食品世界大手スイスのネスレは1月27日、カカオ生産での児童労働リスクに対処するため、新たな計画を発表した。カカオ農家の所得向上、リジェネラティブ農業の導入、ジェンダー平等を同時に進める。
同社は、2009年から「ネスレ・ココア・プラン」を通じて、児童労働問題に対処。2012年からはモニタリングおよび救済メカニズムを導入し、累計で児童149,443人を児童労働リスクから保護し、学校53校を建設または改修してきた。しかし、カカオ農家は、農村部での貧困の蔓延、気候変動リスクの増大、金融サービスや水・医療・教育等の基礎的インフラへのアクセス不足等、大きな課題に直面していると指摘。これらの複雑な要因が、家族経営農場での児童労働リスクを高めているとし、構造的に課題に対応する。
【参考】【スイス】ネスレ、カカオ産業での児童労働撲滅進捗発表。8.7万人に救済措置。児童労働発覚は1.8万人(2019年12月12日)
今回発表のプログラムは、まず、中小規模のココア農家への寄付から始まる。プログラム開始から2年間、世帯当たり年間最大500スイスフラン(約6万円)を支給。これにより中小規模の農家が収量向上や所得向上の施策を始めやすくする。さらに、一定の成果を上げると追加で年間250万スイスフラン(約3万円)が支給される。
成果指標は、カカオの販売量等に応じたものではなく、サステナビリティ指標が設定されている。具体的には、世帯内の6歳から16歳までのすべての児童の学校への入学、剪定等の適正農業規範の実践、気候変動への抵抗力を高めるためのアグロフォレストリーの導入、他の作物の栽培、家畜の飼育、養蜂、キャッサバ栽培等を通じた所得向上等。予算は、2030年までに現在の年間支出額の3倍以上となる13億スイスフラン(約1,600億円)を予定。コートジボワールとガーナの両政府は、カカオに対しプレミアムの支払いを義務化しているが、今回の施策はそれとは別途追加される形の支給になる。
【参考】【国際】ガーナとコートジボワール、カカオ最低価格を2600米ドルに設定。購入企業側も承諾(2019年6月17日)
世帯への資金給付は、農作物のトレーサビリティを確保するためにもモバイル決済で直接支給。学期開始時や雨季準備等の必要なタイミングでは、現金給付も用意する。国際カカオイニシアチブ(ICI)やレインフォレスト・アライアンス(RA)等のNGOがモニタリングを担う。さらに給付は、世帯主と配偶者で分割し、特に子育てを担っている女性にも確実に資金が行き届くようにし、ジェンダー平等も支援する。
資金給付以外にも、ジェンダー・アクション・ラーニング・システムや、家計簿や起業家精神に関する研修も実施。毎年、協同組合内で剪定等の農業作業を行う地域グループを組成し、集合研修も行う。女性を中心とした農村の貯蓄貸付組合(VSLA)の設立も支援する。
リジェネラティブ農業の展開では、すでに2020年にコートジボワールの農家1,000世帯を対象に実施した最初のパイロットプログラムが順調なため、2022年にはプログラムを拡大。同国の1万世帯を対象とし、2024年にはガーナにも拡大する予定、その後、テスト段階の結果を評価し、必要に応じて変更を加え、2030年までにグローバルなカカオサプライチェーンのすべてのカカオ農家に展開する予定。
同社はトレーサビリティとしても、農地から工場までの完全なトレーサビリティーと分別(セグリゲーション)を実現。2023年にキットカットの一部から導入される予定。カカオ農家は、レインフォレスト・アライアンス(RA)の「持続可能な農業スタンダード」に基づく監査も受ける。また仕組み全体に関しても、Sustainable Trade Initiative(IDH)が運営するマルチステークホルダー戦略諮問委員会が助言する。
【参照ページ】Nestlé announces innovative plan to tackle child labor risks, increase farmer income and achieve full traceability in cocoa
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