環境NGOは5月19日、深海底の多金属鉱床採掘による社会・環境インパクトを調査したレポートを発表した。深海底の実態については、研究者たちでさえ十分な把握が出来ていないにも関わらず、世界で資源獲得競争が激化していることを危険視し、採掘活動を一時的に停止するよう警鐘を鳴らした。
今回のレポートは、米オーシャン財団の「Deep Sea Mining Campaign」と、同キャペーンをサポートしているカナダ環境NGOのMining Watch Canadaが250本以上の科学文献をレビューし、まとめたもの。Deep Sea Mining Campaignは、2011年後半に南太平洋で海底資源採掘ブームが始まったことを機に発足し、自然保護活動を呼びかけている。
多金属鉱床とは、深海底で自然に生じる2cmから10cmサイズの金属の塊(ノジュール)で、鉄、マンガン、銅、ニッケル、コバルト等を豊富に含んでおり、太平洋に多く存在する。マンガンやコバルトは、バッテリーに使用されており、企業や投資家の間では、再生可能エネルギー開発を支える新たな資源として注目を集めている。他の金属も今後の需要が大幅に伸びると見られている。
【参考】【国際】再エネ化で金属・レアメタル需要が2050年までに大幅増。世界銀行が予測レポート発表(2020年5月24日)
太平洋は、広範な地域がどの国の領海にも属さない公海扱いとなっている。国連海洋法条約の発効と共に発足された国際海底機構(ISA)は現在、日本、中国、韓国、シンガポール、英国、ドイツ、フランス、ロシア等に、深海底鉱物資源を探査する許可を付与しており、2020年内には、海底資源の開発を可能にするための「国際規則」が策定される予定。それに伴い、多くの企業は10年以内に太平洋の海底で採掘作業を始める計画を進めている。
しかし今回のレポートでは、現在の研究において深海底の採掘および生態系に関する情報は非常に限られており、不確定要素が溢れていると強調。そのため、各国が環境配慮を謳って計画および実施している深海採掘活動は、科学的根拠の乏しい推測に過ぎず、独立した研究を進める必要があると主張した。
また、水中探査装置(ROVs)を活用して深海底の観察および試験を行った結果、ノジュールの採掘は、深海底の生息地をほぼ恒久的に破壊する行為であることが判明している。これは、深海底にはノジュールの表面で生息する生物が多く存在していることと、ノジュールの形成には数百年の月日を必要とするため、一度採掘されると生息地の再生はほぼ不可能になるという。
同レポートは、採掘開発がもたらす社会的および環境的インパクトを現時点で具体的に提示することは、研究が追い付いていないために困難であると提言しつつも、マンガン団塊の採掘が海洋生態系に長期的に深刻な影響を与えることは明らかであり、様々な実態がもう少し明らかになるまでは、開発事業を停止すべきと訴えた。
【参照ページ】Predicting the Impacts of Mining Deep Sea Polymetallic Nodules in the Pacific Ocean: A Review of Scientific Literature
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