%)の水準にする削減目標を確実に達成することを目指す

というもので、INDCの内容を据え置き、グテーレス国連事務総長が要請した目標の引き上げには応じなかった。環境省が目標の引き上げに動いた様子はあるが、最終的に首相官邸レベルで目標引き上げに関する会議が開催されることも検討されることもなかったため驚くには値しない。経済産業省は、次のエネルギー基本計画となる第6次エネルギー基本計画を2021年に確定するスケジュールで動いているため、据え置きは当初からの既定路線だったと言える。エネルギー基本計画に基づき二酸化炭素排出量削減目標を設定することを是としている経済産業省が、今回も目標の引き上げに強く抵抗したことが伺える。

 しかし、今回、環境省がとりまとめたNDCでは、INDCにはなかった以下の文言が併記された。環境省が粘り強い交渉を勝ち取った成果とも言えるだろう。

  • また、我が国は、この水準にとどまることなく、中期・長期の両面で温室効果ガスの更なる削減努力を追求していく。
  • これに基づき、地球温暖化対策計画の見直しに着手し、パリ協定及び関連するCMA決定に基づき、明確性、透明性及び理解のために必要な情報を、計画の見直しの後に提出する。
  • 加えて、NDCの削減目標の検討は、エネルギーミックスの改定と整合的に、温室効果ガス全体に関する対策・施策を積み上げ、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を目指し、次回のパリ協定上の5年ごとの提出期限を待つことなく実施するとともに、提出期限に伴うNDCの提出は、直近のエネルギーミックスに整合したNDCを提出するものとする。

 いずれの文言も国連にとって大きな意味のあるものではないが、霞が関内部での交渉術が念頭に置かれている。まず、「この水準にとどまることなく」という文言が盛り込まれたことで、現行「2030年度に2013年度比▲26%の水準」を是とせず、引き上げに動くことが明記された。今後の見直し議論を進めることが、首相官邸での会議で決定されたことの意味は必ずしも小さくはない。

 次に、NDCの削減目標の再検討については「次回のパリ協定上の5年ごとの提出期限を待つことなく実施する」とし、すぐに国内での議論を開始できる大勢を整えた。小泉進次郎環境大臣は、記者会見の中で、「地球温暖化対策計画」の見直しに着手し、同計画を見直しした後、今年11月に開催されるCOP26までに事務局に追加情報を提出すると明言した。

 日本政府内での今後の展開としては、地球温暖化対策計画とエネルギー基本計画の議論がどのように進むのかに注目が集まる。2021年に固めるエネルギー基本計画は、今年中に議論が開始されるが、経済産業省としては、二酸化炭素排出量削減目標を引き上げなければならないのであれば、原子力発電の再稼働・新設の議論を浮上させることが予想される。しかし国内での原発の慎重議論は根強く、どこまで再生可能エネルギーに真剣に取り組めるかが帰趨を決する。

 環境省が早期決着を図りたい地球温暖化対策計画見直しでは、エネルギー基本計画の前にエネルギー起源の二酸化炭素排出量削減目標には手を付けることは難航が予想されるため、非エネルギー起源での二酸化炭素排出量削減をどこまで積み上げるられるかが重要。そのうえでエネルギー起源での削減につなげる覚悟が必要となる。

 世界では、すでに70カ国以上がINDCからの目標引き上げを実施した。日本は今後の展開の話をすることで、なんとか削減目標を引き上げなかったことのレピュテーションリスクを緩和したい考えだが、その後の議論が矮小化してしまえば、さらなる失望を招きかねない。

【参考】【国際】COP25、2050年までのカーボンニュートラル宣言は72ヵ国とEU。日本は28自治体宣言も意味は異なる(2019年12月19日)

【参照ページ】「日本のNDC(国が決定する貢献)」の地球温暖化対策推進本部決定について
【参照ページ】日本の約束草案

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株式会社ニューラル サステナビリティ研究所

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